稲盛和夫氏主導JALの奇跡のV字回復再上場とLCCスカイマークの挑発的サービスコンセプト

まさかの再上場は2012年6月20日のこと、 2011年4月1日に商号を 日本航空株式会社 に復活させた、通称 JAL が東京証券取引所第1部に申請したのでした。

2010年1月19日に東京地裁に会社更生法の適用を申請し、翌2月に上場廃止とされたJALはしかし、 8月中に承認が受けられれば9月19日には再上場の運びとなり、 凡そ2年半の短期間での上場復帰となります。

上場廃止時には紙切れとなったJAL株券を保有していた株主には申し訳ないとしながらも、 この再上場の立役者、一代で京セラ、KDDIを築き上げ最後の名経営者と言われる 稲盛和夫 氏は現在JAL株式の約96%を保有する官民出資の企業再生支援機構が 上場益を得ることで国にお返しが出来るのでご寛恕いただきたいとします。

株主がリスクを負うのは当然のことですし、 倒産時、国が助けるべきでないとあれだけ騒がれたJALが こうなってみれば国に一銭の負担もさせることなく、 数万人の雇用を守る企業として存続がなるのですから、堂々たる主張であると考えます。

稲盛氏が倒産JALの経営を引き継いだのが正しく上場廃止の2010年2月、 稲盛和夫会長、大西賢社長の新体制でJALは再建を目指したのでした。 この際には何故稲盛氏が、と言う論説が世を飛び交い、大変な話題となりました。 恐らくは多くの人がまさかという思いでいたのではないでしょうか。 はっきりと親方日の丸のJALは悪役であり、 態々稲盛氏が救いの手を差し伸べるまでもないという論調だったのです。 そして矢張り如何な稲盛氏でも此処迄堕ちたJALの再建は無理であろう との予測が大方を締めていたのでした。

しかしそれから一年ほど、 JALは目覚しい復活劇の中にありました。 ちょうどその頃日本を未曾有の大震災が襲いました。 2011年3月11日東日本大震災です。 JALもその影響を受けないではいられないませんでした。 搭乗客は予想通り減じ赤地転落です。 ところがこの時点でJALは揺ぎ無い体制をきずいていたのです。 その後はまた直ぐにも復活基調を取り戻します。

この大震災から2ヶ月ほどの時点5月に 滝川クリステルさんによる稲盛氏へのインタビューがなされた記事が 日経 WEB BOETHEウェブゲーテに配信されています。 スペシャル対談 稲森和夫×滝川クリステル (「WEB GOETHE」は2018年2月22日付けでサービス提供を終了しています。)です。 とても含蓄深い内容になっているように思います。

やはり周囲はJAL再建引き受けには反対の嵐だったことも語られます。 晩節を汚す とまで言うのは如何にも厳しい意見ですがそれは大方の世論であったようにも記憶します。 本当に周りの方は稲盛さんを心配していたのですね。 稲盛氏も当初は、私の任じゃありません、として断わり続けていたのでした。 これを反転、再建役受諾を決心させた大きな理由こそ、 系列会社を含めた5万人もの雇用確保でした。 この巨大企業の倒産が只さえ弱体化している 日本経済に与えるダメージの大きさを慮ってのことでもありました。

ただし復活のためには鬼にならざるを得なかったのも確かです。 雇用確保を大きな目的としながら1万5千人からの従業員は、 希望退職、解雇などで切り離さざるを得なかったのです。 切られる身となれば憤懣遣る方ないのは尤もですが、 傍目には如何ともし難いのは確かです。 この時稲盛氏は解雇された従業員の背に陰ながら手を合わせて詫びたそうです。

そして遂に2011年3月28日にJALは会社更生終了し民間企業に復帰しました。 誰もが考えられなかった復活劇です。 それも恐るべき速度を以てのものでした。

翌4月の1日には日本航空株式会社に商号を変更、 即ち日本エアシステムとの経営統合前の商号に復したのでした。 経営統合時に全く馬鹿げた経営の象徴とも言える 鶴丸 の廃止も同時にJALのシンボルマークとして僅かに形を変えたのみで、復活されました。

年が明けて今年2012年の2月には 大西賢会長、植木義晴社長の新体制に移行し 稲盛氏は経営再建を見事に成し遂げ手を引くことになりました。 晩節を汚す処か再上場への道筋をつけた立派な経営手腕をまたもや世に示したのです。

この再建劇には稲盛氏自身、 JALを一度破綻させたことが実に大きかったと言及するのは 現在東京電力との絡みでも示唆深く思います。 いえいえ、稲盛さん自身は冗談に東電を?と問われ 本当にもう沢山ですと言う表情を示していましたから其処はお汲み取りを。

