炭素同素体新材料が活躍する近未来

元はラテン語で消し炭のスミの意である carbonカーボン はカーボン紙のカーボンですし 近頃はコンピュータ化が進んで電子メールでは C.C.(カーボンコピー)などと意味が時代に合わせて転化する如く 人類に実に馴染み深い元素の一つで、 元素記号はCarbonの頭文字からCで表されるのはお馴染みの 炭素 であり、中学校で基本的知識として教えられ、よく周知されてもいる処です。

この炭素に於いて20世紀の後半から様々な発見がされ、 人類の近未来に実に重要な役割[※1] を果たそうとしています。

炭素同素体は大凡以下のように分類できるでしょう。

名称発見年形状
備考
フラーレン(C601985年球状
炭素原子60個で構成されるサッカーボール状の構造、更に原子数の多いフラーレンも存在する
グラフェン[追4]1987年板状
グラファイトを構成する1層として古くから概念上は知られていたものが1987年に用語として登場
カーボンナノチューブ1991年チューブ状
発見者飯島澄夫氏、フラーレンの一種に分類されることがある
グラファイト(黒鉛)-板状
共有結合結晶、原子一個分しかない単一層のグラフェンが弱いファンデルワールス力で結合し多層化したもの
ダイヤモンド--
共有結合結晶、結晶構造は多くが8面体で、12面体や6面体もある天然で最も硬い物質

上表に於いて発見年を見れば上部3社はかなりその年代が新しいものであることが分かります。 人類が手にしてまだそれほど馴染みのない材料である訳です。 これ等の応用研究が進む中に、 更に炭素の新材料がその特徴も鮮明なものとして発見されるに至った[※1] のです。 その代表的なもの2つの特徴を挙げれば以下となります。

  • 硬い
  • 軽い

硬いものはカーネギー研究所の研究チームが発見した ダイヤモンドに傷を付けられるほど硬い炭素材料でまだ正式名称はないようです。 人工ダイヤモンド合成の新手法を開発している同チームならではの発見と言えます。 フラーレンC60と、有機溶媒であるm-キシレンを混合して 高圧化に置いて生成せられるものだそうで、 その硬さはダイヤモンドにキズを付けられる程だそうです。

そして軽いものは Aerographiteエアログラファイト と呼ばれる新材料で、テトラポッド構造を取ったカーボンチューブからなる3次元多孔質素材です。 その重さは驚きの発泡スチロールの1/75しかないにも関わらず機械的強度を持つと言います。

エアログラファイトの先ず考えられる利用法は電池だそうで、 その軽さを活かせば重く煩わしいモバイルバッテリーなどにどれほど役立ってくれるでしょうか。 またその導電性と軽さを応用すれば 静電気レスプラスチック も可能だそうでこれが実現されれば乾燥した冬にも嫌な思いをしなくて済みそうです。 更には撥水性が高いことも確認されており素人でも応用の夢は広がります。

人類が古くから親しんできた炭が今尚最新のものとして応用が研究され、 近未来に大いに役に立ってくれそうなのには期待で胸が膨らみます。

追記1(2012年10月30日)

本記事に挙げる炭素同素体新材料の一つである カーボンナノチューブ について半導体素材の面から取り上げた記事 カーボンナノチューブ~近未来の半導体素材の代表 を配信しました。

追記2(2013年1月10日)

東北大学のCNTベアリング研究開発について 精密構造設計と量産を同時に実現する東北大学開発のカーボンナノチューブベアリング を配信しました。

追記3(2018年3月8日)

2012年10月30日配信の記事 カーボンナノチューブ~近未来の半導体素材の代表 にカーボンナノチューブを使用した不揮発性メモリであるNRAMの商品化について追記しました。

追記4(2019年6月27日)

本記事に於いて大別した炭素同素体には grapheneグラフェン も有りました。 イメージとしては多層化しているミルフィーユの様なグラファイトを、 一枚、一枚、剥がした、其の原子一つ分の厚みを持つ極薄の一枚がグラフェンと言えるでしょう。 古くから概念上は知られていたものが1987年に用語として登場し、 此れが漸く2004年に合成、単離されて此の世の物となって以降、 現実的に其の特性が測定可能となっては素材としての優秀性に注目が集まっていました。 即ち、電荷移動性、熱伝導性、透明性、機械的強度、柔軟性などに優れているのが判明して、 基礎研究、及び応用研究が徐々に盛り上がる処となり、 特に半導体材料素材として期待が高まっていました。

最先端研究を伝える学術系メディアの academist Journal の2017年7月12日の富士通研究所 佐藤信太郎 主管研究員へのインタビュー記事[※6] では、中にもグラフェンを細いリボン状に切り取った グラフェンナノリボン に言及され、リボン幅によってバンドギャップが異なるという不思議な特徴、 及びナノチューブよりも其のバンドギャップを制御しやすい点を重要な特徴として説明されています。 以て半導体素材の微細化が進み、現在限界に達しつつあるシリコン半導体より集積度を上げられる目論見があるのでした。 グラフェンナノリボンの生成には当然ながらグラフェンを微細なリボン状に切る繊細な工程が必要なのですが、 実に困難を極める作業にて、佐藤主管の主張にはインタビュー時点に ボトムアッププロセス を利用して先ずは綺麗なグラフェンナノリボンを得るに成功していると言及されています。

そして、本日2019年6月27日に此のグラフェンナノリボンを世界で初めて完全精密合成したと 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) と 名古屋大学 が共同発表したのでした。 当該発表はJSTサイトに概要をまとめて配信[※7] もされています。 此の完全精密合成に成功したのは名古屋大学の 伊丹健一郎 教授を中心とする 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト メンバーです。 従来のトップダウンプロセス及び前述のボトムアッププロセスから更に進んで開発した リビングAPEXエイペックス重合法 と称する手法は、石油から安価に入手可能な材料から 長さエッジ構造 の全てを制御しながらグラフェンナノリボンをたったの一段階で合成可能ならしめるものです。

今後、更に開発手法が進んで純正のグラフェンナノリボンを半導体材料として利用可能となれば、 軽くて曲げられる半導体に省電力の超集積CPU、小型大容量半導体メモリー、高周波デバイス、高感度センサー等々、実に幅広く応用出来るものと報告されています。 併せて名古屋大学は田岡化学工業株式会社と共同研究で 量産製造法の確立を目指すものともされていますので、 シリコンに取って代わった炭素同素体がスマートフォンなどの各種デジタルデバイスを大きく発展させるのも、そう遠くはない未来であると思われます。

参考URL(※)
  1. ダイヤよりも硬く、羽毛よりも軽く――炭素が開く新材料(EE Times Japan:2012年8月31日)
  2. フラーレン(Wikipedia)
  3. グラファイト(Wikipedia)
  4. カーボンナノチューブ(Wikipedia)
  5. ダイヤモンド(Wikipedia)
  6. 次世代の半導体デバイスを支える新材料「グラフェンナノリボン」とは? – 富士通研究所・佐藤信太郎主管研究員に聞く(academist Journal:2017年7月12日)
  7. 共同発表:世界初、グラフェンナノリボンを完全精密合成~新しい高分子化反応「リビングAPEX重合」を開発~(科学技術振興機構:2019年6月27日)
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