岡野式腕時計愛好の一つの形~パテックフィリップ・ノーチラス

ターゲット読者に想定するのがタイトルからもお金儲けについて教えを乞いたい向きですから 幾分説教臭くて手前味噌が多いのは、それが編集方針として別段気に止めなくば 相も変らぬ生粋の江戸っ子のべらんめぇ調で時には玉野井の思い出など語り出して 楽しませてくれるのが 学校で教えない"お金"を生む発想法 (以下、本書)にて、著者はかたむき通信にも 痛くない注射針 を以て登場いただいた〔K1〕 岡野工業代表社員 岡野雅行 氏(以下、著者)其の人です。

例に依って世間知を教える内容に終止しはするものですが、 べらんめぇ調で語られる喩えなどなかなか面白く、 プロ野球選手になりたいってんで駅の前でキャッチボールしてるみてぇなもんだ、 と捲くし立てられるストリートミュージシャンは形無しですし、 渋滞で苛苛してたって手前もその一人じゃねぇの、と 環境が悪いったってそりゃお前さんもその環境の一つなんだから心しな、 と言われれば耳に痛くもあるかも知れません。

この如き本書に腕時計ファンには見逃せない件が有りますので 書評の形態を取って本記事に紹介したく思います。 其れが記載されるのは本書も終盤、第6章の 将来を不安なく楽しむヒント に於いて以下の項目が該当するものです。

  • 43.身につけるものを替えて価値観を変える
  • 45.「宵越しの銭は持たない」でお金を回す

第43項目に題される 身につけるものを替えて価値観を変える の身につけるものの例として挙げられるものこそが腕時計でした。 確かに著者のあまり人には言ってない、と記す通り、 何冊か目を通した著者の中にも該当する記載は見当たらなかったように記憶しています。 実は著者は腕時計に凝っており、 その所有数も20、30及ぶのだと言うのでした。

そして、やはり、と言うべきでしょう、 著者は技術屋として機械式腕時計がお好みでクォーツや電波時計には興味ないんだとか、 一つ一つの部品が手作りなのが良い、とするのは機械屋気質其の物、 大きかろうが小さかろうが機械って奴は狂うもんだって前提で作られていて、 そいつを技術で以て狂わないようにしてやろうってのが面白いんだそうです。 お気に入りはトゥールビヨン機構の腕時計、 何故かと問われれば普通の時計だったら一つで済ませる誤差修正や調整を この機構を持つ腕時計では何重にも施してあるからで、 こんなのを見ると胸が躍り始めるのも又機械屋の面目躍如、 それにしてもそうとなればどうしてもお高い腕時計がお好みとなるのでした。

岡野式愛好対象の腕時計のお値段については著者ご本人も納得尽くで 結構な値付けの時計ではあるけれど 此れが時を刻んでいるのを見るだけで心が踊るし時間が楽しい、と来ます。 この経験をしてしまうと幾ら高値の時計を嵌めても楽しくない、とありますが、 イエイエ、充分お高い時計がお好みです、と突っ込みを入れたくもなりますが、 金ぴかの高いばかりの時計ではこんな気持ちにならない、ともありますから、 詰まり高いものに有り勝ちな宝飾品で飾られた腕時計では満足行かない、と言うことでしょう。

一度複雑機構の時計を嵌めれば幾ら高値の時計も丸で魅力がなくなりるのは 時計と言う技術の素晴らしさに惚れ込んでいるからで、 これを以て本書本章に著者の主張する処のものによって自らの価値観が本当に変わる、 其の源泉だともしているのです。 時計がその本来の時間を知らせるものではなくなり、 自分を心地良くさせるものへと変化するのでした。 著者の謂わんとするのは読者が例えば何某かに行き詰まっているのなら こうして身につけるものを変えて価値観を変えてみちゃどうだい?と言う訳で、 著者は人生について語っているのでしたがしかしこれは同時に腕時計から見れば いみじくもクォーツショック以降の機械式腕時計の在り方を如実に言い表わしているように思います。

そのように機械式の特に複雑機構の腕時計に愛着を抱く著者は、 では一体20~30は持つと言う中に具体的にはどのブランドの腕時計を所有しているのでしょうか。 本書を少し読み進めればその回答の一つが得られます。 そのブランドは世界三大高級時計ブランドの一つ パテック・フィリップPatek Philippe) であるのが第45項目 「宵越しの銭は持たない」でお金を回す に記されていました。

40年前ちょいと前に時計でも買いに行こうと銀座の三越に出向いたら ノーチラスNautilus) ってぇ洒落た腕時計を見付けた、てな塩梅で具体的なモデル名も記される、 その腕時計に一目惚れした理由はデザインだったと言うのも技術を吹聴しながら面白いもので 潜水艦のハッチをイメージしたダイヤルケースが技術屋の心を擽ったんだそうです。 手に取って見たのもそのノーチラスの名前ゆえで、 ノーチラスは往時の最先端技術が使われたアメリカ海軍の原子力潜水艦で 1954年1月21日に進水式、翌1955年1月17日史上初の原子力運転に成功し、 1958年8月3日には北極海を一度も浮上せず横断して話題となっていたものでした。 このニュースは著者の心に深く刻まれていたのでしょう、 ノーチラスを称する腕時計は手に取って見ると実にスタイル好く思えたと言うのです。

今2013年の40年前と言えば1973年、パテック・フィリップが ジェラルド・ジェンタGerald Genta) 氏の手になるデザインでノーチラスシリーズを発売したのが1976年ですから大凡符合します。 若しかしたら著者が手にしたのはシリーズ最初のモデル Ref.3700/1 かも知れません。 デザインに惹かれて其の場で購入を決めたその価格は当時120万円、 大層なお値段ですが、パテックフィリップだから買ったんじゃない、 ノーチラスってぇ腕時計が洒落てたから買ったらそいつがパテックフィリップだったんだ、 と著者が言うのは決して成金趣味ではなく其の心意気を読者に伝えたいのでしょう。

購入後にお気に入りのこのノーチラスを腕に嵌めては著者は矯めつ眇めつ眺めていたのでしょうか、 どうにも気になったのか、それともそんな様子を傍から見ていたのか、 その辺に詳しい人物が著者にそのメーカーはパテックフィリップと言って 名立たるブランドであるのを伝えたらしくあります。 このエピソードを以て値段が幾らしようとも決してブランドで買うんじゃなくして、 先ずはデザインに惹かれて買ったみたらそいつが世界でも有名な時計メーカーのモンだったんだ、 と主張する訳です。 大分後からパテックフィリップと知った著者ではありますが、其れと知って本書のネタとするよりは、 何も知らずに神秘のその腕時計に愛着を持って接していた方が幸せだったような気もします。

かたむき通信参照記事(K)
  1. 画期的!痛くない注射針は岡野式、青柳式のどちらもが日本発で蚊がモデル(2012年6月24日)

追記 (2013年8月6日)
ノーチラスのデザイナーであるジェラルド・ジェンタ氏と他の腕時計デザインについて バイきんぐ御用達オーデマピゲ・ロイヤルオークのデザイナーのジェラルド・ジェンタ氏 を配信しました。

追記 (2014年11月15日)
パテックフィリップの Henry Graves Supercomplication が携行時計として世界最高値でオークションに落札されたのを受けブランド価値を考察する記事 世界一高価なウォッチと言う挿話 を配信しました。

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