ニホンウナギとクニマスの方向逆転と気になるドジョウ~環境省第4次レッドリスト汽水・淡水魚類取りまとめ公表

日本人に脈々と受け継がれた食文化の上からも重大事と受け止められ記事をかたむき通信にものしたのが去年2013年は晩夏9月13日のこと[K1] その時の懸念が遂に現実のものとなってしまいました。 その情報は環境省の平成25年(2013年)2月1日の報道発表資料[※1] に依り齎されました。 ニホンウナギ絶滅危惧IB類 リスト入りです。

Eel Fish photo credit by MrMatthewJ

9月13日の記事にも記したようにニホンウナギは 評価するだけの情報が不足しているとして 情報不足Data Deficient) の扱いであったのでしたが、その後検討が重ねられ 極く近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いと言う程ではないものの 近い将来における野生での絶滅の危険性が高いものとして分類される 絶滅危惧IB類Endangered) に遂には投じられてしまったのです。

リスト入りした理由としては 環境省レッドリストの判定基準の定量的要件 のA-2項である 過去10年もしくは3世代の長い期間を通じて、50%以上の減少があったと推定される を満たしてしまうと言う厳然たる数値データがありました。 農林水産省が公表している全国の主要な河川における天然ウナギの漁獲量データでは 3世代の減少率は72~92%にもなり、従って少なくとも50%以上は成熟個体が減少していると推定されたのです。 この検討が重ねられるにあたっては 九州大学などの研究成果から河川へ遡上する個体の産卵への大きな寄与の確認がありました。

9月13日の記事に2012年11月25日に追記した ウナギの生態について斯界の権威のインタビュー記事[※2] からその生態が明らかにされることで土用の丑の日にも明るい未来が開けるやも知れず、 としたものの其れは返って深刻な事態を浮き彫りにさせたのかも知れません。 しかしニホンウナギの種の存続の為には此れは乗り越えるべき大きな試練であることも明確にされたのかも知れません。 今後も地道な活動が続けられるだろうニホンウナギの研究にエールを送りたく思います。

同時に環境省の当該報道発表資料[※1] からは明るいと言うのは言い過ぎかも知れませんが、些かの朗報も齎されました。 すっかり 絶滅Extinct) したものと思われていたその種の生息が確認されたと言うニュースに思い当たる節はないでしょうか。 かたむき通信にも伝えた クニマス[K2] です。 1940年に絶滅したものと思われてから70年、 この世紀を大発見を2010年に西湖で成し遂げたのはタレントとしても有名な さかなクン でした。 以てクニマスは 野生絶滅Extinct in the Wild) に再分類される運びとなったのです。

さかなクンの名前こそ出て来ませんがさかなクンにクニマスのイラストを依頼した京都大学の中坊徹次教授のた論文など 参考に検討されたことが記され発見された種がクニマスと判断し評価するのに寄与したものとされます。 国際自然保護連合(IUCN)の野生絶滅の定義には 栽培、飼育状態で、あるいは過去の分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ生存している分類群は「野生絶滅」である。 と明記され、本来の自然生息地を秋田県田沢湖とするクニマスが山梨県西湖に生息していたのは 人為的に導入されたためであり、定義とは少々齟齬が生じますが、 例外的に西湖の個体群を評価の対象として再分類の為された旨、伝えられます。 現時点で田沢湖と西湖のクニマスの遺伝的特性が同一のものかは遺伝子解析技術の発展を待たねばならない状況ですが、 研究を重ねる旨も同時に伝えられますので今後の成果に期待した処です。

斯くてニホンウナギは残念な、クニマスは喜ばしい、 両者の悲喜交々逆方向に相織り成すレッドリストの再分類となりました。 そしてなお、環境省の当該報道発表資料[※1] に於いては 泥鰌ドジョウ も記され、それは外来種との交雑や種間競争等による影響が懸念され 実際に一部遺伝子汚染も確認されている、とされるためであるのが大いに気になる処で、 情報不足Data Deficient) と今回位置付けられ、ニホンウナギを鑑みれば矢張り気懸かりなものです。

追記1(2020年7月24日)

ニホンウナギ、クニマス、ドジョウと絶滅の危惧を本記事に記した処ですが、 此処に新たに書き加えるべきレッドリスト入りの種があります。 松茸まつたけ です。 国立研究開発法人科学技術振興機構 が2020年7月13日に配信した記事[※3] に依れば国際自然保護連合(IUCN)が公表した最新版のレッドリストに絶滅危惧種に認定された、と言います。 ニホンウナギは本記事に 絶滅危惧IB類Endangered) と伝え、マツタケは其れより一段低い 絶滅危惧Ⅱ類Vulnerable) への認定ですが、ニホンウナギの夏の土用丑の日に続き、本邦の秋の食卓を華やかに彩ってきたものなれば吾人には穏やかならざるものがあります。 現時点で九割を外国産に頼る本邦では既に環境省が此れとは別に準絶滅危惧種に認定しており、 国際自然保護連合は世界的な認識の反映であれば、国際取引禁止も懸念されますが、其処迄の措置は取り敢えずは取られはしないと、されはします。 しかし、日本以外にも亜細亜及び北欧などにも広く分布するマツタケは、此れ等全域に於ける松枯れや伐採などで松林が減少する中、生育量減少が明確に指摘されているのです。 輸入規制こそ強制されないとは言え、世界的な減少傾向は心に留めおくべきでしょう。

但し、此処に興味深い記事 が森林ジャーナリスト 田中淳夫 氏の文責にて2020年7月11日に配信されています。 マツタケは赤松に寄生し、其の赤松は痩せた土地の種であれば、 マツタケは痩せた土地にこそ自生する道理です。 すると入会地としての里山の草木に多くの素材及びエネルギーを頼る江戸時代には勢い本邦の山は本来より痩せこけた状態にあったのが窺い知れる訳です。 此の依存が減じたればこそ、山林は元の豊かな姿に戻り、樹種としての松が減じるに伴いマツタケの生育量も減じる勘定にて、 世界的にも事情は同様なのではないか、との主張は充分肯ぜられるものです。 然る事情があるとしても、長く本邦に根付いた食文化が失われるのは心苦しくもあります。 山林を、亡国と迄言わしめる程痩せこけさせたのは、本邦の文化の負の一面でもあったのでしょうが、 其れが豊かな食文化の一部とも密接に関わりあっていたとすれば、 なかなかに一筋縄ではいかぬ文化というものを再考させる今回のマツタケのレッドリスト入り事案でもありました。

追記2(2020年8月2日)

本日2020年二度目の土用丑の日に、環境省とIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストの相違と、 本記事追記1の松茸の場合を鑑みた、食文化と種の保存について2012年9月13日の記事 絶滅危惧種とは~食文化と種の保存 に追記しました。

使用写真
  1. Eel Fish( photo credit: MrMatthewJ via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 絶滅危惧種とは~食文化と種の保存(2012年9月13日)
  2. さかなクン再発見のクニマスが変える野生絶滅の意味(2012年9月23日)
参考URL(※)
  1. 第4次レッドリストの公表について(汽水・淡水魚類)(お知らせ)(環境省:報道発表資料:2013年2月1日)
  2. なぜ生き物は旅をするか?世界一のウナギ博士・塚本勝巳と生命のロマンに迫る(WIRED.jp:2012年11月25日)
  3. キツネザルやマツタケなどが絶滅危惧種に IUCNが最新のレッドリスト公表(SciencePortal:2020年7月13日)
  4. マツタケが絶滅危惧種になった理由は、森が豊かになったから(田中淳夫:Yahoo!ニュース個人:2020年7月11日)
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