再び脚光を浴びる人工光合成

酸化チタンに光を当てると水が分解することを当時大学院生の 藤嶋昭 氏が発見して以来、これを発展させようと数多くの研究がなされてきた分野が 人工光合成 です。 人工光合成とは読んで字の如く光合成を植物の力に依るのではなく 人工的に発生させようと言う研究です。

光合成とは植物が光を浴びて養分を作り出す、 と言う様な曖昧な覚えしかないのですが、これともう一つ、 植物は二酸化炭素を吸って酸素を吐き出してもいるのを併せて光合成と呼ばれるのは ちゃんと小学校の理科の時間を聞いていた人にはお分かりでしょう。 養分と酸素を供給してくれる地球上にも人間にも 大事な役目を植物は担っていることを教えようとしている訳ですね。

この植物の光合成にまとまる2つの役目が分断されて覚えている方が居るとすれば それも強ち不自然な話しではないのは光合成の作用はその通り2つに分けられるそうなのです。

一つ目が 明反応 (第1プロセス)で水を水素と酸素に分解します。 これによって植物は酸素を吐き出す訳です。

二つ目が 暗反応 (第2プロセス)で明反応で出来た水素と空気中の二酸化炭素から養分(有機物)を作り出します。 ここで二酸化炭素が消える訳ですね。

この人工光合成の研究成果が 去年2011年の東日本大震災以降に次々と上げられて来ています。 以下に挙げて見ましょう。

エネルギー危機に直面するとこの人工光合成の研究は活気付くのでした。 石油ショックの後に第1次のブームがありましたが 石油価格の下落と共にその勢いは削がれてしまいました。 今又活況を見せ始め、第2次のブームが始まりつつあるとも言えます。

人工光合成の要諦は明反応に有るとされます。 なんとなれば水素があればなんでも出来るとされるからです。

水素の形では電池のように放電することもなく大量に長期間の備蓄可能になります。 水素は電気に変換され燃料電池としても機能します。 また燃焼に依ってタービンを回す発電も可能です。 広義の人工光合成には太陽光発電も含まれますが、 それは得られた電力で水を電気分解し水素を得られるを以てのことなのでした。

更には水素は二酸化炭素と化合しガソリンやエタノールの合成もなります。 また窒素と合成すれば食料生産を活性化する化学肥料にもなります。 以上挙げたような用途の幅広さを以て水素があればなんでも出来るとされるのです。

太陽エネルギーには再生可能エネルギーとして従来3つの形態が周知されて来ました。 太陽光発電、太陽熱、バイオマスです。 人工光合成は無尽蔵とも言える太陽エネルギーの一つの利用法として、 第4のバリエーションとしてもっと周知されるべきでしょう。

大震災以降のエネルギー問題への関心の高まりで 様々な代替エネルギー研究が活況を呈し更には実用化されています。 人工光合成は長年の研究成果の積み重ねも有り、 更には再生可能エネルギーへの世論の期待も有って、 今回は第1次ブームのように萎縮したりはしないのではないでしょうか。

追記(2012年7月30日)

パナソニックからプレスリリース 窒化物半導体の光電極による人工光合成システムを開発 が配信されました。 世界最高の効率0.2%(2012年7月30日時点)で有機物を生成するシステムです。 二酸化炭素を資源化し、循環型エネルギー社会の実現に大きく前進するとしています。

追記(2021年4月23日)

人工光合成に関して興味深い情報を、 共同通信、朝日新聞、日経新聞、日刊工業新聞、など各メディアが挙って取り上げています。 旧来の大手メディアでは記事は大凡一定期間を経過すると削除されますので、 ネットに親和性の高いソフトバンク系列のアイティメディア株式会社の2021年4月22日配信の記事[※4] にリンクを貼り置きましょう。

豊田中央研究所リリース本文[※6]より引用

トヨタ自動車グループの豊田中央研究所の成果ですので、 正式には当該社のニュースリリース[※5] を参照されると宜しいでしょう。 リリース本文の詳細はPDFファイル[※6] にても配信されています。 此処にリリース本文に図1として記載されている「人工光合成の基本原理」を引用掲載しますが、 本記事に紹介した人工光合成からは些か違和感を覚えるのも確かで、 豊田中央研究所の言う基本原理は、本記事2021年4月23日追記のパナソニックのものとも類似するかに思います。 何となれば人工光合成たる水と二酸化炭素から有機物を錬金する機能は勿論満たしているのですが、 本記事に紹介するに人工光合成の要諦は、水を水素と酸素に分解する 明反応 にこそあると考えるからです。 現在水素自動車を強く押し出すトヨタ自動車系列であれば猶更です。 何故直接水素を生成、蓄積せず、一度ギ酸を生成してから後、発電等に利用するのか、という部分に僅かながらも違和感を覚えるのです。

本記事に記したところを補完するべく 国立研究開発法人科学技術振興機構 の運営する科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」の2020年11月26日配信の記事[※7] へもリンクを貼り置きしょう。 当該記事では現在人工光合成研究のトップランナーの一人たる東京都立大学大学院都市環境科学研究科環境分子応用化学域特別先導教授の 井上晴夫いのうえはるお 氏の語る人工光合成の社会的意義と未来が記載されているのを読め、 氏が取組み中であるのが (光)触媒開発 であるのが知れます。 また説明図では姿かたちは太陽光発電パネルに似ながらも発電ならぬ、 パネルが水を水素と酸素に直接、電気を用いないで、分解している様子が窺えます。 此れが、パナソニック、豊田中央研究所の研究が太陽光発電パネルで発電した電気を利用しているのと異なる部分です。

トヨタ自動車は、世の中が電気自動車へシフトする中、 水素自動車に注力しながら米国等に梯子を外され、 現在最高益を上げながらも、事業転換に四苦八苦している印象を受けます。 同社はテスラ社との連携や、全固体電池の実用化について、多少訝しがられる情報の伝えられるなど、 遺伝子的にカラクリ企業でありながら電気自動車転換期にあって、電気関連の報道に暇がありません。 今回の各報道も同社に対する期待の顕われであるかに見えます。 個人的にはトヨタには織機から自動車に業態転換した様に、電力会社への転換が好適な様に考え、 同社の現在進行形の技術力を以てすれば強ち荒唐無稽とも思えないように感じます。 多くの従業員を擁し、日本製造業最後の砦ともなり兼ねない状況を鑑みれば、奮闘を望みたく思います。

参考URL
  1. 意外にいける? 太陽エネルギーを蓄積する人工光合成の現実味(日経BP ECO JAPAN:2011年1月31日:2019年8月19日現在記事削除確認)
  2. 光合成の中核をなす複合体の構造を解明 ~人工光合成への大きな一歩を踏み出した~(SPring8)
  3. いよいよ”人工光合成”が実現!?「水+太陽光+粉=R水素」が、これからのエネルギーの方程式だ!(greenz.jp:2012年4月1日)
  4. “植物超え” 世界最高効率の人工光合成に成功 CO2再利用へ前進 トヨタの研究所(ITmedia NEWS:2021年4月22日)
  5. 太陽光でCO2を資源に! 人工光合成の飛躍的進展(2021年4月21日:株式会社豊田中央研究所)
  6. 太陽光でCO2を資源に!人工光合成の飛躍的進展~実用太陽電池サイズのセルで世界最高の変換効率7.2%を実現~(2021年4月21日:株式会社豊田中央研究所:PDFファイル)
  7. 自然に学び、未来を築け 人工光合成への挑戦 ≪特集 令和2年版科学技術白書≫(2020年11月26日:Science Portal)
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