世界初クウォーツムーブメント35SQ~世界にショックを与え日本を一躍腕時計界の中心に至らしめたセイコーアストロン

世界の時計史から見れば異様としか言いようのないのが日本時計界でしょう。 腕時計の普及し始めた第1次世界大戦の頃は イギリス、フランス、アメリカが主な生産国でありました。 時は第2次世界大戦に及び永世中立国としてスイス時計界は特需に沸き 以降は世界の腕時計界の中心足り得、同国を中心に回っている感があります。 とまれ腕時計界はヨーロッパにその重心があるに違い有りません。 日本では時計商は輸入時計を商うもので 自前で拵えるなどと言う状態にはなかったのです。

日本時計界に最初に気を吐いたのはご存知の如く セイコー(ホールディングス株式会社) でした。 ご他聞に漏れずセイコーも創業者服部金太郎氏が服部時計店を設立した際は 輸入時計を商う時計商であったのです。 しかし商うだけでは物足らぬ金太郎氏は創業より10年余り、 1892年には自社開発時計を、1896年頃には腕時計の前身となる 懐中時計を自社製造し商い始めました。 日本人のものづくり魂も斯く哉というべき著しい進展です。 しかし世界の時計界にあっては常に傍流であったのも否めない事実でしょう。

そんな状況を打開し突破口を開き今も尚、 日本の腕時計に存在感を保たしめるのは 一重にクウォーツムーブメントあってこそと言えます。 此処でもその一番槍は服部セイコー社でした。 世界初の量産型クウォーツムーブメントを持つ商用腕時計を開発、 遂に1969年、発売へと漕ぎ着けたのです。 腕時計にクウォーツムーブメントを組み込むと言うのは 超小型化、耐衝撃性が要求されるこの上ない難儀な仕様で セイコー以外の何処も成し遂げられなかったのでした。

このクウォーツに関する特許はセイコーにより公開されて 世界の腕時計はクウォーツにあらねば腕時計にあらぬ、という状態にまで一色に染まりました。 なんとなればその精度は機械式ムーブメントとは桁違い、比較にならぬ程高いものだったのです。 しかも技術開発は進み、量産効果も働き、 セイコー最初のモデルが45万円と当時の大衆自動車以上の値段が付けられたのに対して 価格は著しく低廉化されました。 これによりスイスに主役の座を奪われていたアメリカでは時計産業は壊滅、 時計界の盟主スイスも息の根の止まる寸前まで打撃を受けたのでした。 これを世に クウォーツショック と呼ばれる一事で正しく腕時計界に日本有りと知らしめ 世界にその存在を強烈に焼き付けた時代でした。

その世界初のクウォーツムーブメント搭載のモデルこそ セイコー・アストロン でした。 その詳細は誇らしくもエプソンホームページに世界に名を刻んだ同社グループの マイルストーンプロダクツの一つ セイコー クオーツアストロン 35SQ として名を連ねています。 此処にはそのクウォーツ周辺回路に於いてトランジスタ76個、コンデンサ29個などの 大量の部品を手作業でセラミック基板上にハンダ付けして構成したとあり、 LSI(大規模集積回路)などのない当時の時代背景が思われますが、 それでこそモデルとムーブメントは一体渾然としたものであり、 このムーブメントを以て他の機種に流用することもなかったのでしょう、 此処では便宜的にムーブメントを35SQと記し置きましたが適切でないかも知れません。

英語版ですがWikipediaにはこの腕時計アストロンの項目 Astron (wristwatch) も用意され、 エプソンのマイルストーンプロダクツ頁にも記載される 2002年に米国電気電子技術者協会(IEEE)の 革新企業賞(Corporate Innovation Recognition Award)の受賞も紹介されています。 また日本円で45万円、アメリカドルにして 1,250ドルもの高価な腕時計であるにも関わらず、 僅か1週間に100もの数が売れた様子も紹介されています。

以下にエプソンホームページから当該モデルの仕様を引用しておきます。

中三針:秒針1秒運針
ムーブメントサイズ:外径 30.00mm、 厚み 5.30mm(電池部6.10mm)
駆動方法:水晶発振駆動回路によるステッピングモータ式
水晶振動数:8.192Hz
精度:常温(+4℃~+36℃) 日差 ±0.2秒/月差 ±5秒
電池寿命:1年以上
石数:8石
価格:45万円(18K金無垢ケース)

この世界に衝撃を与え、時計界を一変させた史上初のクウォーツムーブメントは その手作業で構成されるICを基盤としていることから、 今となっては機械式ムーブメントより復元、復活の難しいムーブメントと言えるのかも知れません。

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