B-CASカード書き換え問題は新しいiTunesを齎すか?

歴史は繰り返すと言いますか、 またもやいつか音楽業界で燃え上がったコピーガード問題が形を変えて再燃している感じを受けさせられるのは 日本のデジタル放送に於ける有料放送受信者限定及びデジタル著作権管理 (DRM) に採用されている B-CASカード で、ガードを掛ければそれを破られると言うイタチゴッコが露わになり始めました。 このデジャヴュは正しく嘗て音楽業界に見られた景色でした。

防御、と言う時点でかなり怪しげな提供者と利用者の関係なのですが、 側が需要者側にその楯を大きく構えれば構えるほど コンテンツ享受の手間は高まります。 更には行き過ぎれば所謂不正利用者は問題なくコンテンツ視聴出来る中、 料金を支払った契約利用者に不具合が発生するなど 本末転倒なことが起き兼ねません。 笑うこと莫れ、これ実際に音楽業界では当たり前の如く起こったことでした。

一般に広く知られたことの始まりは BLACK-CASカード と呼ばれる暗号解読版B-CASカードでした。 B-CAS方式は簡単に言えば暗号化を解く鍵ですから、 その鍵がどんなものか解析して鍵を見つけそれをカード内に入れれば B-CASカードの代わりになる理屈で それを実現したのがBLACK-CASカードだった訳です。 これは海外の業者から輸入の形を取って日本向けに販売されましたが、 凡そ50,000円と言う高価な値付けにも関わらず飛ぶように売れました。

防御側はこのBLACK-CASカードの対応に追われ未だ収束を見せない中、 今回更にB-CASカードを廻って起こった問題が B-CASカード書き換え なのです。

今回出回ったのはカードを別途購入するのではなく、 手元に購入済みのカードの制限を解除するための方法でした。 即ちその情報と必要な機器を揃えれば数千円で有料コンテンツの無料視聴が際限なく可能になると言うものです。 B-CASカード書き換えの為のソフトウェア迄出回り、ダウンロード可能とさえなっています。

今回の事案を受けて動画コーデックで有名な茂木和洋さんは自身のサイト まるも製作所の5月18日の記事 B-CAS の件 で簡単に解説する前日5月17日には M00x B-CAS の件 では突っ込んだ解説がなされていて(2019年2月7日現在、両記事は削除され、「社会的影響を鑑み削除」との表示があるのを確認)、 Twitterでの自身の16日のつぶやき

ありとあらゆる意味で B-CAS カードお終いですね。 合掌。 バックドアが公開されてしまったのが、 これで M001/M002/T422 という訳ですから……。
を、事案に関する感想としてこれに尽きると述べられます。

防御側が慌てるのも宜成る哉、と言う状況下、 総務省が調査に乗り出したとのことですが、 果たしてそれは有益なことなのかは疑問が残ります。 全体最適化する為にその労力を他に向けることは考えられないのでしょうか?

この記事では暗号解読の是非を問うているのではありません。 コンテンツ提供側も利用者も共に利益を被る筈の処、 制度が歪なためにその運用が上手くいかなければ、 矢張りその制度は再考が必要だろう、と言うことが本旨です。

嘗て音楽業界は海賊版が横行する闇の世界でした。 此処に光を齎したのはスティーブ・ジョブズ氏が主導したiPodとiTunesでした。

音楽業界は著作権を楯にするばかりでいつ迄たっても 効果的なソリューションを見出すことは出来ませんでした。 剰え本来顧客である筈の利用者を犯罪者呼ばわりさえするしかなかったのです。 ジョブズ氏はユーザーは不正をしたくてしているのではない、 せざるを得ない立場に追い込まれているのだとして、 両者に利益を齎す形の解決策を提示、 それがiPodとiTunesだったのです。 それを見せられた宿敵ビル・ゲイツ氏はただただ唸るしかありませんでした。 此処等辺の件は評伝 スティーブ・ジョブズ Iスティーブ・ジョブズ II に詳しくありますので興味のある向きは是非ご一読を。

japan.internet.comの2010年2月26日には 『iTunes Store』で100億曲ダウンロード達成 記事(2019年2月7日現在サイト閉鎖確認の為、新しく CNET Japanの2010年2月26日の記事 アップルの「iTunes Store」、ついに100億曲ダウンロードを達成 にリンクを貼り置きます。)を配信しており、 この100億曲目の記念すべきダウンロード者は 評伝にも詳細が記されるところでもあります。 そして今現在もiTunesはそのダウンロード数を増やし続けています。 (※参考リンク: Apple、「iTunes Store」が250億曲ダウンロードを達成と発表 日経 xTECH(クロステック):2013年2月7日)

音楽業界に於いては世界に冠たる大企業、それは勿論日本のメーカーも含め誰もがなす術もない中、 スティーブ・ジョブズ氏ただ一人が現実歪曲空間を以てして成し遂げた大仕事だったのですから 今又テレビ放送に於いてこれに巧妙な手法で光明を見出し功名を挙げる人物が出るのは難しくはあるでしょう。 若しかしたら Apple TV に於いてももう数年で彼がそれを成し遂げたかも知れないと考えると その早過ぎる死が今更悔やまれてなりません。

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