木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか~第43回大宅壮一賞受賞作

日本文学振興会主催の第43回大宅壮一ノンフィクション賞が昨日2012年4月10日発表されました。 賞金は100万円で贈呈式は6月下旬に催されます。 以下受賞作を挙げます。

大宅壮一ノンフィクション賞 はジャーナリストでもありノンフィクション作家であった 大宅壮一(1900年:明治33年~1970年:昭和45年)氏の業績を称え、 すぐれたノンフィクション作品を表彰する文学賞として 氏の没年に設立されました。 財団法人日本文学振興会が主催し、株式会社文藝春秋が運営しています。 選考会は毎年4月中旬に前年に発表された作品を対象として行われています。

増田俊也氏の受賞作 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか については拝読いたしましたが、 その700ページにも及ぶ大著ながら、 全く倦むことなく一気に読ませてくれる面白さです。

力道山と言えば戦後お茶の間(いえ、街頭テレビですか)の、ヒーローとして、 またプロレスラーのジャイアント馬場、アントニオ猪木と言う 2大スターの師匠としても有名です。 遺憾ながら格闘技に疎く木村政彦氏については全く知りませんでしたが それでも史上最強の男として描かれる作品に惹き込まれ 思わずその時代の一人として 力道山対木村政彦戦を眺めているかの如き心持で読み進めることが出来ます。 それは増田氏の長年の執念とも言える取材に根差した ディティールに神が宿り目の前に迫る迫真力を産むのだと思います。

それは唯に木村政彦と言う人物のファンとなり応援するのではなく、 その余りにも人間的な弱さを示すに力道山戦に至っては 思わず我が身も省みず叱咤してしまう程のものでした。 其処に登場する若き空手家大山倍達氏にはその心情を代弁して貰ったかの如き感も覚えました。 そうです、木村政彦、力道山のみならず 周囲を取り巻く人々も詳細に描き込まれており、 恰も其の時代に生きているかの如き錯覚を覚えさせられるのです。

彼のように小説としても心躍らせられる作品でありますけれども ノンフィクション作品として知的欲求を満足せしめる方面も並大抵ではありません。 第2次大戦前の柔道がどういうものであったか、 それは世界格闘技でどのような位置を占めていたのか、 そしてグレイシー柔術とどのように繋がり、 今もグレイシー一門は木村政彦を敬愛して已まないのか、 等々、枚挙に暇がありません。

この大著を読み終えればその感興は語っても語り切れませんが、 これから読まれる方のためには此処等辺りに止めておきます。 先ずは諸兄が読書に数日を投じても惜しくない作品であることは請け合いましょう。

中日スポーツのWebサイトには増田俊也氏自身の手になる 2012年4月11日の本紙面に掲載されたものを再び 増田記者手記「柔道一直線」 遺恨超え安らかに(2019年1月18日現在記事削除確認) として配信され、同氏の受賞への喜びを素直に伝えれくれています。 氏は中日スポーツの記者なのですね。 また受賞会見では許しを得て柔道着を纏われたそうですが、 氏は北海道大学時代に柔道部に在籍されていました。 これもこの作品に力強さを与えるのに与って力があったは読中もはっきり分かるところでした。

記事からは氏が同作品を手掛け始めたのが若干27歳で、 去年2011年の完成迄に18年の歳月を要されていることが分かります。 いまお祝いの言葉と同時に、 本当にお疲れ様でしたと僭越ながら労いの言葉を送りたいと思います。

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