Greubel Forsey(グルーベル・フォーシー)Art Piece 1~極小彫刻をあしらった超高級腕時計

高額腕時計のブランドについてはかたむき通信にも ジャガー・ルクルト(Jaeger-LeCoultre)[K1] やリシャール・ミル(Richard Mille)[K2] にオーデマピゲ(AUDEMARS PIGUET)[K3] 、ピアジェ(Piaget)[K4] にパテック・フィリップ(Patek Philippe)[K5] など幾つも取り上げてきましたが、 此処に今ひとつ超高級腕時計ブランドを加えるべく記事を起こすものです。 其のブランドの名は Greubel Forseyグルーベル・フォーシー、フォーシィ、フォルセイとも)[※1] 、そして此のブランドが発表し機械式腕時計ファンには堪らないだろうと思わせられ 紹介の筆を此処に取らせしめたのが世にも稀なる微細世界を腕時計と言う機構に閉じ込めた Art Piece 1[※2] です。

Art Piece 1

公式サイトの Art Piece 1 GF02w Platinum のページを閲すれば Robert Greubel(ロベール・グルーベル) 氏と Stephen Forsey(ステファン・フォーシー) 氏が Willard Wigan(ウィラード・ウィガン) 氏と協業する製作途上の腕時計であり Greubel Forseyの本分足る30度傾斜ダブル・トゥールビヨンが 其の特徴足るウィガン氏の極小彫刻を補完するものとしています。 ページは更に最初の出会いからしてグルーベル氏及びフォーシー氏二人はウィガン氏と細密に関して同じ価値観を共有しているのを感じる中、 ウィガン氏は腕時計製作は己の職分に在らじとしたものの前者の工房を訪れるに及び其の精神に共鳴し 今回の事態が出来したのであると伝えます。 微細な世界を本分として生きる両者には何某か通じあるものがあったのは疑い得ませんし、 特にダブル・トゥールビヨンと言う複雑機構をアイデンティティーともする腕時計工房と 針の穴若しくはピン頭を舞台とする彫刻家と記されれば尚更連帯は強いものであったでしょう。 斯くして世にも珍しい腕時計プロジェクトは発起されたのでした。

Greubel Forseyとは右に表示する洋書、 Ariel Adams 氏の執筆した The World's Most Expensive Watches 、即ち 世界で最も高価な腕時計 なる書物にも扱われれば其の腕時計界に於ける位置付けも窺われようと言うブランドです。

其の創業は2001年とWeb Magazine OPENERSに紹介[※3] されていますから新興ブランドとなるでしょう。 同記事に依ればグルーベル氏とフォーシー氏は 独立時計師アカデミー(Académie Horlogère Des Créateurs Indépendants)[※4] に所属する天才時計技師でオーデマ・ピゲの傘下に複雑機構を旨とする ルノー・エ・パピRenaud et Papi) で出会った後、Greubel Forseyを設立、 2004年のバーゼル・フェアに発表した ダブル・トゥールビヨン30° が斯界を驚愕せしめたものとします。 2007年に配信されたと思われる同記事にはリシュモン・グループ参加予定と 日本の扱いは高級腕時計等の卸売、小売、輸入代理事業を手掛ける 東邦時計株式会社 であるとも記されています。

Greubel_Forsey_Double_Balancier_35_white_gold_7_

孰れ劣らぬ複雑機構の設計、製作に秀でた時計技師が互いに協力し合えば 腕時計産業関係者を唸らせる複雑機構を持った腕時計の発表は必然でもあったでしょう。 其れは複雑機構にも代表的な姿勢差を補正する為に アブラアム・ルイ・ブレゲ(Abraham-Louis Breguet)が考案したトゥールビヨンに特に顕著でした。 機械式腕時計ファンに取って見ればトゥールビヨン機構を搭載する腕時計の保有は 或る人には夢でもあり或る人には欠くべからざる必須条件でもあって 此の市場を睨めば高級腕時計ブランドとしての地位を確保するにも有用である状況を巧みに利用したのが リシャール・ミル(Richard Mille)氏[K2] でもあり、グルーベル氏とフォーシー氏の両氏も己達を最も活かす道として選択したのだと忖度されます。

Greubel-Forsey

斯くしてバーゼルワールド[K5] 2004年を以て世に問うたのがダブル・トゥールビヨン30°でした。 ブレゲの時代に主流だった懐中時計の姿勢差補正機構を 更に複雑な姿勢差を生ぜるを得ない腕時計の時代向けに発展させた機構で 必然的に複雑さを増さざるを得ずして其れは即ち機械式腕時計ファンを唸らせる事態の出来に直結したのです。 二人のトゥールビヨン機構の発展への意欲は留まる処を知らず ダブル・トゥールビヨンを更にダブルで一つの腕時計に収めるプロトタイプや、 ハイスピードタイプ・トゥールビヨンも発表していると言いますから驚きを禁じ得ませんが、 此のGreubel Forseyのアイデンティティーとも言える腕時計時代のトゥールビヨン機構が ウィガン氏の手になる極小彫刻と強調し合う小宇宙がArt Piece 1として此の世に昇華するのでした。 小宇宙を司る彫刻はArt Piece 1のケースに用意されたレンズを通して初めて人の目に出来るのです。

