復活トキを守る佐渡認証米

学名に Nipponia nippon と日本を冠しながらその日本に於いて一旦は絶滅の憂き目を見させてしまった トキ(朱鷺、鴇)の復活を目指し関係者の尽力で遂に今年2012年4月22日に 36年振りとなる野生の雛の誕生[K1] が地元だけならず、大いに日本中を勇気付けてくれました。

朱鷺の村 photo credit by houroumono

すくすくと育ったトキはやがて巣立ちの時期を迎えます。 最も早い雛が巣から這い出たのは5月25日、 順に巣立つトキの雛たちは今年誕生が確認された8羽の内最後の1羽も6月21日には飛び立ち、 皆が皆、外界に羽を広げられた[K2] のです。 この如き完全なる巣立ち率はトキ復活支援に与って力のあった中国にても見られない事象で 全く以て地元の努力が実を結んだ成果と言われています。 即ちトキの生活する周辺環境が素晴らしく整えられていたのでした。

地元とは即ち新潟県佐渡市、佐渡島です。 その佐渡に於いて如何にトキの幼鳥がこの如き高い生存率を保たせしめるかの 具体的手法が佐渡市ホームページにて紹介されています。 トキがその逞しい成長を見せ皆が巣立って少し経た2012年7月3日にその記事 「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度のご案内 は更新されました。 写真を交えた説明が詳しいので以下に引用させてもらうことにします。

水田、水路での江(深み)の設置 水田の湛水状態を維持することにより、中干し期にも生きものを育みます。
ふゆみずたんぼ 11月から2月まで湿地状態を維持し、年間を通して生きものが生息する環境を維持します。
魚道等水路の設置 水路を通じて複数の水田や河川がひとつにつながり、より広範な生態系が形成されます。
ビオトープの設置 水田と隣接してビオトープを整備しています。 その中には、驚くほど多種多様な生きものが暮らしています。

トキの生活環境に於けるキーワードはヒトとの 共生 と言っても良いのは、上の引用を見ても明瞭です。 どうやら昔ながらの農業がトキが生きていくには最適の環境であるようです。 農薬や化学肥料、生産高拡大の為の効率化、機械化などをヒトが目論んだ結果の農地が トキを絶滅に追い遣る一因ともなり、 その農業から産み出される生産物は決して人間自身に取っても好ましいものではないのが だんだんとはっきりして来ました。 トキを守る環境はヒトにも優しい環境であったのです。

考えてみれば数千年に渡り育まれた農法が 産業革命後の機械化に一変していいものではないものかも知れません。 機械化の好い処は取り入れつつ、行き過ぎは抑制し、 漸次改善が図られて行くことこそが必要なのでしょう。 急激な変化には生物は耐え切れるものでないのはトキが身を以て示してくれました。 農閑期にも豊かに水が湛えられ、 互いの水田を水は行き来しそれは田圃に暮らす生物たちの行動範囲を広げ、生き易くします。 日本の原風景たるこの環境こそが必要でした。

化学肥料や農薬は矢張り使用は好ましいものではありません。 害虫駆除だけでなく其処に暮らす生物への悪影響はトキにも、 そして生産物である米にも影響が出るのは論を俟たず、 使用を控えるに当たっては効率化低減、生産高縮小に繋がりはしますが しかし佐渡では遂にそれを実行しました。 其の佐渡の田園に育つ米の安全性は由ってトキが証明してくれているようなものです。 これを以て 朱鷺と暮らす郷づくり認証制度 として制度化した佐渡市の試みは評価されて然るべきでしょう。 認証米は誰あらん、トキこそが認証者であるとも言えます。 斯くして新しい共生がトキとヒトに齎された新潟県佐渡市でした。

師走の今、これからトキの幼鳥には実に生存の厳しい冬が遣って来ます。 寒さも辛く餌となる生物も減れば、幼鳥の生存率は減じざるを得ないでしょう。 しかしそれが野生でもあります。 どうか今年誕生したトキがこの厳しい冬を乗り越えてくれるよう願うばかりです。

使用写真
  1. 朱鷺の村( photo credit: houroumono via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 36年振り日本産野生トキ誕生を環境省小型カメラが確認、わく地元と関係者(2012年4月23日)
  2. 野生のトキ芽出度く8羽皆巣立ち環境省がレッドリスト見直しへ(2012年6月26日)
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