経営再建には一度倒産させたことが実に大きいとは即ち、以下列挙する処であるでしょうか。

  • 社員の意識に齎す効果
  • 政治との絶縁

後者の親方日の丸時代には赤字路線の強要等、 凡そ採算を度外視した経営も求められましたから巷間屡言われるものです。 前者の社員の意識改革には稲盛氏の 倒産企業の社員である認識が意識改革に齎した影響は大きいとのはっきりした言及があります。 社員の意識改革こそV字回復の源泉であったのは 滝川クリステルさんとのインタビューにもはっきりと顕れる処です。 幾ら規模が大きくなろうとも凡そ企業は人也と言える数事例の如く考えます。

V字回復とは言え稲盛氏の経営から身を引いた後のJALは未だ予断を許しません。 V字回復はある意味コストカットに依って成し遂げられたので、 未だ何ら新付加価値を社会に齎してはいないからです。 稲盛氏も人の心は移ろいやすいのだから身を引き締めるよう助言します。 パイロット出身の植木社長は、実は昭和の大スター片岡千恵蔵さんの子息でもあります。 顧客の視点に重きをおく植木社長がJALをどのような道に導くのかが注目されます。

以てなったV字回復の数字はRESPONSEの2012年5月15日の記事 JAL、過去最高益を達成…リストラ奏功でV字回復 にも扱われますので興味のある方はご参照のほどを。

これと或る意味対照的な業績向上を遂げているのが同じ航空業界でも LCC(ロー・コスト・キャリア) と呼ばれる スカイマーク株式会社 です。 現社長のちょっと面白いインタビュー記事、 週刊現代の2012年7月7日号の転載記事が週刊ビジネスの経済の死角に2012年7月3日付けで スカイマーク社長 西久保愼一 批判されてもあえて言い続ける「顧客の苦情を受け付けない経営哲学」 として配信されています。

現社長 西久保愼一 氏がスカイマーク社長となった経緯もまた面白いものです。 氏は大学卒業後3年間勤めていた企業からパソコン好きが高じて パソコン製造のベンチャー企業に転職、其の後自らソフト開発会社を立ち上げ、 取引先の廃業したプロバイダーの経営を引き継ぎ株式上場させた株式売却益で スカイマークに出資したのが縁の始まりでした。

スカイマーク社に増資して役員となって顔を出すようになってビックリ、 賃金規定も就業規則もなく退職率も30%近くあって年中社員教育状態、 もう滅茶苦茶と言う駄目会社振りに1週間もしない内に、 これは大金をドブに捨てちまったな、と思ったそうです。 これを創業者の澤田秀雄氏(株式会社エイチ・アイ・エス現会長)に文句を言った所為で 経営を任されてしまったのだとか、 しょうがなく1年限定の積もりで引き受けたのだそうです。

インタビュー記事全体が独特の語り口調で、 波紋を呼んだ今年2012年5月から機内の座席ポケットに備え付けた サービスコンセプト の内容を髣髴させるものでもあります。 その内容は以下のようなものだそうです。

  • 客室乗務員は収納の援助をいたしません
  • 客室乗務員の私語等について苦情を頂くことがありますが、(中略)お客様に直接関わりのない苦情についてはお受けいたしかねます
  • ご不満のあるお客様は『スカイマークお客様相談センター』あるいは『消費生活センター』等に連絡されますようお願いいたします

確信犯的に引っ掛かりのある文章にしているのだそうで文面だけ見れば 傲慢 であるとか 客を客とも思わぬ対応 も尤もな批判のように思えるのですが これが面白可笑しくメディアで取り上げられるや苦情は全くでなくなったそうです。 お客さんの方でも費用対効果を弁えているのであって承知で利用している訳です。 一部の可笑しなクレーマーの排除に繋がり、 一般の利用者は反ってスカイマークの利用が快適になったのではないかと拝察します。 結果、遂にはスカイマーク社は経常利益が150億円を超えるとのことで見事な業績を上げているのです。

こう見て来ると航空業界に於いて沿革も方針も対極にあるかの如き感の JALとスカイマークはしかし業績は共に向上しています。 今後も良きライバルとして共に航空業界を盛り上げるならば 利用者に取っては万々歳の喜ばしき事態と言えます。

追記(2012年7月7日)

JALのV字回復に与って力の有ったであろう アメーバ経営 についての記事 アメーバ経営はJALにも病院にも有効~広がる京セラ秘伝のタレ を配信しました。

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