スウォッチ・システム51バーゼルワールド2013に登場す

ライン川に大型船舶が遡り得る最終遡行地点、 フランス、ドイツと国境を接するチューリッヒ、ジュネーヴに次ぐスイス第3の都市が バーゼルBasel) です。 スイス最古となる大学、バーゼル大学を擁す同地は同国における文化の中心地であると共に 時計ファンの注目の地でもあります。 其れは毎春、時計及び宝飾品産業界の世界最大且つ最重要と目される バーゼルワールド(BASELWORLD) の催される地でもあるからでした。 今年2013年も4月25日から5月2日に掛け時計、宝飾品関連業界の約1,800もの専門企業が 各々自らの新製品、新技術を携え一堂に会し、10万人からの訪問者が集う盛会となったのです。

従って腕時計の有名ブランドが参集する場でもあるのでしたが、 此処に一つ今年2013年が初めてのバーゼルワールドへの参加となった腕時計メーカーがありました。 スウォッチ です。 スウォッチの創業は1983年〔K1〕 実に創業来30年にして初の世界最大の腕時計ショーへの登場となりました。

満を持してのスウォッチ社の此のイベント参加には其れなりの理由が有る筈です。 30年前に誕生し瀕死のスイス時計業界を牽引し火の鳥の如く復興せしめて なお今世界の腕時計界の巨人として君臨しながら 30年間と言う長期を跨いでの新たな行為には其れなりの実を伴わない筈が有りません。 其れが スウォッチ・システム51Swatch SISTEM 51)でした。

クォーツショックに凋落したスイス時計業界にあった30数年前、 経営コンサルタントとして復興を引き受けた ニコラス.G.ハイエクNicolas George Hayek) 氏の打ち出した方針は驚くべきものでした。 意気盛んな日本勢の腕時計に立ち向かうに当たり クォーツ・ムーブメントで以て真正面から対抗せんとしたのです。 此の方針は当時ETA社代表の アーンスト・トムケErnst Thomke) 氏の進めたプロジェクトとも合致、而して第2の時計、Second Watchたる スウォッチ は誕生〔K2〕 し世界を席捲、スイス時計業界を奈落の底から引き上げたのでしたが、 其の核との言えるムーブメントがクォーツだったのは注目に値します。

そして30年後の今日、スウォッチ社が世界に向けて発信すべく 世界最大の腕時計イベントに携え来たった システム51 のムーブメントこそ機械式でした。 驚きを以て迎えられた此の情報は多くのメディアに依ってネット上にも共有〔※1・2〕 される処となりました。

共有された情報からは此のシステム51が新規に17件の特許を申請する、 即ち丸っ切りの新設計である100%スイスメイド機械式ムーブメントであり、 パワーリザーブが90時間とされるタフネスさを有し、 ムーブメントの表面が印刷可能で、 スウォッチならではのデザイン性及び値段、即ち 100~200スイスフラン(約1万~2万円)と言う廉価であること、 などが知れます。

そして何と言っても特筆すべきであるのが、 新設計の機械式ムーブメントを構成する部品点数が 51箇と言う極少数に抑えられていることでしょう。 此の51と言う数字にスウォッチ社が拘りを有したのは、 彼のスウォッチが心臓部に採用したクォーツムーブメントの部品数こそ51であったからでした。

スウォッチの登場時、即ち1983年当時にも51と言う部品数は画期的でした。 機械式腕時計となれば部品数は大凡90数点に及び、 また複雑機構ともなれば軽く100点は超えるものであるのが常識だったからですし、 部品数は特にスイスに於いては扱う時計職人の矜持でもあったでしょう、 であるからこそ其の極小数への削減は時計業界の渦中に在っては なかなか想起し難い発想の逆転であったのです。 而してコスト的にも充分日本勢に対抗し得るものとして必要不可欠の要因は成立し、 スイス時計界の屋台骨を司らしめ、其の上に今世紀スイス機械式腕時計の花が咲いたのでした。 高級腕時計の礎を築いたのが廉価で提供されるムーブメントであったことは 決して等閑に受け取られるべきではありません。

そして今回のシステム51は部品点数のチップ化に依る削減の比較的容易なクォーツではなく 機械式に於いてこそ成就されているのには驚きを禁じ得ないものです。 経営陣のみならず恐らくは其れ以上に開発チームリーダーのETA社の ティエリ・コヌスThierry Conus) 氏を初めとする開発陣は意地に掛けても此の部品点数を堅持したかったのはなかろうかと忖度します。 山は其処にあるから登られるのであって 図らずも実に上手い設定課題として機能した気がするのです。

