電子自費出版の可能性

数年前からすったもんだしている 電子書籍 ですが、幾ら抵抗勢力が足掻こうともその普及が徐々に進むのは時代の趨勢と言うものです。 抵抗勢力もその重心を拠って立つ紙媒体から幾分かは電子に移さねばなりません。

この重心移動はことコンテンツ提供側たる執筆者などに於いてはかなり進行している感を受けます。 電子書籍化は此方の方面にはどうやら歓迎されているようなのでした。 なんとなれば取り分け誰それに認められるべく根回しも必要ありませんし、 出版となれば小部数の配信が可能ですし、在庫の心配もありません。 出版に掛かる費用も従来とは比較にならない程小額ですし、 また印税などの歩合は逆に大きいものとなる傾向にあります。 宣伝についても今やインターネットでブログやホームページで 情報発信は手軽なものとなりましたし、 もう少し予算があればリスティング広告など用いる手法も用意されています。 以て歓迎されない筈がないのでした。 従って抵抗勢力とは此処に筆者と読者の間から中抜きされる連中であるのです。

Sea Change photo credit by Pen Waggener

この状況下には 自費出版 が改めてクローズアップされるのは必然でしょう。 この流れは当然の如く自費出版の敷居をも低からしめているのでした。 電子書籍に於ける自費出版なればそれは 電子自費出版 と称して宜しい分野でしょう。

この電子自費出版分野に大きな役割を果たすと思されるのが ネット書店最大手のアマゾンです。 頃日電子書籍リーダーの 新型Kindleを発表 、発売して意気揚がる同社ですが、 このコンテンツ充実のためにも自費出版を用いるのは 唯に小売ならざる自社インフラをマーケットプレイスとして 他社小売に貸し出す戦略を取る同社には最早必然的な流れとなります。 そしてその仕組みは既に Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング として用意されてもいるのでした。

このKindleダイレクトパブリッシング(KDP)に於いては 出版に掛かる費用は無料でアマゾンのKindleストアに自著を出品出来る仕組みとなっており、 販売されたその自著はKindle端末に限らずアップル社の端末でも 最近シェアを伸ばすAndroid端末でもKindle無料アプリを利用して読めるため、 コンテンツ提供側に行動を起こさせるにたる環境をアマゾンが用意していると言った塩梅です。 利用可能な言語は日本語に限らず英語は勿論7箇国語が使用できるとあらば 世界に向けて自著を送り出せもするのでした。 従って値付けも円、米ドル、ユーロでの設定が可能となっています。 アマゾンは販売時の手数料で大いに稼げるのはマーケットプレイスで経験済みですから 敢えてKindle端末を原価ギリギリか切るような価格でも提供可能となる寸法です。

競争の激しいネット界隈ではこのアマゾンの動きに乗じようと 自費出版プラットフォームの パブー が逸早く手[※1] を打って来ました。 来るべき一億総作家時代に向けて主導権を握る狙いがあるのでしょう。 電子自費出版の市場は大きいものと一部からは受け取られている証左でもあります。

斯様にコンテンツ提供者に便宜の図られる世となりつつあるのですが、 当のコンテンツ提供者側には些か問題も持ち上がっているのが少々残念に思われる状況となっています。 例えば近頃有料メルマガや有料コンテンツへのシフトが起きており、 そのカテゴリーには読者に金銭を要求可能な既に名の売れた著者であったり、 一部の人気ブロガーであったりする人々が参入しています。 この如き動きを示す人物はインターネットに従来馴染みのある人物でもあり 凡そ自らのブログを運営しているのでした。 しかしそのブログの更新が停まったり、更新されても中身の薄いものとなっているのです。 この状況に対する懸念をアウトプット過多と称し、警鐘を鳴らすブログ記事[※2] なども配信されブックマークに賛同を多く受ける処ともなっています。 従来余程インプット過多にあった人物以外は疲弊を招くばかりであれば 有料コンテンツへの参入は避けた方が宜しかろう、と言う主張でしょう。

更に有料コンテンツ提供側には深刻な問題が発生しているのを知らせてくれる ブログ記事も配信されこれも多くの人に共感と共に共有[※3] されました。 定期的配信が約束されている筈の有料メルマガに於いて その契約が満たされない事態が多発している旨、記されています。 此処には編集者を介し締め切りに間に合わなければ代替原稿の用意されるような 従来出版スタイルでは有り得ない契約不履行が大手を振って闊歩しています。 著者と契約して有料コンテンツの配信元となる業者も 配信は著者の自由裁量となっているため手出しの出来ない状況にあり、 また雑誌と異なり読者は著者をピンポイントで指名出来るのも 問題を起こし易い環境となっているのは否めません。

この方面の先駆者たる 磯崎哲也 さんやホリエモンこと 堀江貴史 さんなどが確りしていたからこそ後続も相次ぎ、 彼等は今もその定期的配信は欠かしてはいないそうです。 しかし後続が何の覚悟も無しの開始して大穴を空けて尚 辞める決心のつかないのも状況を難しくしているようです。 そしてこの後続はネットに於いて重きを置くと見做されている人々だからこそ その影響は重大で孰れこの類のビジネスに禍根を残すことと成り兼ねないものとなっているのです。 先進的と言われるネット族の一部がネットの可能性の芽を セッセと潰しているとも言える様相を呈しているのでした。

さて其れ等の人々が目を向けて然るべきなのが若しかしたら 電子自費出版 なのかも知れません。 定期的配信の約束は設けず上梓がなれば有料で配信すれば良い訳です。 ブログ記事に投稿を重ね、或る程度のまとまりとなれば それ等を一冊の体裁に纏めて配信する方法もあるでしょう。 然ればブログも充実するでしょうし、 まとまりよくブログ記事を読めれば著者のファンは勿論、 一般の読者も料金を支払うに吝かではないでしょう。 更には此処に編集者の協力を得る可能性も発展する筈で、 編集者には新しい市場とも成り得るのは疑い有りません。

考えるだにコンテンツ提供側の問題を多く解決出来る手法として 電子自費出版は浮かび上がるような気がします。 この分野の興隆は延いては一部著名人にあらずとも オリジナルコンテンツを世に送り出したくとも送り出せない状況にあった人々にも福音となるでしょう。 怪しげな自費出版詐欺に引っ掛かる可能性も低減するのは容易に予想出来ます。 現在でも多くの人にリーチ可能な人々よりもむしろ 自らの主張を世に問うチャンスの無かった人々には取っては 電子自費出版は願ってもない時節の到来となる筈です。 これ等状況を鑑みても電子自費出版は大きな可能性を秘めているとして良いように思うのです。

使用写真
  1. Sea Change( photo credit: Pen Waggener via Flickr cc
参考URL(※)
  1. 自費出版プラットフォーム「パブー」がKindle対応(ITmediaニュース:2012年11月20日)
  2. メルマガを始めてからスカスカになっていくブロガーを見るのはつらい(ネットの海の漂流者:2012年11月17日:2018年12月23日現在削除確認)
  3. 週刊(だったはずの)有料メルマガが一ヶ月間配信されなかった件(Film Goes with Net:2012年11月13日)
スポンサー
スポンサー

この記事をシェアする