纒向遺跡第176次調査に発見された柱穴群と東西溝

周辺地図を見るからに周囲を古墳に取り囲まれるのは 当地が古墳時代としては抜きん出た面積を誇る纒向遺跡地区に相当するからで 何某かの埋まるのは間違いないと予感させ、 其の通り今回第176次の調査に於ける成果を桜井市教育委員会の発表したものに依れば 3世紀前半のものと思われる100以上もの 柱穴群 が発掘されたのでした。 当地は邪馬台国の最有力候補地とも目されれば比定地として近畿説を唱える主張者ならずとも、 否が応でも期待は高まろうというものです。

また同時に4世紀中頃から後半に掛け機能した後埋没せしめられた 東西溝 も発見されました。 相当の面積に渡り数百年に渡る長い間栄えた地域であるのが窺え、 当時の日本国に於ける先進地域に相応しい発掘結果と言えるでしょう。

斯くも注目すべき纒向遺跡についてはこれを市の北部に擁する 桜井市 が確りした情報を提供するサイト[追] を運営しています。 大概は市教育委員会の元に埋蔵文化財センターが運営され桜井市に於いてもそれは変わりなく申し訳無さ気に 埋蔵文化財センター なるWebページが用意[追] されますが、 それを補って余りある埋蔵文化財情報提供サイト[追]桜井市纒向学研究センター です。 以てして桜井市の埋蔵文化財に関する情報発信に関しては格付けを最高ランクと見做して宜しいものと考えます。

纒向遺跡に存する古墳を挙げれば以下錚々たる名が並びます。

より大きな地図で 全国遺跡マップ 纒向遺跡第176次調査地を表示
  • 箸墓古墳:桜井市大字箸中
  • 纒向石塚古墳(国指定史跡):桜井市大字太田
  • ホケノ山古墳(国指定史跡):桜井市大字箸中
  • 勝山古墳:桜井市大字東田
  • 東田大塚古墳:桜井市大字東田
  • 矢塚古墳:桜井市大字東田
  • メクリ1号墳:桜井市大字太田
  • 南飛塚古墳:桜井市大字太田

更に纒向遺跡内に所在する主な遺構として研究センターには以下が紹介されています。

  • 辻地区の建物群:桜井市大字辻
  • 纒向大溝:桜井市大字東田
  • 巻野内家ツラ地区の導水施設:桜井市大字巻野内
  • 北飛塚地区の住居跡:桜井市大字太田
  • 辻地区の祭祀土坑群:桜井市大字辻
  • 尾崎花地区の区画溝:桜井市大字巻野内

今回発見が報告された柱穴群と東西溝は後者に連なるものと言えるでしょう。 纒向遺跡の世界を押し広げるこの発見は勿論広く一般に公開されるものとなりました。 現地説明会の資料が2013年2月3日付けで研究センターよりPDFファイルとして配信[※1] されるものです。 資料には柱穴群と東西溝以外にも発掘物が伝えられますので 興味のある向きには参照をお薦めします。

この現地説明会にはこの柱穴群は宮殿の入口部分に相当し 卑弥呼の如き人物が執り行う祭祀用の一時的な建築物が繰り返し建てられ破却された 特別な空間としてあったのではないかと言う言及もあったようでして、 例えばの話しですから邪馬台国近畿説に異論のある向きもご寛恕あられたく思います。 またメディアに依っては 豪族居館の周濠 などと報じられる溝については周濠とは古墳の周囲に掘られるものですから 多少の違和感を余儀なくされますが、説明会資料には 第166次調査、第168次調査で検出した幅8m、長さ54m以上の南北溝と今回発見の東西溝が組み合わさり 東西に細長く形成される太田北微高地と呼ばれる微高地を区画するものとされており、 区画溝として先ず考えられますが、また水運にも灌漑にも用いられていたものかも知れません。 建築物の性質と共に今後の研究成果が待たれる処です。

処で残念ながら本日2013年2月5日にはこの現地説明会は既に終了してしまっています。 また時間の都合が付けども距離的な問題もあれば出向けなかったのを残念に思う向きもあるでしょう。 そんな時に矢張り有用なのがインターネットです。 だからこそ各地埋蔵文化財センターをまことに失礼ながら得手勝手に格付けしたりしてみている此の時代、 CGM(Consumer Generated Media)なる情報の消費者自身が生み出す情報媒体の代表たるブログに この現地説明会に直接赴いて写真入で紹介してくれているブログ記事[※2] がありました。 数々の発掘物もその写真が掲載され 刀形木製品 と名付けられた木刀のようなそれは一体何に用いられたものか興味が湧かされる とても嬉しい内容の記事となっています。 そして発掘現場から一歩後ろに下がって撮られた写真に添えられる、 以下引用する処に言う文句など聞かされれば実に臨場感が高まるものです。

見てのとうり 田んぼのすぐ下に 3世紀の遺構が眠っているわけです。

追記(2020年2月21日)

桜井市のホームページは本記事配信時には「nara.jp」のサブドメインで運用されていましたが、 現在では地方公共団体の利用の為に用意された「lg.jp」ドメインに移り運用されています。 此の移行に伴い「埋蔵文化財センター」も当該ドメイン下層にページが移されていますが、 此のページには新規に開設されたWebサイト 桜井市立埋蔵文化財センター へのリンクが用意されており、此方は「nara.jp」のサブドメインで運用されています。 従って古都奈良ならではの充実した埋蔵文化財の情報が得られるように配慮されているのは評価されるべきでしょう。 同じく「桜井市纒向学研究センター」に於いても桜井市下層のページには、新設された 桜井市纒向学研究センター にリンクが貼られており、此方は更に踏み込んで独自ドメインで運用されています。 此の施策からは桜井市の自らの地域に擁する文化財に関する情報発信への意気込みが感じられて喜ばしく思う処です。

両新設Webサイトは但し、素人臭い作りは情報に渇する者には其れ程問題にはなくも、 共に右クリックを禁止する子供だましの仕込みを講ずるくらいならスマホ対応を進められるが宜しかろうとは思います。 併せて両Webサイトは現時点に於いて、HTTPS化が施されていません。 閲覧者の安全を考慮しない此の現況では残念ながら例え情報が充実しようとも最高ランクと見做す訳にも行かず、 対応を望み苦言を呈しておきたく思い、此処に記します。

参考URL(※)
  1. 纏向遺跡第176次調査現地説明会資料(桜井市教育委員会纏向学研究センター:2013年2月3日)
  2. 纏向遺跡第176次 現地説明会(飛行機だい好き パートⅡ:2013年2月4日)
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