腕時計と言えばスイスが有名です。 1970年代クウォーツショックで壊滅的な打撃を受けてなお、 雄雄しく蘇ったスイス腕時計ブランドの数々の一つに ボヴェ(ボベ)があります。
ボヴェはボヴェ社が作り出す高級腕時計に冠されるブランドで その正式な企業名は Bovet Fleurier S.A.(ボヴェ・フルリエ株式会社) と言います。 この名前に於けるS.A.は即ちsoci`et`e anonyme、フランスに於ける株式会社を表すそうです。 また Fleurier(フルリエ、フルーリエ) はスイスの土地の名前でヌーシャテル湖とフランスとの国境の中間ほどに位置し、 この地域を時計の街として有名にしたのも与ってボヴェ社の力があったそうです。
ボヴェ社は1822年にエドゥアール・ボヴェ(Edouard Bovet)に依り時の都、 世界の流通の中心地で勿論多くの時計も取引されるロンドンで創業されましたが、 後にエドゥアールの故郷、フルリエに本拠を移しました。
フルリエは15世紀には鉄の産地として有名で金属加工が地域産業として栄えていました。 そこに1730年、ダニエル・ジャン・ジャック・アンリ・ボシェ(Daniel-Jean-Jacques-Henri Vaucher)により 時計製作の技術が齎されました。 エドゥアールの父親ジャン・フレデリック・ボヴェ(Jean-Frederic Bovet)も フルリエの熟練時計職人だったのです。
エドゥアールと彼の三兄弟、 アルフォンス(Alphonse)、フレデリック(Frederi)、チャールズ・アンリ(Charles-Henri) が互いに協力し中国市場で大成功を収め、 一躍ボヴェの名及びフルリエを世界的なものにまで高めたのでした。 当時のボヴェの腕時計、懐中時計は今、 インターネットオークションなどで高額で取引されています。
その後ボヴェ社とボヴェブランドは幾多の所有者の手を経る変遷の後、 2001年2月6日に現在のオーナーであるパスカル・ラフィ(Pascal Raffy)氏に買収されました。 ラフィ氏はSTTグループやジュネーブの工房なども買収、 Dimier 1738(ディミエ1738)と名称変更しボヴェが自社製ムーブメントを採用できる体制を確立、 ボヴェ社は近代的な企業へと産まれ変わったのです。
そして現在ボヴェはボヴェ・フルリエ株式会社とディミエ1738工房に150人の従業員を擁しています。 今でもボヴェ社独特の時計業界にしては珍しい女性職人を雇うという伝統は生きているそうです。 そこから精密で芸術的な高級腕時計ボヴェを年間2,000台、世に送り出しているのです。 これらボヴェ腕時計の価格は安くても18,000米ドル(2012年4月現在日本円で約150万円)、 高いものになると何と250万米ドル(2012年4月現在日本円で約2億円)します。
今日ボヴェ社の作り出す時計は精密さは勿論、その芸術的側面が大きく評価されている様です。 それはオリジナルボヴェの中国市場を席巻した際のモデルを継ぐものでもあります。 現在のモデルを見てみると竜頭の位置と波型をした針が特徴的で一目でボヴェと分かり、 またムーブメントを見せる演出も秀逸で所有者の心を擽るのでしょう。 その作り出される腕時計は1/3もが注文によって誂えられるそうです。
ボヴェ腕時計の美しさと品質の保証は奈辺に在るのでしょう? どうやら自ら高い基準を設け適用しているようです。
スイスのジュネーブを本拠として2005年に 高級時計技術を国際的に推進するという目的で設立された組織 高級時計財団(Fondation de la Haute Horlogerie、略称FHH) があります。 そのホームページには知的財産権カテゴリー中にその他の特徴の一項目として カリテ・フルリエ が紹介されています。
2001年にボヴェを含む、ショパール、パルミジャーニ、ヴォーシェの4社共同のプロジェクトとして創設された カリテ・フルリエ財団により設けられた高級機械式時計の品質を保証するための新しい品質基準が カリテ・フルリエ なのです。 この品質基準に於いては技術および美観に関し厳格に規定され、 その内容は精度、さらに携帯精度、製造の品質、完成体の時計にまで及ぶとされます。 大きく4つに分けられると言われるその内容を以下に引用します。
財団の協賛ブランドから完全に独立した機関によって行なわれる この厳しいカリテ・フルリエの検査に合格することで 技術的にも美観的に優れていることが保証されるのですね。 証明の刻印もされるとのことですが最早そこが問題ではないでしょう。 自らにこの高い製品品質基準を設けることで 顧客に対する満足度を高く達成することをボヴェ腕時計は可能にしているのです。
本記事に見てきたボヴェ腕時計、 数も限られますし、値段的には自動車から豪邸が購入出来るほどの価格付けがされますので、 そうそう簡単に手に嵌められるものではありませんが、 いつかは手にして見たい世界の逸品と言えるのではないでしょうか