あげづけと味付けがんも~2大豆腐加工食品ご当地絶品グルメ

日本人の食生活に米は主食として厳然たる存在感を示しますが、 同時になくてはならない食材が大豆であるのは論を俟ちません。 料理のさしすせそ 即ち、砂糖、塩、お酢、 醤油せうゆ(「せうゆ」は牽強付会で本来は「しやうゆ」) 、味噌、と5つの内、2つもの調味料の主原材料となりますし、 如何にも日本の食卓に似つかわしい納豆も豆腐も大豆が原材料です。 かたむき通信にもつい先日、老舗企業の挑戦として味噌、醤油事業を営む企業を取り上げた[K1] ばかりでした。

DIY TOFU TUTORIAL: It starts from dried soybeans photo credit by Andrea_Nguyen
DIY TOFU TUTORIAL: It starts from dried soybeans photo credit by Andrea_Nguyen

斯くも大豆は日本人の食生活に欠かせないものでありましたが、 この大豆を主原料とした豆腐を更に加工した食材もまた、 日本人の食生活をバラエティー豊かなものにしています。 此の豆腐加工食品に頃日メディアで取り上げられて爆発的なヒットとなった 2大ヒット商品と言ってもいい食材があり、 其れは孰れもご当地グルメとして地域の人々に愛される食材でもありました。

先ず、一方の雄は あげづけ です。 大人気のオネェキャラである マツコ・デラックス さんが毎回様々な分野のスペシャリストを招いて其の世界を垣間見る番組が TBSテレビの深夜枠でオンエアされている マツコの知らない世界 であり、その2013年2月1日放送分では マツコの知らないスーパーマーケットの世界 がフィーチャーされ、スペシャリストとして登場した 菅原佳己 さんが紹介したひとつがあげづけでした。

案内人は菅原さんは御徒町生まれ、 スーパー大好き主婦で全国のスーパーの2万食品を食べ尽くして 今や好き過ぎて 日本全国ご当地スーパー 掘り出しの逸品 なる著作迄ものしてしまいました。 その菅原さんが足で稼いだスーパーの世界の中からマツコさんに選りすぐりの知られざる 全国のご当地スーパーの地元食材を紹介しようという目論見です。 1日4千万人が利用すると言うスーパーは日本に凡そ2万軒、其の内大手が3,500軒ですから 残るご当地スーパーは13,500軒、 此れが多くの知られざる絶品グルメの宝庫だった、と言う訳です。

御徒町に生まれ育った菅原さんの先ず馴染みがあったのが 御徒町駅前で鮮魚と食料品と総合小売を営むスーパー ファミリーデパート吉池 で、この店を知るマツコさんと一頻り絶賛するなどして、 絶品グルメを紹介、マツコさんが旺盛な食欲で次々に試食していくのですが、 菅原さんの紹介するご当地グルメには舌を巻くばかり、 そんな中、商品ランキングを付けてもどうしても取り扱い品が上位に登場させざるを得ないスーパーが 高山市内石浦町で飛騨高山の特産品をスーパー価格で全国配送してくれる ファミリーストアさとう でした。 余りのスーパーさとうが菅原さんの口に上るので マツコさんに癒着を疑われる菅原さんでしたが、 其の紹介された食材を口にしたマツコさんは納得せざるを得ません。 普通、売上を伸ばしたいとなるとナショナル商品を売りたがるものだがスーパーさとうでは 自らが良いと判断したものだけを集めて打っているのが菅原さんの琴線に触れているようです。 中にも大絶賛で次から次へと試食用に用意されたそれを口に運んで止まらないのが あげづけだったのです。 其の余りの美味しさに菅原さんが提示したランキングで2位とされていたあげづけは 1位も美味しいけど2位と1位は順番が逆でしたね、とマツコさんが指摘するほどでした。

