戦国時代末期、現代の中国が
韓・趙・魏・楚・燕・斉・秦
の戦国七雄に割拠し、
最初の舞台は
墨攻と言うのも奇異な言葉ですが、これが
墨子(
梁城を守り切ったとなれば必然的に革離の敵は 墨家及び大国秦とならざるを得ないでしょう。 革離は梁城に在った時より更に強大な敵と相対することになるのでした。
実は梁城攻城戦終了を以てこの漫画は前編、後編に分けられるべきものかも知れません。 そして残念ながら5巻から以降11巻迄の後編は、無論読者をして読ましめるだけの物語の力は持つものの、 しかしこれを評するには無念な終了を迎えたとせざるを得ないと考えるのです。
以てして呼ぶ後編は前編を下敷きに物語を拡大せんと図ったものと言えます。 一つの作品の中で正しく換骨奪胎が試みられた訳です。 しかしそれはビックコミックと言う 月2回の定期刊行誌連載と言う枠の中では難しいものだったのかも知れません。
前編に梁城を守る革離は後編では
しかし此処に重大なミスがあったように思うのです。
それは原作小説に小悪党でありあっさりと殺されるだけであった
邯鄲の攻城戦は唐突な終了を迎えます。 これは雑誌連載の事情故でしょう。 恐らくは梁城攻城戦迄は実に読者からの評判が高かったのだと思います。 作者は得られた人気に勢い力が入ったのでしょう。 筋立てにも工夫が見られ先を知りたくて胸躍らされるものでした。 しかしそのドラマツルギーは些か複雑に過ぎてしまったのかも知れません。 そして薛併の配役が蟻の一穴として問題を拡大してしまったように思われます。
この物語の一大骨子とも言える主人公革離と墨家集団との関わりは
後編に余り見られないものとなってしまいました。
墨家が秦に
そして最も惜しまれるのは、 恐らく作者が力を入れもし後編の骨子ともなるべき筈の 墨家が何故歴史の闇に埋もれてしまったのか、という問いに答えるべき構成が 主人公との関係が薄くなった故に描かれずに終わってしまったことです。 儒教も老荘も其れに続いた韓非子など諸子百家の思想もかなりの部分後世に残ったのに対し、 墨家の思想のみが闇に葬られたのは実に興味深い処と感じられるだけに 此処は描き切って欲しかった部分であり、 これが無い故に後編が推薦の対象とはならない所以でもあります。
前半では適役は墨家は薛併であり趙軍は
革離の友人子路や秦の始皇帝の影武者、
秦将
秦の始皇帝に敵対することで仲間となった蘭鋳と雲荊は 前者は落命し後者が物語の幕引きをすることになるのでしたが、 幕引きの発想も実に面白く惹き込まれるものとなっています。 この構想自体が作者のドラマツルギースキルの並々ならぬのを表しているもいるでしょう。 しかし諸々の事情に急かされ遂に限られた紙幅に表現し切れなかった感があります。
以上こうして漫画とその原作小説の関係を鑑みれば漫画の原作となった 酒見賢一さんの小説は俄然読むに値するものとなるでしょう。 小説や漫画の映画化などと同様、小説の漫画家に於いても 原作と漫画とを読み比べるのもまた一興となるものです。 そして漫画『墨攻』も 其の前編たる第1巻から第4巻は面白いものであるのは請合います。