オメガ・スピードマスター・プロフェッショナル・アポロ11号45周年限定モデルとバーゼルワールド2014に見られた腕時計界の傾向

Baselworld 2014

腕時計ファンなら注目せざるを得ない世界最大の腕時計及び宝飾品の展示会である バーゼル・ワールド2014BASELWORLD Watch and Jewellery Show 2014、フェアとも)〔※1〕 は今年で第42回となり例年同様一週間程の期間、 2014年3月27日から4月3日を以て開催されました。 かたむき通信には去年のバーゼルワールド2013に於いて スウォッチ・システム51を紹介〔K1〕 した処ですが、開催から数ヶ月も経って今年も遠く離れた日本にも ネットや雑誌などを通して出向けない向きにも租借された上での有用な情報の得られる時期となりました。

世界一の腕時計のお祭りですから日本に限らず世界中の大手メディアに取り上げられもし 其の一つのウォールストリートジャーナルに CHRISTOPHER TENNANT 氏の文責で A Simpler Time for Men's Watches〔※2〕 なる題目でバーゼルワールド2014から伺える当世腕時計事情と言った内容が寄稿されていました。 此処に於いて一部の機械式腕時計ファンにはなかなか手厳しい意見が述べられているようです、 と言うのは時代の流れとして複雑機構が疎んじられ、シンプルに傾いていると言うのです。

其れ等の主張はモンブラン(Montblanc)時計部門の責任者managing director氏の 「2007~8年頃迄は大きいことが良いことだったが今はエレガント且つスリムに強く回帰しつつある。」 との同社の2012年のStar Classiqueシリーズが1997年の復古であるのを踏まえた言や、 1.6mmの過去最薄ムーブメントを搭載した新製品Patrimonyの購買者行動を見た ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)社のCEOであるJuan Carlos Torres氏の 「バイヤーも相も変らぬステロタイプのハイパワーアイテムの選択から決別しつつあるし、 建築家や音楽家、デザイナーなど多くのアーチストが社会的ステータスならぬ知的ステータスの為に求めている。」 との言などに後押しされるものです。 又引用されるパテックフィリップ(PATEK PHILIPPE)社のアメリカ社長、Larry Pettinelli氏の 「お客は大袈裟に複雑なオモチャ自慢など望んでいやしない。」 なる言はかなり辛辣です。

此処等辺は名前を挙げずとも暗に近年の腕時計大型化の立役者、パネライ(PANERAI)や かたむき通信にも取り上げた複雑機構新興の旗手、Richard Mille(リシャール・ミル)〔K2〕 が想起されずにはいられませんが、決して個別的な揶揄ではなく、 時代の振り子の反動としての全体的雰囲気であるのでしょう。 少し離れれば孰れの機種やら判別つかない一般の人々に優越感を抱く腕時計フリークの時代では最早ない、と言う訳です。

此れ等に見られるバーゼルワールド2014で現れた 複雑からシンプルへの回帰志向の兆しを代表するかの如く記事中にも最初に紹介されるのがオメガ(OMEGA)社の デ・ヴィル・トレゾア・マスター・コーアクシャル(De Ville Trésor Master Co-Axial)でした。 其の初代の発表は1949年である薄形時計の古典的名作デ・ヴィル・コレクションに 近年オメガ社得意とする処の超高耐磁性コーアクシャル・ムーブメント〔K3〕 を搭載したドレスウォッチです。 ムーブメントは手巻き式のコーアクシャル・キャリバー8511で15,000ガウス以上の耐磁性能とされており、 3気圧防水の40mm径ケースで日本での販売は来年2015年1月が予定されています。 ケースカラーはセドナゴールド若しくはイエローゴールドが選べ、 確かに遠目にオメガブランドを主張するものではなく3針のシンプルな構成でエレガントさが伺えます。

そして此れと同時に登場したのが 5年毎に発表、提供されるアポロ月着陸記念、 オメガ・スピードマスター・アポロ11号45周年限定モデルSPEEDMASTER APOLLO 11 45THANNIVERSARY LIMITED EDITION〔※3〕 です。

Louise Gold "Oh my love" Neil Armstrongs lunar heartbeat & the elliptical orbit of Venus

アポロ11号が1969年7月21日に月面着陸してより今年で45年を数え、 夏先には上に埋め込んだ動画が随分とシェアされたりもしました。 シェアしたメディアの一つであるCNet記事〔※4〕 に依れば其の効果は兎も角、月面上のアームストロング船長の心音にインスパイアされ、ジョン・レノン(JOHN LENNON)の オーマイラブ(Oh My Love)とのコラボレーションを思い付き実際に歌ってみた、と言うような動画で、 アメリカでは例年此の時期に国の誇りとして月面着陸を思い起こす慣わしが根付いて来ているような印象も伺えれば、 而した記念モデルの需要にオメガ社が応えているのでしょう。

Buzz Aldrin salutes the U.S. Flag

勿論其の由来は唯に月面着陸を手前勝手に記念したにあらずして、 実際にニール・アームストロング船長に続いて月面歩行した バズ・オルドリン(Buzz Aldrin)船員の手にオメガ・スピードマスターが巻かれていたのでした。 そしてオルドリン船員の手に巻かれるためにはNASAから課された厳しい試験に合格していた道理です。 実際スピードマスター・プロフェッショナルは斯うして1965年以降NASA公認時計となり 6回の有人月面着陸に成功、アポロ計画なき後は米国の月世界探検も後退し、 現在に至るもムーン・ウォッチは他になく唯一無二の腕時計として腕時計ファンならずとも宇宙フリークにも垂涎のアイテムとなっています。 其の由来、需要有っての月面着陸記念限定モデルであるのでした。

