Gunosyの弱点

新興Webサービス Gunosyグノシー が此処数日大いに話題を集めています。 此のサービスは今年に入ってブレークし、多くの人に使われるようになったもので 従って世間の耳目を浴びることも増え、其の運営方針及び仕組みについて毀誉褒貶織り成し、 数日前に発せられた疑義が信憑性を帯びていたために其れを潮に 各人が活発な議論を寄せ、活況を呈していると言う訳です。

Gunosy

curationキュレーション サービスなる範疇に分類されるものです。近年インターネット上の情報は爆発的に溢れかえってしまい、 有益な情報を拾い上げるのが極めて困難になってしまいました。 この中から適宜合目的的に適切な情報を拾い上げて紹介するのものをキュレーションサービスと言い 需要も話題性もあって関連サービスが雨後の筍の如く登場して来ています。 Curatorキュレーター とは図書館や博物館などの管理職や専門職として従事する者を意味し 利用者が蓄積された施設から必要な情報を引き出すために便宜を図るべく其の技能を発揮しますが、 此れをインターネット上の情報に適用した際に其の操作を キュレーションと呼び習わすようになって来たのでした。

此れ迄にも類似のサービスはありましたがGunosyでは情報提供先を個人に絞る処に新規性がありました。 最大公約数的に情報を纏めて一定の人々に満足を齎すべく情報提供する従来の手法ではなく、 極めて個人的嗜好に的を絞って情報を紹介する処にこそ注目を集める切り口があったと言えるでしょう。 しかし此れが実は個人的嗜好に適合させたものではなく、 実は従来と変わらぬ最大公約数的な纏めに過ぎず、それさえも はてなブックマーク の情報を流用したものではないか、 加えてGunosy自体に批判的な情報には検閲が掛かっていた、と言う主張が 或る程度説得性を持った証拠と共に提出されて議論を呼んでいるのでした。 以下に其れ等記事を幾つか拾って見ましょう。

先ずは此の活況に先鞭を告げたものとして昨日迄に此れ等の記事がネット上に上げられ、 中にも最初のものが嚆矢となったようです。 併せて此方もキュレーションプラットフォームと銘打つまとめサービスとして有名な NAVERまとめ には以下の如きまとめが飛び交いました。

愈々拡散されたこの話題は益々人々の取り上げる処となり、 主だった処でも本日には以下の如き枚挙に暇無い大量の記事がネット上に迸り出で俄然活況を呈せば、 かたむき通信的にも此れ等の意見とは少々趣を変えて 独自の視点から些か思う処を述べようと本記事をものしたものです。

様々な意見がネット上に展開されるのを見るのは興味深いものですが、 さて、矢張りGunosyをキュレーションサービスとして利用している身になれば どうしても批判的な意見の正当性は受け容れざるを得ないものでしょう。 はてブのホッテントリが1日遅れで届くのは容易に気付かれる処ですし、 Gunosy批判記事も本日になって漸く届いた感も受けます。 此の一連の議論について最も参考に供されるべきと思われるのが上の3リストの内にも最後、本日2013年5月6日に配信された中に最初の記事にて、 当のGunosy提供側の中にマーケティングを担当すると言う竹谷氏の文責になる内容であり、 以下2点について主張が述べられています。

記事に於いては竹谷氏は前者を否定、後者を肯定しており、 又加えて興味深い部分を以下に引用しましょう。

マネタイズに関しても現在一切行っておりません。 毎月サービス維持を続けるためにサーバーコストや人件費など数百万単位で口座からお金がなくなっていきます。 もうすぐ、広告等でマネタイズを試験的に行っていく予定です。

以上を材料に、従前からサービスの利用に於ける所感を加えて Gunosyの弱点 は恐らくは 記事収集にある のだろうと考察します。 インターネット上の情報収集、即ちクローリングの問題です。

Googleが其の登場時に掲げたコーポレートミッションである Google の使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること[※1] は世間一般に極めて馬鹿げたこととして受け取られましたが、 彼らは或る程度の現実性を以てWebサービスに落とし込み大いに受け容れられ IT業界の覇権を握ったことは周知されています。 溢れる情報を整理するには先ず其れを収集しなければなりません。 世界中と謂わずともインターネット上の情報だけでも其れは凡そ莫大な量で 其の全てを整理以前に集めることさえ不可能に思われた為に 人々の嘲笑さえ買い兼ねないコーポレートミッションであったのでした。 其の目的に沿うためには彼等は畢竟物量作戦を強いられざるを得なかったのはかたむき通信に一連の書評記事[G1~4] とした中に書かれていますし、中篇[G2] には インターネット純血の出自を持つ情報産業企業体が古典的で物理的存在の権化のような電力と、 即ち物理的社会インフラと必死に格闘しなければならないと言う状況 を実に興味深いものとして記し置きました。

竹谷氏の言を其の儘信用すればGunosyに独自のアルゴリズムは有るのでしょう、 しかし其の情報収集が、記事の、URLの出処がはてなであったらどうでしょうか。 其れが例え独自のアルゴリズムを有しようが出力ははてブホッテントリと似通ったものとなるのは必然です。 詰まりGunosyは膨大な情報を処理するインフラを擁する余裕が資金的にも技術的にも現時点で満たされていないために 記事の出所が極めて限られたエリアに限定されていることが推測されるのです。

