オメガ・コーアクシャル・キャリバー8508発表~抜きん出た超高耐磁ムーブメント

帯磁は微小な金属の集合、精密機械仕掛けである腕時計の製作者を長い間悩ませている問題です。 磁界の中に入れば金属は忽ちの内磁性を帯びるのは如何ともし難い自然の摂理、 細かい金属片が製作者の思惑とは異なる方向に互い互いに吸引、反発すれば 精密機械が狂うのも道理であるのでした。 腕時計に悪いことには今日電磁波を発生する機器は日増しに増えているのはご存知の処、 テレビやパソコンに携帯電話など磁界を生じさせない場を探す方が難しいくらいです。 ステッピングモータを採用するアナログクォーツにもその影響はありますが、 特に機械式腕時計に於いては看過出来ない重大事であるのです。

Erickson photo credit by Kim Scarborough
Erickson photo credit by Kim Scarborough

腕時計の帯磁性には対する性能を現す規格が用意されているのは その問題が根深いのを示してもいるようです。 その規格とはJIS規格(日本工業規格)の JIS B 7024-1994 にて耐磁時計は以下に示す水準に従って2種類に分類されています。

  • 1種耐磁時計: 直流磁界4,800A/mに耐えられる水準(日常生活において。磁界を発生する機器に耐磁時計を5cmまで近づけてもほとんどの場合性能を維持できる水準)
  • 2種強化耐磁時計: 直流磁界16,000A/mに耐えられる水準(日常生活において。磁界を発生する機器に耐磁時計を1cmまで近づけてもほとんどの場合性能を維持できる水準)

相も変わらず此の手の情報が 当該関係機関のホームページからは検出されないのは如何なものかと思いますが、 腕時計メーカーなどのホームページに共有されており 特にシチズンのページ[※1] は分かり易く出来ています。

この分類に依れば直流磁界16,000A/mに耐えて性能を維持する腕時計は 耐磁時計として高機能なものに分類される訳ですが、 では現在世の中に出回る高性能な耐磁時計はどれくらいの数値を持っているのでしょうか。 去年夏セイコー社はグランドセイコーブランドで強化耐磁時計を発表した[※2] のは記憶に新しい処です。 それと並ぶものの一覧を下に列挙します。

  • グランドセイコー:80,000(A/m)
    • SBGR077
    • SBGR079
  • IWC:Ingenieurインジュニア:80,000(A/m)
  • RolexロレックスMilgaussミルガウス:80,000(A/m)
  • Sinnジン:MODEL 656.:80,000(A/m)

これ等が現在世界でも最高の耐磁性能を誇る機種なのですが、 これを上回る超高耐磁性能を持つ腕時計ムーブメントが発表されました。 スウォッチグループのミドルアッパークラスのブランドを担う OMEGAオメガ が発表した コーアクシャル キャリバー8508 であり、そのスペックは15,000(G)の磁束密度に耐え 性能を維持し得る[※3] と言うものです。

さて、此処で気になるのがその単位です。 従来の強化耐磁時計では(A/m)、 アンペア毎メートル 、が用いられていますが、 オメガのcal.8505には(G)、即ち ガウス が用いられているのに気が付いたでしょうか? 東陽テクニカ社ホームページに用意されている磁気測定FAQ[※4] によれば(A/m)は 磁束密度 (B)を、ガウス(G)は 磁場強度 (H)を表すとあり異なる単位となっていますので其の儘の比較はなりません。 しかし同ページに B=μH と有る通り両者はμを介して一定の関係にあるため換算が可能です。 実際シチズンの説明ページ[※1] でも機器が発生する磁界の強さと距離の関係例に於いて両者は同一線上に 対数的にプロットされているのでした。

この計算は如何なるものか、 此処でもインターネットが活用出来ます。 東洋磁気工業ホームページには換算ツール[※5] が用意されているのです。 早速80,000(A/m)が何ガウスに相当するのかツールを使ってみましょう。 結果は 80,000(A/m)=1005(G) と弾き出されました。

…こ、これは些か目を疑う眉に唾をつけてしまいそうな結果です。 2、3度目を擦ってみてもどうやら見間違いではありません。 cal.8508の耐磁性能スペックは15,000(G)ですから正しく桁違い、 逆にcal.8508の単位を(A/m)換算してみればそれは 15,000(G)=1,194,000(A/m) と百万を越えて、従来の強化耐磁時計とは歴然とした差を示しています。 正しく画期的な耐磁性能を有したムーブメントの発表となる訳です。

従来耐磁性能を強化するにはムーブメントを純鉄などで囲い、 周辺磁気から保護する手法が主体でした。 しかしニュースソース[※3] を見てみればムーブメントの構成素材に鉄を含まないのだそうで、なる程発想の逆転でしょう。 他にもこの新ムーブメントでは特許を申請中のものが幾つかあるそうで だからこそ上記の桁違いの高性能が現出しているのでしょう。 スウォッチグループ総帥のハイエク氏肝煎りであることも記され、 それがグループ全体として注力された事業であったのも分かります。

些か信じ難い従来とは桁外れの高性能振りが紹介されましたが このムーブメント8508について採用された技術は来る2013年4月25日から5月2日に掛けて スイスバーゼルで開催される世界最大の宝飾と時計の見本市 BASELWORLD 2013 (バーゼルフェア)で発表する予定であるそうですし、 2013年の市場にも投入されるとのことですので、 近々真相は明らかにされることとなります。

使用写真
  1. Erickson( photo credit: Kim Scarborough via Flickr cc
参考URL(※)
  1. 磁気が及ばす影響(CITIZEN-シチズン腕時計)
  2. 高級ウオッチブランド<グランドセイコー>から赤い「GS」ロゴをアイコンに、世界最高水準の強化耐磁モデルが登場(セイコーニュースリリース:2012年8月29日)
  3. オメガが初の超高耐磁性能時計を発表(元記事「LUXURY TV/本日の耳より!NEWS」削除のため「ライブドアニュース」に再リンク:2013年1月19日)
  4. 磁気測定 FAQ(東陽テクニカ)
  5. 磁束密度、磁界強度の単位換算(東洋磁気工業)
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