すんき漬け~長野県木曽郡発、何でも来いの万能具材

平安末期、平家から源氏へその政権が移る端境期、 倶利伽羅峠に平氏軍を破り天下に朝日将軍として其の名を轟かせた 源義仲 は別名 木曽義仲 と称した通り、その幼少期を過ごしたのが信濃国の木曽でした。 当地は海から遠く離れ、塩の貴重なのはその昔から変わらず、 それは時代が下って武田信玄の治世下に上杉謙信から塩が送られたたとする伝説もあります。 直ぐお隣が塩尻市と称すのは正しく塩の道の終点に当たるからでした。 斯くも塩が貴重品となる当地にて 塩を使わない保存食が考案されたのは極く自然のことだったのかもしれません。

昨日2013年2月14日、人気バラエティ番組 秘密のケンミンSHOW で冒頭紹介されたのがこの保存食 すんき漬け です。 すんき漬けとは赤カブの葉のお漬物なのですが此処でポイントなのがお塩を使っていないこと、 では何で保存食ならしめるのかと言えばそれには 乳酸醗酵 を用いているのでした。 醗酵とは即ち腐ることに変わりはないのですが、 人間に取って都合の好い腐り方を称して醗酵とするのだそうです。 最初から腐っているからこそ腐らない、詰まり保存食たる訳ですね。

乳酸醗酵を用いた食品は例えばヨーグルトが代表的なものとして知られますし、 かたむき通信に取り扱った 鱒寿司 〔K1〕 の歴史を遡ったフナズシもそうでした。 大体が寿司の語源は醗酵して酸っぱい 酸し だとも言われていもするのです。 人類が生き延びるために保存食には斯くも先人の知恵が盛り込まれているのですね。 乳酸醗酵の素となるのはこれまた地元で取れるズミ(小梨)や山梨、ヤマブドウなどの果実を 叩いて潰して醗酵させたもので、此れと湯通しした赤カブの葉を これは漬物の例の漏れず互いに重ね合わせて重石を乗せて漬け込みます。 この作業は赤カブの収穫される冬に行われるとのことです。

人類の知恵の一つとして長野県木曽郡のこのすんき漬けがあり、 木曽地方の郷土料理伝承の指導をする ふるさと体験館きそふくしま の事務局長さんに依れば既に江戸時代後半には木曽地方で食べられていたのが 松尾芭蕉が木曽を旅した際の連歌集歌中に登場するのが文献上の初見としてあり分かるのだそうで、 木曽町長が2008年に開陳した原稿 〔※1〕 にも記される処です。

ところでこのすんき漬け、其れ単体で食してはちょっと酸っぱくって抜群に美味しいものではないのだそうですけれど、 これが様々な食材に合わせることで素晴らしい相乗効果を発揮するのだとか、 その代表として秘密のケンミンSHOWに取り上げられていたのが すんきそば でした。 長野県木曽郡でお蕎麦屋さんの暖簾を潜ればほぼすんきそばがメニューに並んでおり、 地元では当たり前のように多くの注文がされ、美味しそうに手繰る様子が画面に映し出されます。

流石は信州、蕎麦は香り高き打ち立てを文句のつけようのない茹で上がりで出汁に投じるかと思いきや、 投じられるのがぶつ切りにされたすんきにて程好く煮込まれたそれは煮込む出汁とともに 蕎麦の待つ丼に注がれ、お客さんの手元に配膳されます。 酸っぱいすんきと鰹と昆布の出汁が互いに主張する処を分け与えあい絶妙の味わいを醸し出すのだそうで、 またシャキシャキとした食感も堪らない、食した向きは主張します。 番組にこの蕎麦が紹介されたお店は地元長野県木曽郡木曽町は とちの屋 さんに 水車家 さんでした。

そしてこのすんき漬けは温かい蕎麦だけではなく他にも様々な食材に合わせられるのは宛ら万能具材の様相を呈します。 先ずは同じ蕎麦でもぶっかけの冷たいお蕎麦にも乗せられ振る舞う蕎麦屋もあれば 地元の学校では給食の献立にすんきラーメンにすんきチャーハンが上るのは日常だとされますし、 此方も地元 芳香堂 さんではすんき大福にすんきパイ、と和洋両方の具材に活躍、 そして此れも地元の竈炙ビストロ 松島亭 さんではすんきピザが提供され、 正しく地産地消ですんき漬けは八面六臂の大活躍を見せています。

番組出演者の田中要次さんは同地出身で実はふるさと体験館 きそふくしま が立地する場所こそ旧黒川小学校跡地にて此処が母校で、 そして今は木曽町のすんき大使も務めて番組ですんき漬けの取り上げられた喜びを表します。 また出演者の一人がすんきそばを 酸辣湯麺スーラータンメン のお蕎麦版と評したのは未体験の向きに役立つ情報でありました。 更にはすんき漬けから出演者の京都ケンミンが想起した京都の三大お漬物のひとつ すぐき はその昔、何某かの関係がすんき漬けとあったのではないかと思わせられる連想にて興味深いものです。

追記 (2015年2月22日)
本記事に紹介した如く塩も味噌も使わないお漬物となれば極々専門家の目にも留まろうと言う物、 そして其の御眼鏡に適えた専門家は きゅうりのキューちゃん でお馴染み東海漬物の研究員であり商品開発グループ主任の 小村美香こむら みか さん、主業務として微生物と漬物の関係を研究する傍ら 齢31歳にして全国各地に8,800種類は在ろうかと言う漬物の内、 何と500種類以上を実際に口にしたのも大学時代に亡くなったひいお婆ちゃんの影響だと言い、 丁寧な受け答えで育ちの良さを伺わせるとても可愛らしいお嬢さんです。 其の小村さんがTBSの人気番組 マツコの知らない世界 に出演しマツコさんにスーパーで手軽に買える美味し過ぎる漬物や 誰でも簡単に拵えられる漬物を使った絶品レシピを紹介したのが 2015年1月13日の放送分 に於いてでした。 其の中にお取り寄せ出来るお薦め漬物ベスト5の紹介にて 見事ベスト5入りしたのが本記事のすんき漬けなのです。

乳酸菌発酵の純粋な味が楽しめますと小村さんにお薦めされて 丼飯に山盛りのご飯と一緒に豪快に頬張るマツコさん、 ヨーグルトを食べた際と同じ後味を感じておもしろいと印象を述べ、 小村さんが酸味が有って其の儘お味噌汁に入れるのもお薦めですと 本記事に紹介した如く正しく何でも来いの万能具材の面目躍如たるを此処に他方面から応援してくれるのでした。 マツコさんの豊かなリアクションに対しては真っ直ぐな視線を送る大きな瞳を一段とクリクリさせるなど、 とても可愛らしいリアクションを見せてくれるマツコさんのお墨付きもいただいた見目麗しい漬物女子も太鼓判を押す 王滝村の特産品ひまわりマーケットすんきの里 (0264-48-2516)のすんき漬け(2015年1月13日放送時点500g税込み650円)は残念ながら今シーズンは販売終了とのことですが、 其れも自然の恵みから頂戴する有り難さには限り有るものと 次のシーズンを待って満を持して入手すれば一層美味しさの増し マツコさんに負けないほどご飯が進むことでしょう。

使用写真
  1. 木曽駒( photo credit: eiko_eiko via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 何故富山名物と言えば鱒寿司なのか
参考URL(※)
  1. わが町のスローフード・木曽のすんき(木曽町長田中勝己:女性のひろば原稿:2008年12月2日)
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