Gunosyからは取るに足りない所謂アルファブロガーの浅はかで薄い記事が紹介されるのが屡でした。 ネット上にバズる記事は極めて偏重し、此の如きブログ記事などは其の範疇に典型的に存在しますから Gunosyが情報収集をSNSなどのブックマークやレコメンドに依存している以上は免れ得ない仕儀でしょう。 此れ等も利用者から見れば批判を招くのはまた致し方ない部分なのは間違い有りません。 其れは又同時にネット上にバズり難い記事はGunosyの紹介から漏れることをも意味し、 此れも多くの批判的意見に包含される処です。 例えば利用する身となれば収集したい情報である記事をSNSに流せども流せども 類似の記事は紹介されることは一切有りません。 具体的なキーワードを此処に記せばそれは Blender であり、 PureData が該当します。 此の関連の記事は現状Gunosyからの紹介は有り得ないとして良いでしょう。 Googleとて精度が低く完全とは言えませんが、 BlenderPureData の情報提供を依頼すれば其れなりのものは返してくれますが、Gunosyに其れは期待出来ません。 これは偏にGunosyとGoogleの情報収集力の差と言って宜しいものと思われます。

従ってGunosyの弱点は情報収集にあるとする所以ですが、 此れは実はGunosyにGoogle並みのサービスへの成長の期待の裏返しでもあります。 良かれ悪しかれ現状検索エンジンはGoogleの寡占状況にあり、 其の次段階への踏み出しのSNSならぬ方向への一歩がGunosyには期待されているのではないでしょうか。 此処に有名人などの人力の介入がGunosyでは検討されているようですが、 検索エンジンに於けるヤフーからGoogleへの覇権の転換を思えば其れでは足りないのは明らかです。 真にキュレーションサービスを展開するならば インターネット上の情報収集は欠かすべからざるものであり、 其の為には大物量が必須となるのはGoogleが証明しています。 言ってみればGunosyはGoogleが何時か来た道を再び行かねばならないのです。

奇しくも竹谷氏文責の記事にはマネタイズに言及されています。 恐らくはGunosyは疾うに此の弱点には気付いており、 其の克服には財務的強化が大前提となる故にマネタイズに言及せざるを得ないものなのでしょう。 Gunosyには此の大難関が今目の前に立ち聳えていると思われます。 Googleは画期的な検索エンジン連動広告で此れを克服しましたが、 Gunosyも今は広告が其の最有力手段であるものと考えているようです。 インターネットがメディアでありメディアと広告の深い関係を思えば 広告の配信で恐らくは或る程度財務力が強化されるのは間違いありません。 其の先に新たなマネタイズの道を見出すのか否かは未だ神ならぬ身の誰も知る由もありませんが、 此の如き利用が促進されたサービスに先ずは取り敢えずの財務的保証はされているも同然と言っても良いかも知れません。

嘗てニコニコ動画がYouTubeのインフラを借用してユーザー数を伸ばした後、 YouTubeに情報提供を拒否されて自前でインフラを構築し今や大サービスへと変貌を遂げました。 さてGunosyははてなを始めとするSNSと決別して独自の情報収集ルートを確立出来るでしょうか。 またGoogleは今でも検索結果の表示アルゴリズムに細心の意を砕いてなお、 スパムを撲滅出来ず、精度も其の登場時のインパクトに比較すれば大きな向上は見られず、 何某かの根本的なアルゴリズム変更が待望されているように見受けられます。 さてGunosyは現在の議論の已んだ其の先にどのようにサービスを展開するでしょうか。 多くの人々に利用され、Googleを追撃する体制が整い、効果的マネタイズ手法も構築された 其処でこそキュレーションのアルゴリズムが評価されるべきであると考えるのです。

追記(2020年3月21日)

本記事配信より七年閲し、 グノシーがGoogleの代替サービスとは成り得ないのが明らかになりました。 情報収集に技術力を傾けるよりは、 ニュース配信サービスとしてのマーケティングに持てるリソースを割いた感が有り、 其の後のニュース配信サービスの隆盛と其の嚆矢たる存在とも見做されれば先見の明は有ったのかも知れませんが、 些か遺憾の意を抱かされるのも否めません。 今となっては明確となった其の方針が影響したか否かは分かりませんが、 頃日芳しくない情報が齎されました。 グノシーの完全子会社が虚偽広告を制作したという報道[※2] です。

子会社名は digwellディグウェル と称し、2017年夏から翌年18年6月に至る期間、架空の口コミや、無関係者画像を用いた広告が制作され、 親会社グノシー社以外にも、他メディアのサイトにも掲載されたとされます。 広告とは言え体裁は一般記事的に作られていれば、当該ページ内リンクから商品購入サイト誘導の動線が用意されるのは所謂アフィリエイトの形態で、 見る人に依ってはステルスマーケティングの烙印を捺され兼ねませんし、内容も虚偽が含まれれば尚更悪質と取られても致し方ないでしょう。

ニュース配信サービスが興隆すれば競争の激しいのは容易に推測され、 其の環境下にゴーイングコンサーンとしての利益確保を慮れば、先駆けとしてのマーケットバリューを用いた今回の商法には食指が動くのも分からなくはありませんが、 商倫理に基き踏み止まって欲しくありました。 本記事配信時のGoogle社に匹敵する事業展開への要望から見れば期待外れとなった グノシー社 ではあります。

Googleクラウドの核心書評記事一覧(G)
  1. 前編~クラウドとWSC(2013年1月4日)
  2. 中編~エネルギー効率化と比例性(2013年1月17日)
  3. 後編~WSCの課題(2013年2月14日)
  4. 付編~DRAMエラーは珍しくない(2013年3月1日)
参考URL(※)
  1. 会社情報 – Google
  2. 架空の口コミ、女性の写真借用…グノシー子会社が虚偽広告制作、社内ガイドラインに抵触(毎日新聞:2020年3月17日)
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