あげづけ は飛騨高山の老舗とうふ店 株式会社古川屋 の人気商品で138円の値付けがされた一見ごくごく普通のお惣菜です。 一口で言えば味付けの油揚げなのですが、 其処は其れ、厚めの生地に二度揚げ、独自調合のタレ、とマツコさんが 珍しい味ではないけれど家では絶対に作れない味 と評す処です。 ちょっと聞けば稲荷寿司のお揚げを想像しますがそのようには甘くないのだそうです。

さて、スーパーさとうも古川屋も大変だったのが此の放送後でした。 1日300件ほどだったアクセス数は2013年2月1日の関東地方の放送後は1万件に、 12日の関西地方の放送後は4千件に、 注文は放送前後で50倍以上に跳ね上がったそうです。 此れを以て深夜の放映にも関わらず マツコの知らない世界 の人気が高いと思わされたトピックでもありました。 この大人気を受けて2013年4月5日のスペシャル放送分の巻頭に菅原佳己さんが再登場したのです。

理想のご当地スーパーが再現されたセットを背景に 魅力的なキャラの立った菅原さんとマツコさんが独特なやんわりとした遣り取りで番組は進行します。 しかしセットからマツコさんが逸早く取り出したのが矢張り古川屋あげづけで 早速頬張り始め、持ち帰ると宣言、手元に確保します。 菅原さんにも前回の放送のその衝撃が漏れ伝え聞かれているらしい旨、発言、 あげづけは空前の大ヒット商品となっていたのでした。 その反響の大きさに地元飛騨経済新聞にも取り上げられる処[※1] となりました。

今回菅原さんが提示したフリップの ネットで全国誰でも買える人気配送ランキングでは遂に第1位、 何と1箇月で5,000パックも出荷されて大変なことになっているらしい状態だと言います。 前回の深夜枠で此れですから、 今回の9時からのゴールデン時間帯のスペシャルの放送の冒頭で取り上げられれば如何ばかりか、 とその影響を心配するマツコさんでした。 画面に向かって皆さんに冷静さを取り戻して欲しいと訴えるマツコさんにスタッフの笑いが誘われます。 如何にも尤もと肯んぜざるを得ないのはマツコさんの述べる処の 飛騨の人ってどれだけ豊かな食生活をしてるのかって話し と言う主張でした。

そしてもう一方の雄が静岡県富士市の地元住民に愛される食材 味付けがんも です。 がんもとある通り、此れはガンモドキの一種であるようです。 がんもどき、飛竜頭とも呼ばれる食材は普通は 豆腐に人参、に牛蒡、山芋に椎茸、昆布や銀杏などを練り込み油で揚げたもので おでんや煮物の具材としてもお馴染みでしょう。 ご存知の通り決して甘いものではありませんが、 味付けがんもはとても甘くてご飯のおかず処かおやつとしても食べられていると伝えたのが人気バラエティ番組 秘密のケンミンSHOW の2013年4月11日の放送分に於いてでした。

ご当地ものと言っても家々で作られるものではなく、 お豆腐屋さんやスーパーなどで購入するものなのだそうです。 その味付けがんもの製法が静岡県富士市の 金沢豆腐店 の方式のものが番組で紹介されました。 先ずはお豆腐屋さんならでは、自家製木綿豆腐を用意し手で粉々に砕いて布の袋に包み込みます。 これを機械でプレスして水分が搾り出されれば底に攪拌器の備え付けられた寸胴に移し 人参、胡麻などを入れてよく掻き混ぜます。 此処迄は普通に見られるがんもどきの製法なのですが 次に投下される食材が甘さの源、山盛りの砂糖であるのには驚かされます。 なるほど甘い訳で、これこそが味付けがんもの秘密なのでした。

機械で花びら型に整形された生地は120℃の油の中へ浸けられ、 低めの温度で5分間、其の後仕上げに高温の油に移して2度揚げされ、 含まれた砂糖が焦げて表面が焦げ茶色に変われば完成です。 金沢豆腐店のこの味付けがんもは一つ150円のお値段、 普通のがんもどきの10倍売れると言いますから地元ならぬ向きは驚かされもするでしょうが、 地元の方々はがんも、と言えば此方を思い浮べると言いますから何の不思議もない売上比率なのでした。

