ヤマダ電機のベスト電器買収

家電量販店業界の業界再編の動きの兆しかも知れないと伝えたのは Acenumber Technical Issues ブログの2012年5月12日の記事 エディオン対ビックコジマ連合~家電量販店の敵は家電量販店か? でした。

株式会社ビックカメラが株式会社コジマを傘下に収め業界4位から2位に繰り上がれば 2位から3位へ転落したエディオンは自らのストアブランドの統一および新ブランドマークを導入して 地歩を固める動きに出るなどの動きを知らせて処です。 すわ業界再編かとの声も挙がるや逆に否定の向きもあるなど、 孰れ騒然とする中業界首位に君臨する 株式会社ヤマダ電機 は静観を保つといったように見えていましたが、 この頃から水面下で動きはあったようです。

ヤマダ電機店舗外観(2019年2月9日撮影)
ヤマダ電機店舗外観(2019年2月9日撮影)

何となれば本日2012年7月12日に業界8位の 株式会社ベスト電器 を買収する方針を固めたとメディアが一斉に取り上げたからです。 これに対してヤマダ電機はプレスリリース 本日の当社に関する一部報道について を急遽配信、以下引用の如く主張されています。

本日、一部報道機関において、 当社による株式会社ベスト電器の第三者割当の引受けに関する報道がなされておりますが、 当社として発表したものではなく、 現時点において公表すべき決定事実はありません。

しかし孰れにせよかたむき通信2012年5月15日の記事 有機ELテレビ事業提携交渉~追い詰められたパナソニックとソニー呉越同舟 で ソニー、パナソニック、シャープ、NECなど名立たる家電メーカーが総赤字、 それも並々ならぬ赤字額が喧伝され、また2012年7月9日の記事 クソ株ランキング2012上半期にノミネートされる企業をビジネス記事に見直してみた では別角度からソニー、パナソニック、シャープの苦境を伝えたように、 軒並み家電大手が喘ぐ状況下に家電量販業界が無事でいられる筈もありません。 それは例えばエコ家電特需の反動を考えても明らかです。

買収を伝えるメディアの一つMSN産経ニュース ヤマダ電機、ベスト電器買収へ ビック・コジマ連合引き離す (2019年7月4日現在配信サイト停止確認)には当のヤマダ電機は報道を否定するも以下引用のように事細かに買収の要件が述べられます。

ヤマダはベスト株の7・5%を持つ第2位株主。 保有分と、ベストによる第三者割当増資の引き受け分を合わせ、 出資比率を50%以上に高める。 ベストはヤマダの連結子会社となった後も上場を維持し、 店名も変更せずに営業を続ける。

ヤマダ電機は群馬県高崎市に本拠を置き全国区とは言え東日本の地盤が強固です。 それに対しベスト電器は福岡市博多区と九州が本拠地ですから 西に強いことは間違いありません。 上に挙げたビックカメラが2位に追い上げ、 エディオンが西の地盤強化を図る中、 ヤマダ電機に取ってもベスト電器に取ってもこの買収案件に得る処は大きいでしょう。

もしこの買収が確定すればヤマダ電機は連結決算で 2011年に2兆円を切っていた売上高が大台に復帰することになり、 現在2012年7月中旬の時点で米ドル換算すれば約251億ドルとなり、 かたむき通信に本日配信した記事 フォーチュン誌GLOBAL500(世界売上ランキング)日本企業一覧 での国内ランキング65位だったヤマダ電機は マツダとコマツの間に割って入る58位迄一気にランクアップすることになります。

ヤマダ電機自身は未だこの買収事案を肯定するものではありませんが、 スケールメリットも増し、上に述べた国内家電量販店状況からも 傍目にはメディアの伝えるのは極く自然な流れであることは確かです。 これ等鑑みても近い内にはっきりした状況が再度伝えられるものと思われます。

追記(2019年7月4日)