斯く言うウィガン氏の作品にはさても高名な面々がコレクターとして連なり、 例えばチャールズ皇太子、ミュージシャンのエルトン・ジョン氏、元ヘビー級ボクシング世界王者マイク・タイソン氏など 錚々たる人物の名が挙げられます。 ウィガン氏はまた2007年7月に女王陛下からMBE勲章を贈られる栄誉に浴し、 更に2009年7月にTEDゲストスピーカーとして招かれ[※5] スピーチも粉成すなど名声も高く、 そのスピーチの様子はTEDサイトに動画で公開されていますので此の下に埋め置きます。

Willard Wigan: Hold your breath for micro-sculpture

動画にもある如くウィガン氏の掘り出す彫刻は実に微細でレンズを通してしか人には判別出来ないほどで而して Microscopic Sculpture 、即ち顕微鏡彫刻とも称されるのでしょう。 其の作品の多くはGreubel Forsey Art Piece 1 公式ページ[※2] にも紹介される如く in the eye of a needle 、即ち針の穴や on the head of a pin ピン頭に設置されます。

ウィガン氏は1957年6月生まれのイギリスはウェンズフィールド出身の彫刻家で5歳の頃から彫り始めたとされすから栴檀は双葉より芳し、 さて初等学習に於いて識字障害に悩まされており教室を同じくする面々から嘲笑される憂き目に会い 而して他人の目に映じ難い、従って甘んじて的外れな批評を受けることもない極小世界の彫刻にのめり込んだようです。 モチーフとしては大衆文化や建築物を好み其れは上のTED動画でも目に出来ます。 ウィガン氏は自らのWebサイト Willard Wigan も運営しており中には作品を閲覧出来る Gallery も用意されていますので興味の有る向きは参照なされるが宜しいでしょう。

では此の小宇宙のお値段は如何程でしょう。 公式サイトに未だ進行中のプロジェクトであってか其の記載は見当たりません。 土台一点物を収めたアーティスティックな成果物に画一的な料金は不似合いですが オンラインメディアWIREDの記事[※6] にはタイトルに此れが謳われていました。 150万米ドルと言いますから2014年10月6日本日時点で日本円に換算して約1億6千4百万円程になります。 Greubel Forseyではウィガン氏の作品を塩梅良く見られる様な工夫の立案に6年の日月を要したとしており、 またウィガン氏は今の処、Art Piece 1の為に a golden mask(黄金マスク)、 a ship(舟、屢々ウィガン氏のモチーフとなってもいます)、 a Coca-Cola bottle(コカコーラの瓶)、 a hummingbird(蜂鳥)を制作しているともされ、 ならば現時点でArt Piece 1は4本が販売される可能性が有る道理で、 其れ等は制作途上では常にウィガン氏に携行されても数週間から数ヶ月の製作期間を要すのだから 家屋に匹敵する値段も腕に博物館を巻けるものならば納得の行くものだろう、と記事は結ばれます。

グルーベル氏とフォーシー氏がウィガン氏を知ったのは知人の紹介でも何でもなく 偶々インターネット上で見掛けたからであるそうです。 其の顕微鏡彫刻の在り様は正しく両氏の琴線に触れるものだったのでしょう。 一昔前には有り得ない此の偶然が僥倖となって今超高級腕時計に結実し手に取ろうと取らずと 多くの機械式腕時計ファンを楽しませることとなるのですから世の中は面白いものです。

使用写真
  1. Art Piece 1(Greubel Forsey公式サイト)
  2. Greubel_Forsey_Double_Balancier_35_white_gold_7_( photo credit: Ami Mor via Flickr cc
  3. Greubel-Forsey( photo credit: heartware2012 via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. アホみたいに高いジャガー・ルクルト・レベルソ・ジャイロトゥールビヨン2~姿勢差とトゥールビヨン(2013年11月26日)
  2. リシャール・ミルの超高級腕時計に採用されるカーボンナノチューブ素材(2013年9月14日)
  3. バイきんぐ御用達オーデマピゲ・ロイヤルオークのデザイナーのジェラルド・ジェンタ氏(2013年8月6日)
  4. 薄型ムーブメントを複雑機構と位置付けるピアジェと第85回アカデミー賞授賞式(2013年3月23日)
  5. 岡野式腕時計愛好の一つの形~パテックフィリップ・ノーチラス(2013年3月5日)
  6. スウォッチ・システム51バーゼルワールド2013に登場す(2013年8月25日)
参考URL(※)
  1. Greubel Forsey(グルーベル・フォーシー公式サイト)
  2. Art Piece 1(グルーベル・フォーシー公式サイト)
  3. グルーベル・フォーシー ブランドヒストリー(Web Magazine OPENERS)
  4. 独立時計師アカデミー(Wikipedia)
  5. Willard Wigan: Hold your breath for micro-sculpture(TED.com:2009年7月)
  6. This $1.5 Million Watch Has a Microscopic Sculpture Inside(WIRED:2014年9月26日)
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