富士市民がこの味付けがんもと言う食材を評するに 健康的で廉くって柔らかくって花びらみたいで、黒っぽくて醤油で煮付けてあるような色だけど醤油味じゃなくて甘く、 おやつでも夕食でも味つきなので両刀使いで行けて、 外がカリカリで中がフワっとした食感の昔からあるファーストフード、と番組冒頭にあったのが、 他県民に取っては頭上にはてなマークが幾つか浮かんだものの、 其の製法迄垣間見れば成る程、と納得出来るのでした。

花びら型がはっきり見える四葉のクローバー型をしているのは但し金沢豆腐店に特徴的な形で、他にも スーパー山内 では花びら5枚形に生地の時点では整形されるも揚げると膨らんで丸みを帯びるもの、 まるはし鮮魚店 では正真正銘真ん丸い普通のがんもどき型、と其々が夫々特徴的な形で 孰れも静岡県富士市の取り扱いで一つ150円前後で提供されるものです。 店頭に並べるお店も上記お豆腐屋さんにスーパー、鮮魚店から ミートとデリカの松野 ではお肉の隣に味付けガンモが陳列されているのでした。 現在、富士市内では豆腐メーカー6社が製造販売しているのだそうです。

静岡県富士市では夕食の食卓にも、主婦達の寄り合いのお茶請けにも大活躍の味付けがんもですが、 さて、では一体、此の地域特有の此のがんもどきはいつ頃、如何なる理由から住民に好んで食されるようになったのでしょうか。 此れに答えてくれたのは静岡県豆腐油揚商工組合の理事氏でしたが、 残念なことに何時、誰がどういう形で作ったかは分からないのだそうで、 それでも其の黎明期に関して100年ほど前から精進料理の一環として出されていた記録が残っているとのこと、 お葬式とか、法事とかの仏事に於いて提供されたのが始まりのようです。 其れが昭和40年頃から日常的に食べられるようになったと言うお話でした。 明治には未だ砂糖は貴重なものでしょうから、 此れが潤沢に含まれた味付けがんもは特別な時にだけ神様、仏様に備えられ、 其のお零れに人々は与っていたものを時代が下って普通に食べられるようになったのかも知れませんね。

お隣の富士宮市ではB級グルメの富士宮焼きそばで町興しが大いに盛り上がったのが知られます。 そうであるならば味付けがんもだって、と言う気持ちもあるのかも知れません。 昨年2012年にはこの味付けがんもが 富士スイーツがんも として呼び名もパッケージも新しく登場しました。 そしてこのスイーツがんもをパンに挟み込んだ商品が富士市のパン屋さん 小麦畑松林堂(2020年3月26日現在Webサイト閉鎖確認) で売られているのを番組は紹介しました。 其の名もサンドウィッチならぬ がんもいっち として公式サイト 富士がんもいっち 公式サイト 迄用意されています。 味付けがんもをピリ辛ソースに付けパンに挟み込んだ今地元でも話題の商品なのだそうです。 人気テレビ番組に取り上げられ、富士宮市に負けない町興しがなるのかも知れません。

日本人の食生活に密接に結び付いた大豆が様々な調理法で形態を変えて夫々に地域に根付き、 日本人に大豆が愛される如くあじづけや味付けがんもとして地元の人々に好まれ、愛され、 其れが今又人気テレビ番組にフィーチャーされ改めて見直され 全国民の支持を受けるのは大豆の持つ底力に大豆愛好者としては実に頼もしくもあります。

使用写真
  1. DIY TOFU TUTORIAL: It starts from dried soybeans( photo credit: Andrea_Nguyen via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 長野味噌の倒産とキッコーマンの海外展開に見る老舗企業の挑戦(2013年4月10日)
参考URL(※)
  1. 高山の郷土食材「あげづけ」全国へ-マツコ・デラックスさんが絶賛、話題に(飛騨経済新聞:2013年2月13日)
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