怪獣明石家さんま考

天才とは安売りも甚だしきに因って如何にも軽々しい呼称になりつつあるばかりか 先生と同じく少し小馬鹿にした意を含みながら蔑称にこそ用いられるも見受けられれば 真に所有者の才覚を驚き敬うべき敬称、尊称は此の呼称に収まり切らず 例えば怪物などと言われたりもするのは野球などでも見受けられる処ですが、 更なる高みに在る人物への代名詞は其れだけでは如何にも物足りず もはや怪獣とか化物なる異名で呼び習わされるのがお笑い怪獣明石家さんまです。

さんま塩焼き定食
さんま塩焼き定食

ブラウン管の向こうに在るならいざ知らず 同業者とてさん付けを実践するも余りに次元の異なれば 今宵は敢えて敬称抜きで呼ばせていだだこうと断わりつつ 明石家さんま論を展開されたのが2014年10月27日TBSラジオを以て深夜放送された 深夜の馬鹿力 のパーソナリティー 伊集院光 さんでした。 其の要旨を寝惚け眼に聞いたリスナーが翌日友人と 伊集院が昨夜何やら明石家さんま超おもしろいと言っていたとの単純化は心外だと強く主張する彼は 其れを厭う己れが明石家さんまを 唯普通に面白いと曰わったとされる事案こそが世間一般と同様である如く 先ずは当たり前に面白いと世間様に受け入れられているのが恐るべき、と言い 己れの視点は同業者のものとしての其れでありながら以てしても特別視せざるを得ないお笑い才覚に驚嘆するのです。

論を展開するに主軸に据えたのが其れを見て驚愕を超え畏怖を覚えたとするのが2014年10月7日放映日本テレビの 踊る!さんま御殿!! 3時間スペシャルでした。 幾つかのコーナーにも伊集院さんの視線を捉えて離さなかったのが 秋改変ドラマの番宣に繰り出した俳優のみをメンバーとして構成された其れで 此処にお笑いの補助役、サッカーで言えばシュートを誘うアシスト役の不在に注目するのです。 明石家さんまは居並ぶお笑い素人を引き摺り回してゴールを連発する様に彼は驚嘆処か同業者として恐れを禁じ得ない、 即ち明石家さんまは自分の様な憚りながらも玄人である引き立て役をも必要としない、されていない、と言う実感です。 以てこそ一般人が明石家さんまを超おもしろい、とするのとは違う意味でおもしろいと主張するのであって 其処では畏敬の念を抱きながらも異常とも断言しはっきり化物呼ばわりするのでした。

例え周りが素人処か笹蒲鉾であろうとも角度と硬度を計算し然るべき箇所にボールを蹴り当てゴールを決めてしまうだろう、 と伊集院さんが論を展開する明石家さんまは俳優を生業とする以上致し方ない折角自らに訪れたお笑いのツボを逃すも 通常ならば流す其れを逆に広げて俳優陣相手にお笑い技術論を展開しお笑いゴールを決めるのは 一般人には見慣れたお笑い怪獣の常套手段、 技術論の展開をお笑いに昇華するのはまるで夏目漱石が文学論を以て著述となすかの如くであります。

技術論をお笑いネタに転換するメタ技術で言えば明石家さんまは 吉本興業株式会社 所属なだけに国民的アイドルグループAKB48の難波の姉妹グループNMB48が吉本興業所属とあって 彼女等が主役を務める日本テレビのアイドル番組にサプライズゲストとして登場したのが確か同番組 なんば女学院お笑い部(げいにん2、現在は NMB48 げいにん!!!3 )の最終回でありました。 此処では補助役にこそ番組レギュラーのフットボールアワーの後藤さんと岩尾さんのお二人が従ったものの 後はお笑い素人処か芸能人としても素人に近い若年の娘達、 しかしお笑い怪獣は初めて訪れる此の逆境とも言える現場をものともしません。 アイドル娘達を引き摺り回して笑いの坩堝と化さしめたのです。 怪獣からお笑い技術を叩き込まれるに連れ娘達は其の場でみるみる成長して 笑いの渦を巻き起こすに付け付き添いのフットボールアワーのお二人はいみじくも勉強になりましたと吐露する程の当回は 半ば伝説の回となったようでNMB参加メンバーなどを通したり通さなかったりしつつ 今も時折ネットに2013年6月19日当時の様子を伺えることもあるようです。

