好調三菱鉛筆がジェットストリーム、クルトガなど着実にヒットを飛ばす理由

コンピュータ化の進む世の中はペーパーレス、ペーパーレスの大合唱となれば 筆記具には厳しい状況と言わざるを得ません。 ところがその逆風下に筆記具メーカーである 三菱鉛筆株式会社 が業績を伸ばしていると言うのですから気になります。

この三菱鉛筆はロゴマークにお馴染み 3つの菱形が中心から3方に広がる例のスリーダイヤ・マークを用いているのですが、 まったく三菱銀行、三菱商事、三菱重工などで有名な 三菱グループとは関係が無いのだそうです。 三菱マークを用いたのは三菱鉛筆の方が先でもあるのだとか、 1887年(明治20年)設立の 眞崎鉛筆製造所 と1918年(大正7年)設立の 大和鉛筆 の両者が合併した 眞崎大和鉛筆 を前身とし1952年(昭和27年)に三菱鉛筆へと商号変更しました。

この三菱鉛筆の好調を知らせてくれるのは プレジデント2012年6.18号 掲載の記事でヤフーにも2012年6月21日に配信されている ペーパーレス時代になぜ三菱鉛筆は最高益か (ヤフーの記事は2019年5月19日現在削除されていますので、 PRESIDENT Onlineプレジデントオンライン に2013年10月17日に配信された記事にリンクを貼り替えました。) です。

筆記具の市場が伸び続けることはないと言う危機感から 20年ほど前に多角化を始めたものの利益率の高い商売ではなく、 2001年のITバブルの崩壊を契機に大きく方向転換図ったそうです。 その際の2大方針が以下のように挙げられています。

  1. 筆記具メーカーとしての原点回帰
  2. 海外調達比率の上昇

この方針に従い地道な研鑽を継続し、 2011年12月期の連結経常利益は65億円で、2期連続で最高益を更新し、 この10年間で売上高は横ばいなるものの収益は着実に伸びており 正しく目論見通りの結果が得られていると言えるでしょう。

そして好調の影にはやはりヒット商品が有りました。

  • ジェットストリーム[追1]
    世界初の画期的な新開発インクでくせになる滑らかな書き味の油性ボールペン
  • クルトガ[追1]
    芯が回って尖り続けるシャープペン
  • スタイルフィット[追1]
    ホルダーとリフィルを自分の好みに組み合わせられるボールペン

これら次々と産まれたヒット商品は 記事によれば孰れも背景に高い技術を伴うため 他社から類似商品が出難いのだそうです。

そしてこの高い技術力を支えるために 研究開発費だけは削らない と言う経営判断があり、研究開発費は売上高の約6%、 開発は従業員約2800人の内約7%の200人程が担っているそうです。 着実なヒット商品を重ねるのにはこんな理由があったのですね。

こうして今回雑誌プレジデントに取り上げられる以前にも2009年2月27日にはBiz.ID誠で記事 あなた好みのジェットストリームに――三菱鉛筆、55種類のリフィルから選べる「STYLE-FIT」 (2019年5月19日現在記事はBiz.ID誠からITmediaエンタープライズに配信元が変更されています。)に スタイルフィット(STYLE-FIT) の登場時の紹介がされていて、 そこには既に定番であるかの如く ジェットストリーム インクの名が挙げられその人気は着実に根付いていることを覗わせると同時に 各開発アイテムを上手く組み合わせることで相乗効果を産んでいる様子も垣間見えます。

どうやら三菱鉛筆好調の立役者となっているのは2006年に新開発された ジェットストリーム が大きく力となっているようでその驚きの滑らかな書き味が各所に取り上げられています。 その一つが日経トレンディの文具王高畑正幸さんの連載記事 最新文具ワンダーランドで2008年1月10日配信の ボールの回転数はF1並み!? 滑るように書ける、油性ボールペン 第5回「ジェットストリーム」 です。

ボールペンのペン先のボールの回転数を 1万3620回転/分 と算出しF1以上の高速回転と評価しているのが面白いですね。 また記事には2006年7月に発売されたジェットストリームが 同年末の日本経済新聞 日経MJヒット商品番付 では前頭に選ばれていることも紹介し、 その性能の高さによるものだとする評価は三菱鉛筆に取っても本望でしょう。

追記1(2019年5月18日)

本記事に紹介通り好調な三菱鉛筆のラインナップは拡張し、紹介リンクも当該ページが新しくなっていますので、 以下列挙して其方に新たにリンクを貼り置きます。

追記2(2021年5月29日)

今年2021年鏡も開けぬ正月7日に勝って兜の緒を締めよ、と許りにプレスリリース[※1] を配信したのが本記事主役の三菱鉛筆株式会社です。 主戦力の一つは勿論本記事に紹介した クルトガ にて、2008年発売の其のシリーズ累計売上本数は去年2020年初夏には十二支一巡を経て遂に一億本の大台を突破[※2] していました。 正月7日のプレスリリースでは此のクルトガ機能を解除可能な新機種として2月10日に ユニアルファゲル スイッチ を新発売するなる内容です。 名称にあるスイッチとは最大の売りであるクルトガ機能をオン、オフ出来るところから来ているのでしょう。

すると些か疑問が湧いてきます。 何故最大の売りであるクルトガ機能を停止せしめる必要があるのでしょうか。 関して面白い考察を与えている記事[※3] が先月24日にゲットナビwebから配信されていました。 クルトガ機能を解除したHOLDモードのメリットとして、 芯を回転させる機構の振動が生じない為の安定した筆記感の獲得が挙げられるのですが、 当然トレードオフとなるクルトガの芯の偏減り抑制が効かなくなる道理で、 従って「クルトガの良さを再確認させるのが、三菱鉛筆の目論見」である、との命題を導いているのです。 此の命題が真ならずとも、クルトガが大ヒット商品であるのは間違いなく、 同記事に有る様に2013年の調査では「メインユーザーとなる中高生の認知度100%・所有率70%以上」と言う、 中高生には途轍もないユーザー層を擁するのですから、 HOLDモードを搭載したスイッチは広範囲をカバーする品揃えとして三菱鉛筆が必要と判断したのでしょう。

2001年のITバブル崩壊を機に筆記具メーカーとしての原点回帰を信条として大きく方針転換を図った三菱鉛筆の、 現状に甘んじず本業に於いて品揃えを拡充、充実させる姿勢は遂には、 2009年から2020年の大手流通POS年間販売金額実績に12年連続シャープ売上No.1[※4] を達成せしめました。 斯くて累計二億本の販売本数を睨んだ三菱鉛筆の次の十二年が開始されました。

参考URL(※)
  1. “クルトガモード”と“ホールドモード”を切り替え、使用シーンに合わせて使える“集中力が続く”「ユニ アルファゲル スイッチ」新発売(三菱鉛筆株式会社プレスリリース:2021年01月07日)
  2. 『クルトガ ディズニー&ディズニー/ピクサーシリーズ』『クルトガ ラバーグリップ付モデル ディズニーシリーズ』(三菱鉛筆株式会社プレスリリース:2020年07月17日)
  3. 文房具ブームの火付け役「クルトガ」に「アルファゲル」の最強タッグ実現! 三菱鉛筆「ユニ アルファゲル スイッチ」に込められた逆転の発想とは?(GetNavi web ゲットナビ:2021年4月24日)
  4. 『クルトガ ラバーグリップ付モデル ディズニーシリーズ』数量限定発売(三菱鉛筆株式会社プレスリリース:2021年05月12日)
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