翻訳が難しいからと言って適当な訳書を日本語版として出版するのは許される行為ではなく、 然るに実施してしまった出版社がありました。 武田ランダムハウスジャパン (2020年1月8日現在Webサイト停止確認)です。 当該出版社の出版したアインシュタインの伝記でアイザックソン氏の著書であるその特に下巻の アインシュタイン その生涯と宇宙 下 は関係者に話題ともなりました。 6月に上梓された下巻の凄まじさが一月を経ず広まり遂には 伝記下巻のアマゾンレビュー に、7月15日付けで翻訳に一部関与したとする松田氏に依る批判レビューが寄せられています。
当時の状況として翻訳業界の内側からの視点で見て分かり易く纏められたのが 桃原則子 氏の文責になるブログ記事[※1] で、かなり辛辣な批判が展開し、内情が伺い知れもする内容となっています。 翻訳業界の仕事の品質に厳しい意見が加えられるのは 余りに低品質な翻訳仕事の際翻訳が桃原氏の元に届けられて迷惑を被った上でのことで、 業界への警鐘ともなり、真情が吐露されるものでもあるでしょう。 従って翻訳業界全体が低質なものではないことが伺えますが、 どうにも武田ランダムハウスジャパンの仕事には問題があったと言わざるを得ません。
桃原氏の文章にもあるように武田ランダムハウスジャパンの前身は
株式会社ランダムハウス講談社
であり、2003年に英語一般書籍分野に於いて世界最大の出版社
桃原氏のブログ記事に遅れること約1週間、 元ランダムハウス講談社の関係者と思しき人物のブログ記事が配信[※3] され、此方の視点は出版社に重心を置いたもので興味深いものとなっています。 ランダムハウス側からは高品質を保つべき要請が絶えなかった様子も垣間見えますが、 矢張りこの記事が書かれたのは武田ランダムハウスジャパンの 低品質なアインシュタイン伝翻訳本下巻上梓が契機となっており 話しは其処から出版業界の内情に展開します。 其処には再販制度や返本率と言った構造的な問題から 自転車操業とならざるを得ない業界の体質が浮き彫りにされており、 出版不況と言われるご時世にも関わらず刊行点数だけ増して行く状況の説明には 至極納得させられるものとなっています。
そして遂に出版業界を構造を矮小化した上に象徴しているかの様な 武田ランダムハウスジャパンの倒産の情報が伝えられる処となりました。 東京商工リサーチ[※4] にも帝国データバンク[※5] にも同社が12月12日に東京地裁へ自己破産を申請し、同日破産手続き開始決定を受けた旨、 及び債権者207名に対し約9億2600万円と言う負債総額が伝えられます。 東京商工リサーチには同社の設立目的が講談社の子会社として飲食事業であったとされ、 また帝国データバンクでは不動産賃貸であったとし、 後者には創業が1972年(昭和47年)12月ともされますから なかかな資本関係の移転も紆余曲折をみたものと思われますが、 その末の破産と言う仕儀と相成りました。
使用写真- Einstein E=mc.... zzzzzzzzzz( photo credit: One From RM via Flickr cc)
- 故スティーブ・ジョブズ氏映画化原作のベストセラー伝記(2012年5月16日)
- 翻訳エージェント代表が語る「想定内」の大惨事(モモノリ!一刀両断:2011年8月2日:2020年1月8日現在ブログ停止確認)
- 武田ランダムハウスジャパン再出発、ライセンス事業で増資へ(新文化:2010年4月15日:2020年1月8日現在記事削除確認)
- 機械翻訳をそのまま出版?トンデモ本の裏にあるもの—Accidental Einstein and what’s plaguing Japanese publishing(Books and the City:2012年8月8日)
- (株)武田ランダムハウスジャパン[東京] 出版業破産開始決定/負債総額約9億2600万円(東京商工リサーチ:2012年12月17日)
- 武田ランダムハウスジャパンが破産―校正ミスの影響も(帝国データバンク:Yahoo!ニュース BUSINESS:2012年12月17日:2020年1月8日現在サービス停止確認)