此の極小数の部品数と特長を構成せしめた方針が推し進められれば 当然ながら其の組み立ては全自動となり、 其の実現の為には1つの螺子で以て5つのモジュールが中心部で結合される構造が考慮されており、 此れがコスト優位に働かせしめるのは論を待たずして故にこそ 上に掲げた価格設定、詰まりは現行のスウォッチの価格を充分意識し、 其れと同列とする値付けが可能となっているものの筈です。

スウォッチ社の新時代に向けた新機軸であるスウォッチ・システム51を 2013年4月25日にプレゼンした人物こそ現スウォッチグループのCEOであり、 1954年3月、スウォッチグループ創業者のニコラス.G.ハイエク(Nicolas George Hayek)氏と マリアンヌメッツァー(Marianne Mezger)さんの間に儲けられた ニック・ハイエク・ジュニア(Georges Nicolas "Nick" Hayek, Jr.) 氏〔K1〕 であった〔※3〕 のも象徴的でしょう。 即ちスウォッチ・システム51はスウォッチ社新世代の魁であると共に象徴とも成り得、 旗幟としても機能し、今後数十年を牽引し得る新機軸とも見られ得るのです。

以下スウォッチ社がシステム51の為に用意した公式Webサイト〔※4〕 から内容を拾ってみれば先ず要約としては以下がリストアップされます。

  • 全自動で組み立てられる機械式ムーブメント
  • 部品点数はスウォッチのラッキーナンバーである51箇
  • 結合は中央に螺子1本
  • パワーリザーブ90時間
  • 100%スイス製

そして更なる情報も求める向きには先ずは自らを30年前腕時計界の天地を転換せしめて今、 新登場させたシステム51が新視点を齎し、新基準とならしめ、スウォッチの信条たるは 其の乙でいて驚きを齎す嘗て無いシンプルさ及び革新とを掲げるものであると誇らしげに謳います。 通常自動巻き機械式ムーブメントはシステム51の倍の部品数を有し中には600を数えるものもある中、 正しく其れ以上でも其れ以下でもない51の部品からシステム51が成るのは 一重にシンプル性及び効果的デザインに依るもので、 此の51こそスウォッチの魔法の数字であり、幸運の数字でもあるとします。 更にはシステム51をコペルニクス的転換とも称する其の由縁に、 此れ等部品がたった一つの中央の螺子で以て結合される其の構成を コペルニクスが中央に太陽を配置して人々の宇宙観に大転換を齎したのに比するからでした。 システム51は全自動で製造される世界初の機械式ムーブメントであり、 またレーザーで工場出荷時に設定することでレギュレータを廃したハイテク脱進機である旨、 パワーリザーブの90時間に及ぶ旨も、又主張されます。 システム51は他のスウォッチと同じく100%スイス製であり、 又同様にエンドツーエンドに品質保証されるものであると結ばれ、 同社の絶対的な自信が垣間見えるものです。

以上の如き廉価でありながらスイスメイドのブランド力を有する機械式新型腕時計 延いては新型機械式ムーブメントが世界の腕時計界を根幹から揺さぶらぬ筈もないでしょう。 実際に市場に出回れば現在の棲み分けを大きく変えざるを得ないでしょうし、 他腕時計メーカーも対抗手段を講じて来るのも容易に予想されます。

2013年今秋10月13日に世界で同時発売される予定が謳われている 大きく業界地図を塗り替えると思われる此のスウォッチ・システム51は 日本メーカーこそがこの挑戦すべき新機軸だったのではないかと思われるのですが、 果たして日本腕時計界は如何見るでしょうか。

使用図
  1. baselworld( photo credit: rosmary via Flickr cc
  2. Swatch SISTEM51(Screen Shot via Official Swatch Website
かたむき通信参照記事(K)
  1. スイス時計救世主スウォッチグループの創設者ニコラス.G.ハイエク氏とは(2012年4月28日)
  2. Swatch(スウォッチ)の開発、誕生とアーンスト・トムケ氏とニコラス.G.ハイエック氏(2012年5月8日)
参考URL(※)
  1. 「スウォッチ」がマス向け新・機械式時計を発表(WWD JAPAN.COM:2013年4月26日)
  2. 30周年の「スウォッチ」から、画期的な機械式腕時計が誕生!(Pen Online:2013年5月20日)
  3. Swatch(スウォッチ)は、2013年4月、最先端の技術を駆使した51パーツで構成される最新型自動巻きムーブメント搭載の“SWATCH SISTEM51(スウォッチ・システム51)”をバーゼルワールドにて発表(@Press:アットプレス:2013年5月14日)
  4. Official Swatch Website - Swatch International
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