MIDI規格化に尽力~ローランド創業者梯郁太郎氏にグラミー技術賞

オーケストラの演奏に於いて各楽器が思い思い、バラバラに演奏していては 聴く者に感動を与えられる筈もありません。 それぞれの楽器が指揮者の元に協調し合って一体となって奏でられる音楽こそ 素晴らしいものとして聴く者の心を捉えるのです。

in the dark photo credit by bdu
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音楽ではこんな当たり前の今更言う迄もないことも しかし或る規格が登場する迄は電子楽器に於いてはそれぞれが勝手に主張し合い 決してアンサンブルが得られることはなかったのです。 この或る規格こそが MIDIミディ (Musical Instrument Digital Interface) です。

MIDIの登場にはシンセサイザーから始まる電子楽器同士の接続の必要性から 国内外の電子楽器メーカー6社が先ず1981年に1.0 Specificationをまとめ これを元に規格化が推進され1983年8月には日本語版MIDI1.0も策定されました。 この頃より徐々にパソコン店々頭などでは電子楽器に依る演奏デモが 来場者を驚かせ始めたのはオールドファンなら覚えている処でしょう。 遂にはMIDIギターなども登場し演奏製に少々難はあったもののギタリスト蓮を驚かせ 可能性を感じさせもしたのでした。

この規格化の推進に尽力したのが日本の電子楽器メーカー ローランド株式会社 であり、その創業者 梯郁太郎 氏でした。 1982年10月にはローランド社は米音楽誌にVer.1.0を公開し 1983年1月NAMMショーには自社製品によるデモンストレーションを実施しました。 これが後の電子楽器の発展にどれ程貢献したかは計り知れません。 そして今や作曲に演奏に電子楽器は欠かせません。 だとすればMIDIは音楽其の物にも多大な貢献を為した訳で、 今回これを評価されて梯氏に Technicalテクニカル・ GRAMMY®グラミー・ Awardアワード が贈られることとなったのです。 梯氏が創業したローランド社のホームページにも昨日2012年12月14日付けで 誇らしげに当該ニュースのリリースが配信[※1] されています。

リリースに依れば梯氏は上に国内外の電子楽器メーカー6社としたその1社 Sequentialシーケンシャル・ Circuitsサーキット inc. SCI 社のこれも創業者 Dave Smithデイヴ・スミス 氏との連名での受賞と相成ったそうで、メーカー間の損得を越えて手を結び合った盟友との それは感慨も一層深いでしょう、以下引用の様にコメントしています。

1983年「MIDI」規格の発表より30年。非常に短く感じますが、 この30年で、電子楽器が世界的に広く使われるようになりました。 「MIDI」がお役に立てたのだと思うと、大変感慨深いです。 各メーカーが協力し、電子楽器の発展という同じ目的で努力したことが、 今回の表彰に結びつきました。 「MIDI」規格のシステムのコンセプトを作った 当時の弊社技術部長 菊本忠男氏をはじめとするエンジニア、 関係者の皆さまとともに、この受賞を喜びたいと思います。

グラミー賞と言えば世界で最も権威有る音楽賞の一つですが、 音楽家に留まらず音楽環境を構築する上で欠かせない分野に貢献した人物にも与えられる賞は トラスティーズ賞Grammy Trustees Award) などがあり、此方はアーティスト以外の音楽産業への貢献者に 与えられる賞となっていて去年物故した Steve Jobsスティーブ・ジョブズ に贈られたのは記憶に新しい処です。 そしてまたグラミー賞には、音楽業界とレコーディング分野への貢献者に与えられる賞である テクニカル・グラミー賞Technical Grammy Award) が有って今回此れが梯氏に贈られることとなったのでした。

ローランド社は遠州に本拠を置くを以て近しく親しみを覚えるものですが 今回の受賞はまた全く以て祝着至極、一音楽ファンとしてはご同慶の至りです。 おめでとうございました。

追記(2017年4月3日)

残念ながら梯氏は2017年4月1日に永眠されたとの知らせが齎されました。 各メディアの報ずる処ですが其れ等は第一報としての梯氏と親交の深かった元ロックバンド ゴダイゴ のドラマー Tommy Snyderトミー・スナイダー 氏のFacebookの書き込みを受けてのものであるようですので 当該書き込みを下に埋め込み置きます。

2012年配信の本記事の後 おおやけ となった自ら創業したローランド社との確執から袂を分かつなどの報道もありました。 今も当該社のニュースリリースには2013年3月7日付けで ローランド株式会社 創業者 梯 郁太郎の退任について が残されています。 当時は醜聞として伝えられる面もあり本記事への追記が躊躇われもしました。 晩年は其の様な不本意な面もあったようですが、 更にライフワークたる電子楽器を創造するに ATV株式会社 を第二の故郷とも言うべき静岡県浜松市に創業するなど尚意気盛んな氏の話を聞き居りました。 実に学ぶべき処の多い方であったに思います。 晩年のインタビューでは電子楽器をライフワークとされた氏が関わらざるを得なかったアップル社についても語られており時代の貴重な証言ともなっているのが訃報を契機に 藤本健 氏により共有[※2] されており一見の価値のあるものと思います。 享年87歳、ご冥福をお祈りいたします。

追記(2019年1月19日)

MIDIがアップデートして、 バージョンが2.0になる旨のニュースが齎されました。 昨日、2019年1月18日に一般社団法人音楽電子事業協会(AMEI)とThe MIDI Manufacturers Association(MMA、米国MIDI管理団体)とが MIDI 2.0 の開発、規格化および実装作業を進めていくことを発表した旨、伝えられます。 以下に此のニュースを取り上げる記事を列挙します。

本記事にも紹介したように、 1981年に1.0 Specificationが国内外の電子楽器メーカー6社によりまとめられ、 更に1983年8月に日本語版MIDI1.0が策定されましたので、 日本語版では今年を以て36年振り、 最初期の1.0 Specificationから勘定すれば38年振りと言う驚くべき長期間を経てのアップデートとなります。 最も詳しい 藤本健のDTMステーション の記事では、極端な言い方をすれば今回は名前の発表だけとあり、 仕様さえ明らかならぬ状況では、まだまだ一般の使用には時間が掛かるのですが、 楽しみな各組織、団体の合意であることは確かで、 上記列挙した各記事もポジティブな調子を含んだ内容となっています。

本記事の配信からも既に7年、 追記に梯郁太郎氏の訃報を伝えてからも2年の時を経ました。 此処に至る迄には新規格策定の目論見が立ち上がっては消え、相当な紆余曲折があったものらしく、 従ってかなり仕様の策定には注意深く取り組まれている様子も伺え、 凡そデジタル音楽業界に大きな恩恵を齎したバージョン1.0の普及に尽力した梯氏も泉下に莞爾たるものと思います。

使用写真
  1. in the dark( photo credit: bdu via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 違法ダウンロードに刑罰を!~音楽業界団体の強い意向を自民公明両党が代弁(2012年5月24日)
参考URL(※)
  1. 創業者 梯郁太郎が「テクニカル・グラミー・アワード」受賞(ローランド:ニュースリリース:2012年12月14日)
  2. 亡くなったローランド創業者・梯郁太郎さん、スティーブ・ジョブズを語る(藤本健のDTMステーション:2017年4月3日)
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