武田ランダムハウスジャパンの倒産は苦境出版業界の象徴的縮小モデルとなる

ウォルター·アイザックソンWalter Isaacson) 氏をかたむき通信に取り上げたのは伝記作家としての スティーブ・ジョブズSteve Jobs) 氏に関する著作がその生涯を映画の題材に取り上げる原作に採用された旨 〔K1〕 伝えた記事に於いてでした。 設立したアップル社の危機を救い世界一の企業迄育て上げたのは 偏にジョブズ氏の自社製品への拘りが大きかったとされますが、 そのような人物が自らの死を予感し際、伝記を依頼したのがアイザックソン氏だったのです。 伝記作家として重きを成していた作家のその注目の著作が 日本語訳される際にも些かのすったもんだがあったように記憶していますが それは只に短期間に因るものだけではなく、 原著作が翻訳の難易度が高いものであったのかも知れません。

翻訳が難しいからと言って適当な訳書を日本語版として出版するのは許される行為ではなく、 然るに実施してしまった出版社がありました。 武田ランダムハウスジャパン です。 当該出版社の出版したアインシュタインの伝記でアイザックソン氏の著書であるその特に下巻の アインシュタイン その生涯と宇宙 下 は関係者に話題ともなりました。 6月に上梓された下巻の凄まじさが一月を経ず広まり遂には 伝記下巻のアマゾンレビュー に、7月15日付けで翻訳に一部関与したとする松田氏に依る批判レビューが寄せられています。

当時の状況として翻訳業界の内側からの視点で見て分かり易く纏められたのが 桃原則子 氏の文責になるブログ記事 〔※1〕 で、かなり辛辣な批判が展開し、内情が伺い知れもする内容となっています。 翻訳業界の仕事の品質に厳しい意見が加えられるのは 余りに低品質な翻訳仕事の際翻訳が桃原氏の元に届けられて迷惑を被った上でのことで、 業界への警鐘ともなり、真情が吐露されるものでもあるでしょう。 従って翻訳業界全体が低質なものではないことが伺えますが、 どうにも武田ランダムハウスジャパンの仕事には問題があったと言わざるを得ません。

桃原氏の文章にもあるように武田ランダムハウスジャパンの前身は 株式会社ランダムハウス講談社 であり、2003年に英語一般書籍分野に於いて世界最大の出版社 ランダムハウスRandom House) と日本の講談社が合弁企業として設立したものです。 幾つかヒット作を産み出しもしたようですが紆余曲折あり2010年には提携も解消、 その際、社長であった 武田雄二 氏が三者協議で株式を引き受けることに決定、 社名を株式会社武田ランダムハウスジャパンに変更、 業務継続していたのでした。 ランダムハウスと言うブランドは英語圏居住者に取って馴染みの深いブランドであり それが活かされるべく再出発が図られた折の記事が出版業界専門紙の新文化2010年4月15日号に掲載 〔※2〕 されています。

桃原氏のブログ記事に遅れること約1週間、 元ランダムハウス講談社の関係者と思しき人物のブログ記事が配信され 〔※3〕 此方の視点は出版社に重心を置いたもので興味深いものとなっています。 ランダムハウス側からは高品質を保つべき要請が絶えなかった様子も垣間見えますが、 矢張りこの記事が書かれたのは武田ランダムハウスジャパンの 低品質なアインシュタイン伝翻訳本下巻上梓が契機となっており 話しは其処から出版業界の内情に展開します。 其処には再販制度や返本率と言った構造的な問題から 自転車操業とならざるを得ない業界の体質が浮き彫りにされており、 出版不況と言われるご時世にも関わらず刊行点数だけ増して行く状況の説明には 至極納得させられるものとなっています。

そして遂に出版業界を構造を矮小化した上に象徴しているかの様な 武田ランダムハウスジャパンの倒産の情報が伝えられる処となりました。 東京商工リサーチ 〔※4〕 にも帝国データバンクにも 〔※5〕 同社が12月12日に東京地裁へ自己破産を申請し、同日破産手続き開始決定を受けた旨、 及び債権者207名に対し約9億2600万円と言う負債総額が伝えられます。 東京商工リサーチには同社の設立目的が講談社の子会社として飲食事業であったとされ、 また帝国データバンクでは不動産賃貸であったとし、 後者には創業が1972年(昭和47年)12月ともされますから なかかな資本関係の移転も紆余曲折をみたものと思われますが、 その末の破産と言う仕儀と相成りました。

使用写真
  1. Einstein E=mc.... zzzzzzzzzz( photo credit: One From RM via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 故スティーブ・ジョブズ氏映画化原作のベストセラー伝記(2012年5月16日)
参考URL(※)
  1. 翻訳エージェント代表が語る「想定内」の大惨事(モモノリ!一刀両断:2011年8月2日)
  2. 武田ランダムハウスジャパン再出発、ライセンス事業で増資へ(新文化:2010年4月15日)
  3. 機械翻訳をそのまま出版?トンデモ本の裏にあるもの—Accidental Einstein and what’s plaguing Japanese publishing(Books and the City:2012年8月8日)
  4. (株)武田ランダムハウスジャパン[東京] 出版業破産開始決定/負債総額約9億2600万円(東京商工リサーチ:2012年12月17日)
  5. 武田ランダムハウスジャパンが破産―校正ミスの影響も(帝国データバンク:Yahoo!ニュース BUSINESS:2012年12月17日)
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