さてバーゼルワールド2014に見られ各メーカーの重要人物の言に聞いても複雑からシンプルへの流れがあるとした時、 オメガスピードマスターアポロ11号45周年モデルは其の流れに或る面では棹差しているとも見られます、 と言うのもスピードマスターコレクションの嚆矢、 スピードマスタークロノグラフが誕生したのが1957年、 其れより精度、堅牢さ、視認性、使用性、信頼性で高評価を以て 而して1965年3月1日にNASAよりスペースウォッチとしての承認を受け〔※5〕 1969年の人類初の月面着陸に伴うことと相成ったのでしたから 復古と言う意味では57年とクォーツショック以前迄、半世紀以上を遡る訳です。

他方、見た目に於いてはバーゼルワールド2014に見られたシンプルさへの傾倒が見られるかと言うと首肯し難い部分が有ります。 なんとなれば固よりクロノグラフは複雑機構に数えられる場合も有るのでしたし、 エレガント且つシンプルと称される三針に有らずしてスモールセコンドを備えた多軸機構であり、 またWSJ記事に半ば揶揄されている タキメーターtachymeter) をも備えているからです。 従って些かごつく見える印象は否めません。

処でWSJの記事〔※2〕 では筆者のCHRISTOPHER TENNANT氏は 最終的な件で複雑機構のファンであることをカミングアウトした上で 複雑機構の存続は如何に成されるべきかとの論を展開し、 其処には機械式腕時計のレーゾンデートルが隠されているとも思われる塩梅です。 ライト兄弟が空中飛行を夢想に留めなかったと一般だと言う訳でしょう。 そして最後に同じくWSJで腕時計記者として活動するMichael Clerizo氏の言を引いています。

Sure, simple is beautiful, but I'll keep my world of complications and sheer wonder.

確かにシンプル・イズ・ビューティフルだ、 だけど私は我が複雑で全く不思議な世界に在り続けるだろうね、 と言う訳ですからなかなかに複雑式機会時計の愛好家は病膏肓に入っては如何ともし難く 世がシンプルに傾こうとも我関せずの姿勢を崩さぬように伺えますが、 さてご同様ご諸氏の目には此のオメガ社のアポロ11号45周年限定モデルは如何なるべくに映ずるのでしょうか。 そして腕時計界の傾向は此の侭WSJ記事に主張された如く複雑機構からエレガント且つシンプルへと復古するのでしょうか。

1,969本の世界限定モデルとされたのは勿論アポロ11号月面着陸の西暦年を襲ってのこと、 針及びインデックス、ベゼルはアポロが正しく大気圏に突入し燃えさかる様子を髣髴させる 18Kオメガセドナ™ゴールド 製、ブラウンのコーティングを施したナイロン製ファブリックストラップは 第二次世界大戦以降1950年代の終わりからイギリス軍に支給された時計の NATOストラップ にインスパイアされたデザインであるとされます。 搭載の キャリバー1861 はパワーリザーブ48時間の月面で使用された有名な手巻きクロノグラフ・ムーブメントをロジウムプレート仕上げしたもの、 ケース径は42mm、5気圧の防水仕様とされています。 日本への入荷予定は2014年夏、もう直ぐ目の前迄やって来ています。

追記 (2014年9月18日)
2014年9月中旬を以て正式に販売開始されネットショップAmazonジャパンでも9月18日に並行輸入品の取り扱いが開始されました。

使用写真
  1. Baselworld 2014( photo credit: Kevin Kyburz via Flickr cc
  2. Buzz Aldrin salutes the U.S. Flag( photo credit: NASA Goddard Space Flight Center via Flickr cc
  3. SPEEDMASTER APOLLO 11 45THANNIVERSARY LIMITED EDITION(オメガ公式Baselworld 2014特設サイトより)
OMEGA Speedmaster Professional Apllo 11 40th Anniversary Limited Edition) Ref.311.30.42.30.01.002
OMEGA Speedmaster Professional Apllo 11 40th Anniversary Limited Edition) Ref.311.30.42.30.01.002
上の写真は45周年モデルではなく前回の月面着陸40周年記念限定モデル
かたむき通信参照記事(K)
  1. スウォッチ・システム51バーゼルワールド2013に登場す(2013年8月25日)
  2. リシャール・ミルの超高級腕時計に採用されるカーボンナノチューブ素材(2013年9月14日)
  3. オメガ・コーアクシャル・キャリバー8508発表~抜きん出た超高耐磁ムーブメント(2013年1月21日)
参考URL(※)
  1. Baselworld 2014 – The World Watch and Jewellery Show(バーゼルワールド公式サイト)
  2. A Simpler Time for Men's Watches(WSJ:2014年7月25日)
  3. SPEEDMASTER APOLLO 11 45THANNIVERSARY LIMITED EDITION(オメガ・ウォッチ: Baselworld 2014)
  4. Astronaut's lunar heartbeat lives on in Lennon cover(CNET:2014年6月20日)
  5. オメガ・ウォッチ: スピードマスターの歴史(オメガ社公式サイト)
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