カーボンナノチューブ~近未来の半導体素材の代表

炭素(C)同素体新材料が活躍する近未来 に於いて新材料の一つに挙げられる Carbonカーボン nanotubeナノチューブCNTと略称される)は1991年にNEC筑波研究所に所属していた 飯島澄男 氏に依り発見されました。 折りしも新材料の一つとして挙げた フラーレン を拵えている最中の発見でした。 チューブの名の通り基本的に筒状の構造をしたカーボンナノチューブの一端が閉じている時は 正しくフラーレンの構造を呈しており、 カーボンナノチューブがフラーレンの一種とも目される処となっています。

炭素同素体新材料は総じて硬く、軽く、高導電性を特徴として有していますが カーボンナノチューブはその特性から半導体素材としても期待されているのでした。 条件によってはその導電率、即ち電流を通したり阻んだりする度合いが劇的に変化する特性は 正しく半導体そのものでしょう。 しかも硬く、軽く、そしてナノの名の通り大きさは微小なのですから、 半導体としての集積度も上がろうと言うものです。 その可能性は現在主流のシリコン半導体の500分の1の小型化が可能と言われています。 更にはカーボンナノチューブを用いたトランジスタ (CNTトランジスタと呼ばれています)の性能はシリコントランジスタの2倍に及ぶと言います。 以上から近い将来確実に訪れるシリコン半導体の 物理的限界を超えるものとして期待されてもいるのです。

集積回路上のトランジスタ数に関しては実しやかに 18か月ごとに倍になる と言われて来ました。 インテル創業者の一人 ゴードン・ムーア 氏が1965年に唱えたとされる ムーアの法則 です。 実際の論文ではこの箴言の如き言い様ではなかったようなのですが、 この法則は爾来半導体産業の目標値に厳として位置付けられ、 達成しつつエレクトロニクス関連産業、IT産業などは発展して来たのは間違いありません。

しかし物理的限界と言う自然現象の障害は如何ともし難いものです。 シリコン半導体は分子レベルまでその集積度が突き詰められたとき、 この物理的限界に突き当たることが確定的となっており、それは遠い将来ではありません。 此処にCNTトランジスタを集積した集積回路が期待される所以があるのでした。 カーボンナノチューブは半導体産業、エレクトロニクス関連産業、IT産業など 多くの近代産業の期待を担っているとも言える素材なのです。

カーボンナノチューブの半導体への応用はこの如き期待を担い、 様々な研究が為されて来ました。 例えばCNTトランジスタには大きな欠陥がありました。 ヒステリシス特性を保持しているため一定の電圧入力に対する電流出力が不安定に変動するのでした。 この問題を解決に導いたのが大阪大学と産総研の共同研究[※1] でした。 不安定性の原因を究明した上での解決手法を施された作製プロセスを以て 従来技術の20%もの変動を伴った出力は一気に0.1%迄縮小されたのです。 この開発でCNTトランジスタは1,000倍以上安定に動作するトランジスタとなったのです。

そして今年2012年10月28日、ビッグブルー IBM 社の研究所がCNTトランジスタを1万個以上を使ったIC(集積回路)の製造に 成功したとするプレスリリースを配信[※2] した旨をPC Watchが伝えました[※3]。 通常LSI(大規模集積回路)とはトランジスタ数が1千を数えればそう呼ばれますから IBMに成功したCNTトランジスタチップは立派なLSIと言えるでしょう。 この年初の試作より2桁高いオーダーレベルへの到達は従って商用化に通じる画期と言えます。

現在インテルが販売しているコンシューマー向けシリコン半導体の集積度は 億を越え、2010年には10億に軽く迫るものとなっています。 これに迫るにはまだまだ研究が必要となる訳ですが、 しかしまたインテルが1971年に発表した 4004 マイクロプロセッサーに於いてはチップ上のトランジスター数は 2,300個 であったことを考えれば一気に先が開けた感があるニュースです。

追記(2013年1月10日)

東北大学のCNTベアリング研究開発について 精密構造設計と量産を同時に実現する東北大学開発のカーボンナノチューブベアリング を配信しました。

追記(2018年3月8日)

PC Watchに2018年2月13日、配信された記事[※4] では半導体業界の2018年のトレンドに触れられており、 次世代不揮発性メモリ について取り上げられています。 此の第2世代として3種類のメモリ技術が紹介されており、 既に製品化されている 3次元(3D)クロスポイントメモリ を主に俎上に上げているのですが、 3種類のメモリ技術の中の一つとして本記事としては見過ごせない名前が挙げられています。 カーボン・ナノチューブメモリ です。

カーボンナノチューブを利用したメモリは NRAM と呼ばれ、其の製品化が日経クロステックに2016年9月16日付けの記事[※5] として配信されています。 記事にはNRAM技術を開発した Nantero 社とライセンス契約を結んだ 富士通セミコンダクター 社と 三重富士通セミコンダクター 社が共同で研究を進め、 共に2018年内に商品化を目指すと伝えられます。 此の一次情報を探せば記事に先立つこと半月、 当の富士通セミコンダクター社のプレスリリースに2016年8月31日付で配信[※6] されていました。 リリースによれば研究開発は Nantero社を含む3社共同でのもので、 カーボンナノチューブによる不揮発性メモリは従来の技術を遥かに凌駕するもの、 と述べられているのは本記事の内容と軌を一にするものです。 今年は既に2018年を迎えたからには、年末には何かしらNRAMに関するニュースが踊るかも知れません。 リリースに言う従来の技術とは恐らくシリコン半導体メモリを含むものでしょう。 現代の産業の米たる半導体の素材は主にシリコンでしたが、 近い将来カーボンナノチューブが半導体メモリの素材として主役となる日が来ないとも限らない様です。

参考URL(※)
  1. 1000倍以上安定動作するカーボンナノチューブトランジスタの開発に成功(産業科学研究所:2006年2月28日)
  2. Made in IBM Labs: Researchers Demonstrate Initial Steps toward Commercial Fabrication of Carbon Nanotubes as a Successor to Silicon(IBM:2012年10月28日)
  3. IBM、カーボンナノチューブトランジスタ1万個を用いたチップ製造に成功~商用化に向け大きく前進(PC Watch:2012年10月29日)
  4. 【福田昭のセミコン業界最前線】2018年も半導体は面白い(後編)(PC Watch:2018年2月13日)
  5. CNT利用のメモリー「NRAM」、2018年末にも製品登場へ(日経 xTECH:2016年9月16日)
  6. カーボンナノチューブを使った不揮発性メモリ「NRAM」のライセンス供与および商品化に向けた共同開発で合意(富士通セミコンダクター:2016年8月31日)
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