2017年4月付けで株式会社ヤマダ電機を株式交換完全親会社とし、株式会社ベスト電器を株式交換完全子会社とする株式交換契約が締結されました。 本記事で紹介より約5年を経て実現した買収案件になります。 現在、ヤマダ電機サイトの企業情報を閲覧すればグループ会社一覧項目にはベスト電器が当然ながら記載されています。 またベスト電器サイトの企業沿革を閲覧すれば本記事配信から実現に至る過程を時系列で追えますので、 当該行のみを以下に抜粋してみましょう。

  1. 平成24年(2012)7月:(株)ヤマダ電機と資本・業務提携契約を締結および同社に対する第三者割当による新株式の発行を決議
  2. 平成24年(2012)12月:(株)ヤマダ電機に対する第三者割当による新株式を発行
  3. 平成25年(2013)9月:山口県以東の21店舗をテックランド店舗として活性化
  4. 平成29年(2017)4月:(株)ヤマダ電機を株式交換完全親会社とし、(株)ベスト電器を株式交換完全子会社とする株式交換契約を締結

1行目は、本記事末尾を「近い内に」と結んだ舌の根のも乾かぬ、 実に配信の翌日の2012年7月13日付けで本記事内容を全く覆すべく、 ベスト電器の実施する第三者割当増資の引き受けを決議し、資本業務提携契約を締結した旨のリリース[※1] が配信されているのに準ずる事項で、 情報漏洩に関する企業のインシデント対応が窺えて興味深くあります。 公正取引委員会からの独占禁止法に関する関与などもリリースには記載され、 此の様な事情もメディアに公にされると困る部分で、 翌日に実際に公表予定が控えていたか、実のところは予定外に前倒しの翌日の公表を余儀なくされたのかは分かりませんが、 飽く迄メディア報道の当日は否定の姿勢を崩せなかったのかも知れません。 而して2行目の第三者割当株式引き受けの粛々たる実行となるのでしたが、 此の時点では、共同商品調達、共同商品開発、物流及びインフラの相互活用等で相互業務にシナジー効果を齎す資本業務提携に過ぎず、 買収と呼ばれる類の契約ではありませんでした。 此の資本業務提携を以て3行目のテックランド店舗の活性化[※2・3] につながっているのであって、 一気の事業統合を避け、管理及び現場、また関連法規や店舗展開する地域での実情を鑑みた擦り合わせ段階かに思われます。 斯うして愈々最下行のヤマダ電機によるベスト電器の完全子会社化に着地[※4] したのでした。 此の際には各種メディアが様子を伝える記事[※5・6・7] を配信しています。 ともあれ其の買収事案を連結子会社化について肯定はなくとも周辺状況から極めて妥当と評した本記事の配信より数えて4年と10箇月、 水面下での交渉を加えれば更なる長期間となるべき準備期間を経ての買収案件となったのでしたが、 振り返ってみれば、水面下にも周到に事を進めていた様子が窺い知れ、 本記事配信時にメディアに素っ破抜かれたのはどうやら想定外で、 狼狽すべき事態ではあったようです。

参考URL(※)
  1. 株式会社ベスト電器との資本業務提携及びそれに伴う第三者割当増資の引受けによる子会社の異動に関するお知らせ(ヤマダ電機:2012年7月13日)
  2. 株式会社ヤマダ電機と株式会社ベスト電器との資本・業務提携における公正取引委員会へ申し出た 10 地域の問題解消措置に関するお知らせ(ヤマダ電機・ベスト電器:2013年8月1日)
  3. 株式会社ベスト電器の一部店舗の「テックランド」化に関するお知らせ(ヤマダ電機・ベスト電器:2013年9月12日)
  4. 株式会社ヤマダ電機による株式会社ベスト電器の簡易株式交換による完全子会社化に関するお知らせ(ヤマダ電機・ベスト電器:2017年4月12日)
  5. ヤマダ電機/ベスト電器を完全子会社化(流通ニュース:2017年4月12日)
  6. ヤマダ電機がベスト電器を完全子会社化(BCN+R:2017年4月12日)
  7. ヤマダ電機がベスト電器を完全子会社化。ベスト電器の店舗ブランドは維持(AV Watch:2017年4月13日)
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