シャープ復活に賭ける世界最高変換効率太陽電池セル開発

暗い話しとなるのは如何ともし難い頃日の シャープ株式会社 は凋落著しいテレビ事業の構造的不況にパナソニックやソニーと共に減益を余儀なくされ 株価も続落すれば提携先と目された鴻海精密工業にも足許を見られ[K1] 虎の子の IGZO 技術を狙われる始末[K2] でリストラに大鉈を振るわなければならない状況[K3] に行く末が思い遣られるも、IGZO液晶を用いたスマートフォンを送り出す[K4] など何とか打開せんとする様子も伺えます。

一昨日2012年12月4日には米国の Qualcommクアルコム 社から100億円程度の出資を引き出し、 IGZO技術を駆使した新型パネルを2013年には量産する予定であるとも伝えられます。 また液晶パネル技術に強みを持つ同社は太陽光発電パネルにも活かせる技術を有し、 しかし自社生産に拘るばかりでなく、 需要増加に備えて外部からの調達をも実施する旨も昨日5日に伝えられました。

太陽電池セルで世界最高変換効率37.7%を達成(シャープ:2012年12月5日)

斯く太陽光発電事業に於いても強みを持つシャープは 以前から当該分野の研究にも意を用いており、 そして此の度同社開発の太陽電池セルが堂々世界最高変換効率となる 37.7% を達成した旨、昨日2012年11月5日付けの同社プレスリリースに配信[※1] されました。 公的研究機関である 産業技術総合研究所 にこの世界記録となる測定結果が計測されたとリリースにはされています。

当該リリースには或る程度の技術説明もなされており、 上図はそれに用いられているものです。 この図を一瞥すればかたむき通信読者には思い出される向きもあるでしょう。 2012年7月10日の記事に太陽光発電に関する効率化[K5] について扱っていました。 太陽光発電については今、その太陽光から電気への変換効率向上が 焦眉の急となり嘱目されてもいるのでした。

この記事を起こす際、京大グループの発案した 太陽光発電を為し得る素材は効果のある周波数帯が限られるため 満遍なく広がる太陽光の周波数を絞ってから後素材に照射する、 と言う効率化向上の手法には目から鱗の落ちる思いがしました。 この発想の転換に関しての前提となるのが 太陽光電池が得意な周波数帯を持っている素材を太陽光に即して満遍なく揃える、 所謂効率化の王道とも言える手法 多接合太陽電池 で、東北大学の研究にも効果を上げているのを伝えましたが、 シャープのリリースに用意されるグラフは正しく此方の手法を示すものです。

リリースにはその種類を 化合物3接合型太陽電池セル と呼びセルには3つの光吸収層を積層したものを用いていると言います。 その化合物は上から順に以下の如く列挙され、 間をトンネル接合した素材であるとしています。

  • InGaP:インジウムガリウムリン
  • GaAs:ガリウムヒ素
  • InGaAs:インジウムガリウムヒ素

それにしても変換効率が4割に迫るとは研究室の中とは言え、 かたむき通信7月10日の記事に10%~20%を高効率と伝えたものからすれが かなり高いものと言えます。 これが量産化されれば従来の太陽光発電所が期せずして倍の発電容量を擁す発電所へと化けるのであって、 自然エネルギー利用の太陽光発電がどうしても環境に左右されるに因って その立地条件が極々限られる[K6] のでしたが、効率化はこの従来の発電所の発電容量を倍化させると共に この厳しい立地条件をも緩和するものであるでしょう。 これに自動車メーカーのホンダがEVの蓄電装置を家庭用蓄電池としても機能させる Honda Smart Home System[K7] として推し進める、所謂スマートグリッド技術が更に進めば エネルギー問題解決へ向けての確かな一歩を踏み出すことにもなるでしょう。

太陽電池の高効率化技術は今の世に切実に必要とされるものですし、 今回のシャープ社の技術が量産パネルに活かされれば大いなる需要を受けるのは確かです。 以て社運が回復すれば姑息な経営手法などに依ったりせず、 技術で堂々と正面切って中央突破を果たしたことになります。 技術が斯くも重要なるのは日鐵住金建材株式会社の代表取締役社長 増田規一郎 氏の全く唱える処[K8] で大いに首肯させられます。

若しかしたらソフトバンクは米国の携帯キャリアなど買収する前にシャープに助け舟を出し[K9] 新規事業で今現在にも国内最大発電量を擁す 太陽光発電分野に確固たる地位を築いたほうか良かった、 と後悔することになるのかも知れません。

追記(2019年4月28日)

シャープ社の第5世代IGZO技術開発の公表を受け、本ブログ2012年12月27日の記事 シャープ虎の子技術IGZOとは何か?復習してみる に、シャープ社の復活、技術の概要、既発売の適用製品、有機ELディスプレイへの応用、などを追記しました。

使用図写真
  1. 太陽電池セルで世界最高変換効率37.7%を達成(シャープ:2012年12月5日)
かたむき通信参照記事(K)
  1. シャープ危機~株価ストップ安が鴻海出資交渉に影響(2012年8月4日)
  2. 足元を見られるシャープが虎の子のIGZO液晶を狙われる(2012年9月11日)
  3. シャープ残酷物語~免れ得ない大幅人員削減(2012年7月24日)
  4. AQUOS PHONE ZETA SH-02E~シャープ株価低迷を跳ね返す起爆剤(2012年10月11日)
  5. 注目される太陽光発電、その効率化と目から鱗の新技術~楽天ソーラーも参入(2012年7月10日)
  6. 発電の集中と分散~淡路島太陽光発電と三菱重工MEGANINJA(メガニンジャ)(2012年7月4日)
  7. ホンダの超小型車への本気~マイクロコミュータープロトタイプ公開(2012年11月13日)
  8. 中山製鋼所私的整理報道否定の翌日にアモルファス事業新設分割発表(2012年12月2日)
  9. シャープの身売り先にはソフトバンクが好適かも知れない(2012年8月28日)
参考URL(※)
  1. 太陽電池セルで世界最高変換効率37.7%を達成(シャープ:2012年12月5日)
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