残念な事件を以て引退を余儀なくされた 島田紳助 氏は明石家さんまの盟友とも呼べる存在でした。 人気絶頂の最中の引退でしたから擁する人気番組には穴が空く道理です。 NMB同様事務所を同じくする吉本興業関連に理由を求めるのみならず 嘗て同じ道を目指した同胞の穴埋めに吝かではなかったでしょう、日本テレビの 行列のできる法律相談所 にも改編期スペシャルを以て司会者で度々登場する様ですが 其の初回は事件を受けた回の助っ人司会者としてお笑い達者の玄人を多く含めども沈痛な面持ちとならざるを得ない出演陣を 此れ又引き摺り回して衝撃的な笑いを以て番組に漂う暗雲ムードを吹き飛ばして見せたのは お笑い怪獣以外に不可能な わざ だったでしょう。

表舞台から消えざるを得ない事情を抱えたのも吉本興業所属の人気コンビ ナインティナイン[k1] の一方岡村さんで後に回復しては当時を自称パカーンと行ってしまったとした其の際には 彼を主役とするフジテレビの人気番組 めちゃ×2イケてるッ! では困るのは理の当然、此の主役欠落状態を補う企画として 新人メンバーを募集したのが2010年10月9日放送の めちゃイケ新メンバー1万人オーディション でしたが、此処でも所属事務所では強い危機感があったのでしょう、 擁する怪獣明石家さんまに出演を乞うたものと思われれば オーディションの審査員たるレギュラーメンバーの誰一人もが其れを知らず第一次審査会場に 勿論芸人も含む一般応募者に混じり幾番目かの集団の最後の一人として嘗ての人気キャラクター パーデンネン に扮して登場したのですから他応募者は言う迄もなく審査員とて堪りませんが、 大抵はこんな按配で御大が登場すれば或る程度玄人たる審査員連に弄られるばかりを以てスペシャルイベントとして成立する処を あっと言う間に現場の中心に位置、否、己れの立ち位置を現場の中心へと現実空間を歪曲したかと思えば 見る見る間に周りを引き込み引き摺り回し始めナイナイの残された一方矢部さんの口をして思わず、 あかんコントロールされていると零れさせしめたのは他応募者ばかりにあらず恐らくは矢部さん自らの立脚点も含めてのことでしょう、 怪獣は見事にオーディション会場を支配し尽くし笑いの渦を巻き起こしたのでした。 他応募者はオーディション足れば持ち芸を披露するのでしたが 十数人の集団の最後に面接を受けた怪獣は其れ等をも其の場で活かすのですから打ち合わせなどに有った筈もなくして アドリブなどと軽々しい呼ぶのは憚られる素人にも尋常ならざる匠の技と怪獣の腕力を目の当たりにするものだったのです。 DVDなど機会が有れば是非とも 84番! なる他一応募者のギャグが忽ち其の場の寄せ集め集団の持ちギャグに迄昇華される様は一見されおくべきだと強くお奨めするものです。

斯うして怪獣明石家さんまの剛腕の数々を思い起こせば枚挙に暇が有りませんが さんま御殿以外に共通するのは馴染みのない現場であって、またさんま御殿も含めて全てがメンバーはアウェイの状態であれば 伊集院さんの論じる如く素人相手だろうが何だろうが配牌が如何在ろうとお笑い卓に於ける勝利を納める処に有り 其の特殊性が吾人の印象に残らしめる要因でもあり、明石家さんまが怪獣と呼び付けらるる由縁であり、 同時代の空気を吸い得ると同時に同国語を扱い得れば人生に笑いを確実に其れもかなりの量を増し得た事実に感謝するばかりです。

追記(2015年6月30日)

怪獣はモノマネされても超一流です。 原口あきまさ さんは明石家さんまのモノマネで有名ですが 関西テレビで2011年から2013年まで100回に渡り放映された番組 どっキング48 の第34回にゲストで招かれた際に初めて本人に挨拶したエピソードが語られました。 怪獣のモノマネの格好では拙かろうと思う暇を与える間もなくそのまま面白がる 研ナオコ さんに怪獣の楽屋に引っ張られ、さんちゃん、さんちゃんを連れてきたと紹介された原口さんに ソファに座っていた怪獣は振り向きざま 「出た」 と一叫び、咄嗟に 「出ました」 と返した原口さんに怪獣は 「イケるね」 と一旦褒めながらも、 「いやー実はオレ見とったんや、オレのモノマネしてくれてる思て、」 と一頻り 「お前見とったらな、」 と原口さんを更に持ち上げるかと思いきや 「オレが如何にテレビ向きかが分かるわ」 と大好きな自らの評価に結び付けたそうです。 流石です。

かたむき通信参照記事(K)
  1. 人気お笑いコンビナインティナインも騙された虚構新聞(2012年3月17日)
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