ターボが意外な復活~省エネ仕様ダウンサイジングに活用

世界最高峰の自動車レースF1でも一世を風靡していたのが ターボ エンジンでした。 ターボエンジンを積んでいないレーシングマシンが勝利することは困難を極めたのです。 従ってイメージとしてはターボ車はハイパワー仕様として レースファンの脳裏には焼きついているでしょう。

そしてターボ車のもうひとつのイメージは 馬鹿喰い でした。 即ちとてつもなく燃費が悪いものだったのです。

Nissan Note 1.6 Advance 2014
Nissan Note 1.6 Advance 2014 photo credit by RL GNZLZ

しかしそのような印象とは正反対の省エネエンジン技術として今再び ターボが脚光を浴びています。 そのターボを省エネに活用するコンセプトこそ ダウンサイジング です。

ターボとは加給器技術の一つで 排ガスを利用して燃焼室内に過剰に燃料を送り込むものです。 これと同じく加給器技術の一つが スーパーチャージャー でクランクシャフト動力を利用するものです。 日産期待の新モデル NOTEノート は正しくこれを利用した新型車[K1] でした。 ノートは1500ccから1200ccに小型化したエンジンで省燃費を図りながらも スーパーチャージャーを利用して出力低下を抑えたのです。 これこそダウンサイジングのコンセプトを具現化したものなのです。

この加給器モデルは馬鹿喰いイメージ故に市場からは消え去ったように思えました。 今此処に省エネエンジンの決め手として蘇りつつあり、 日産は実際にノートを実現したのでした。

このダウンサイジングに於いて世界の嚆矢となったのが独国の フォルクスワーゲンVW) 社[K2] でした。 頭打ちの感じられるディーゼルエンジンの代替案として2006年同社の ゴルフ にこのコンセプトを採用[※1] したのです。 これ以来VW社はダウンサイジングの旗手としてあります。

実際にダウンサイジングが実効をあげるに連れ、 一時は下火となった加給器の需要が高まり、 世界シェア上位にある 株式会社IHI と三菱重工業は生産体制の強化を急いでいる[※1] とされます。 IHIは ECO CLOVER と称すホームページを用意してターボチャージャーのエコ貢献を訴求してもいるほどです。

ダウンサイジングはHV車ほど自動車会社としては馴れないIT関連の所謂ハイテクは必要とせず、 自動車メーカーが親しみ馴れた謂わば枯れた技術で構築出来ると同時に低廉化が可能となり、 これはHV勢へのアドバンテージとして働くでしょう。

これに対抗するのはトヨタを筆頭とする ハイブリッドHV:hybrid vehicle)勢[K2] です。 ご存知、従来のエンジンと電気モーターの複合システムですね。 こちらはハイテクの塊と言った感じで コンピュータ制御を駆使しつつ省エネを達成するシステムです。

今、自動車メーカーは時代の省エネへの要請に応えんと、 HV勢とディーゼル勢及びダウンサイジング勢に分かれ、 各々が其々の特徴を発揮しつつ鎬を削っています。 BMWがトヨタと連携したように[K2] ディーゼル勢はまたHV勢とダウンサイジング勢に分かれ、 再編成される可能性もありますし、 またディーゼルとHV、ダウンサイジングの組み合わせとて無いとは言えないでしょう。

Turbocharger cut-out display in the Ford area. photo credit by Michael Hicks

馬力競争の筆頭技術だったターボが今回は省エネ技術の決め手として復活しました。 世の省エネ志向を受けて自動車会社が互いに切磋琢磨するのは実に頼もしい限りですし、 ハイテクを擁したHV車とターボを擁したダウンサイジング車の勝敗の趨勢は如何なるか、 実に興味の沸く処でもあり、注目したいものです。

追記(2015年2月27日)

ハイテクを擁したHV車は益々売れ行きの伸び加えて電気自動車には革命児 Elon Muskイーロン・マスク 氏率いる テスラモーターズ(Tesla Motors, Inc.) の電気自動車も参入、更にはトヨタを始めとする日本車勢が水素自動車を送り出す事態となっては興隆振りも凄まじい状況を呈しますが、 かと言ってターボ活用のダウンサイジング勢が白旗を振ったかと言えば然にあらず、 此方側も益々活況を呈しているのでした。 なんとなれば本記事に紹介した IHI三菱重工業 の業績はターボチャージャー増産で多忙を極める此の活況を報ずる記事[※2] に依れば2014年度の販売台数を見るにIHIは前年度比7%アップの591万台、三菱重工は17%アップの630万台と共に大幅向上の見通しにて、 事業売上高ではIHIは1割以上アップの1680億円、 三菱重工は1000億円の大台を突破した前年度から1500億円前後にまで伸びる見通しとなれば50%ものアップとなる勘定です。 遂には以前6割を占めた米国の Borg Warnerボルグワーナー 社及び Honeywellハネウェル 社のシェアに喰い込み今や2割台で拮抗状態を示す4社は市場の9割以上を寡占してもいるのでした。 其の市場規模は主な供給先となる欧州が牽引し10年で倍増して3千万台超、7千億円規模となっています。 旧態依然たる内燃機関ヴィークルの市場を喰う余地は大きければ両者に残される伸び代も余りあるのは道理、 世界市場は省エネルギーへの流れの已まずハイブリッドを筆頭とするハイテク勢との間に白黒が付けられるのは未だ先の話しとなるようです。

追記(2019年5月30日)

2012年7月17日[K1] 及び、2012年7月30日[K2] 、そして本記事にと何度か ハイブリッド vs ディーゼル に関してものし、上に2015年にも追記した処ですが、 此の対立構造に関しては2019年に至っても未だ有効であると感じられる記事[K3] が配信され、Yahoo!ジャパンのトップページにも共有されていました。 此の構造自体も既にトヨタ社のプリウス発売から其のヒット以来、 十年以上の歳月は閲していますから、 ターボについては 復活 の構造を包含しています。 記事には其の復活劇の背景として以下3点が挙げられています。

  1. ダウンサイジング
  2. ドライバビリティの向上
  3. コストの低下

1番目の ダウンサイジング については本記事にも趣旨にする処ですが、 枯れた技術のディーゼルに於いて商業的奏功もあってか進歩が促されて、 後者の更なる増進が図られて未だ対立構造を成り立たせているのかも知れません。 本記事配信時には遠くない将来、ハイブリッド勢の優勢に傾く空気が感じられましたが、 幾年か経てみると実際には其の様にはなっておらず、 却って電気自動車の突き上げを受け、エコカーとしての立場の揺らぎも見られて、税免除に見られる行政的後押しも失われつつある ハイブリッドの衰勢が目立ち始めている様にも感じられ、 此の構造が何処まで継続され、どちらに軍配が翻るかはまだまだ予断を許さない様です。

使用写真
  1. Nissan Note 1.6 Advance 2014( photo credit: RL GNZLZ via Flickr cc
  2. Turbocharger cut-out display in the Ford area.( photo credit: Michael Hicks via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 日産ノート発表、ハイブリッド車の支配する市場にディーゼル車に続きダウンサイジングで挑む(2012年7月17日)
  2. トヨタがBMWとの提携でHV勢として対ディーゼルに有効な一石(2012年7月30日)
参考URL
  1. ターボ車、エコで復活…小型化し燃費も改善(読売オンライン:2012年8月5日:2019年5月30日現在記事削除確認)
  2. 三菱重工とIHI、ターボ事業が大繁忙の理由(東洋経済オンライン:2015年2月26日)
  3. なぜターボ車復活? 燃費悪による衰退から再注目の理由とは(くるまのニュース:2019年5月29日)
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