新開発の飛ばないテントウムシは生物農薬~農家の強力な新兵器

農業に於いては害虫駆除は必須の作業で これを農薬に頼り過ぎれば頃日ではその安全面が問題視されることにもなり、 商品価値を貶めることにも繋がる頭の痛い問題でしょう。

代表的な害虫には アブラムシ があり、殆んどの植物に寄生の可能性があるそうで 大発生すれば作物の出来を悪くするばかりか 農作物が枯れてしまうことにもなりかねないとなれば、 これは是非とも駆除が必要となります。

実はここに人間に対する安全面で農家に取って強力な武器があるのでした。 その名も 生物農薬 と言います。 これに対し普段我々が農薬と言って想像するのは狭義の農薬で 化学農薬 と言うのですね。

生物農薬とは昆虫、線虫、菌類などを主とした農薬としての目的で利用される生きた生物を言います。 中にも特に天敵を利用する場合を 天敵農薬 と称すのですが、この研究を続ける 若手研究職員インタビュー独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 略称を 農研機構 と称する組織のホームページ内に紹介されています。

この若手研究職員の名前は2002年4月に同機構に採用された 世古智一 さんと言いそのインタビューは 飛翔能力のないテントウムシを作り出し、農業現場で実用化させる (2019年5月27日現在記事の削除を確認しましたので新たに 「飛ばないナミテントウ」特集ページ にリンクを貼り置きます。)にあります。 インタビューには ナミテントウ とされますばこれはテントウムシのことですので 本記事ではテントウムシで統一します。

考えてみればテントウムシには羽がありますから 害虫を取って貰いたい畑に放しても好きな処に飛んで行ってしまうのが道理です。 そこでいろいろ試行錯誤で飛ぶのが苦手なテントウムシを掛け合わせるなどの 品種改良(テントウムシに取っては改悪ですが…)を 何代も何代も地道に積み重ね、 遂に飛ばないテントウムシを生み出したのですね。

Wikipediaに依れば生物農薬には一般に化学農薬との比較で以下の違いが挙げられます。

  1. 有効期限が短い。(特に昆虫類は短い。)
  2. 化学農薬との併用が不可、または限定的である。 また化学農薬と生物農薬の散布の間隔を広くあける必要がある。(化学農薬で生物農薬が死滅してはいけないので)
  3. ビニールハウスなどの閉じた空間で利用することが多い。(特に昆虫類は逃げるので)
  4. 有機農法でも使うことができる。
  5. 対象となる害虫、病気、雑草が限定的である。
  6. 人畜や環境に対して安全性が高い。 ただし外来生物を利用した生物農薬は、周辺の生態系への影響が懸念されている。
  7. 化学農薬は同一のものを繰り返し散布すると、害虫や病原菌に抵抗性が生じることが多い。しかし、生物農薬の場合、抵抗性が生じることは少なく、むしろ生物農薬で使われる生物の密度が高くなって効果が高くなることが多い。

見てみれば良い処ばかりで2番など返って化学農薬が使われない証拠にもなって 有り難いくらいのものです。 弱点と言えば1番及び3番及び5番が挙げられるでしょうか? これに於いて飛ばないテントウムシは見事に2番の弱点を克服して見せた訳です。 従って世古さんも、施設栽培だけでなく露地栽培でも高いアブラムシ防除効果を発揮すると 自信を持って主張する処となるのですね。

インタビューにはこの飛ばないテントウムシ実用化に於いて 民間企業・大学・近畿中国四国地域の農業試験研究機関と連携し、 研究プロジェクトに取り組んでいる旨が記載されますが、 どうやらそれが遂に目処が着いたらしきニュースが朝日新聞か2012年6月24日に 飛ばないテントウムシを開発 害虫アブラムシ退治のため (2019年5月27日現在記事削除確認)として配信されました。 近く連携する民間企業が農作物の害虫アブラムシを食べる生物農薬として 農林水産省に登録申請することを知らせています。

世古さんは今後の研究に於ける夢を問われ以下引用のように答えています。

天敵育種とその利用法の開発は、発展が見込まれる分野です。 今後は飛ばないナミテントウだけでなく、他の天敵類に対しても有用系統を確立し、 実用化を目指したいと考えています。 私たちの成果が農業現場に普及していくことで、食の安全・安心、生産者の方の労力削減、 および環境保全に貢献できると嬉しいです。

世古さんの夢が実現し我々の食生活が安心に満ち、 豊かな環境が次世代に受け継がれることになるのを願って已みません。

追記(2018年3月2日)

テントウムシはアブラムシを一日に百匹も捕食し、 以てすれば一平方メートル当たり二匹も投入すれば栽培物の安全は保たれるのだそうですから、 害虫としてのアブラムシ駆除に用立つのは言う迄もなく本記事の 農研機構 の研究成果について配信するに至る訳でした。 さて、此処にテントウムシを飛ばなくして仕舞えば良い、と言う基本概念を同じゅうしながら其の方法論を全く異にする研究成果が頃日報告されました。 農研機構に於いては其の方法は本記事にもある様に 品種改良 を以てテントウムシを 生物農薬 たらしむ方法論でした。 本記事配信以降も研究は進められ其の様子は2016年10月11日の開発レポート[※1] でも窺い知られます。

対して本追記に共有する方法は 千葉県立農業大学校病害虫専攻教室清水敏夫 を中心として開発された技術で テントウムシのはねを樹脂で固めて一時的に飛べなくしてしまおう、と言うものです。 当該技術については千葉県のサイト内に去年2017年12月14日の記事[※2] として詳細が配信されており、特許としては発表に先立つこと半年前の2017年5月9日に出願されている旨、述べられています。 此処に「他機関が遺伝的に飛翔できない系統を商品化」としてあるのが農研機構の飛ばないテントウムシと思われますから、 両者基本概念を同じゅうしながらも全くの別系統の技術であるのが分かります。 そして驚くことに千葉県立農業大学校の技術の系統の発端となる発案者は 千葉県立成田西陵高等学校の生徒だそうで2014年に開発、特許が申請されています。 農研機構ではテントウムシは品種改良され代々飛べないテントウムシたるを運命付けられましたが、 千葉県立農業大学校の方法では樹脂は二ヶ月ほどで自然に剥がれてしまうそうで、 するとテントウムシはお役御免とばかりに再び自由気儘に大空を飛び回れる様になるのが大きな相違点であるでしょう。

此の技術の施されたテントウムシ、 飛翔制御したナミテントウ は商品名を Tentrol と称し千葉県に於ける特定防除資材として販売を今年2018年初頭から開始する予定である、 とされていますから既に導入済みの農家も多いのかも知れません。 以下に埋め込むANNnewsCHで共有される動画では、 テントウムシの翅に樹脂を一滴垂らして固める様子や、 畑に放したテントウムシの其の効果を享受し喜ぶイチゴ農家の様子が見られます。 (ANNnewsCHの動画は2019年5月27日現在削除されていますので新たに農研機構が運営する NAROchannel の動画にリンクを貼り置きます。)

虫の習性を利用して害虫退治する研究(NAROchanne:2018年8月12日)
参考URL(※)
  1. 開発レポート 「飛ばないナミテントウの開発と製剤化」(農研機構:2016年10月11日)
  2. 「飛翔制御したナミテントウ」の販売及び昆虫類と微生物を組み合わせた害虫防除技術の開発について(千葉県:2017年12月14日)
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