米菓業界と包装餅業界から業界の定義と意味を考える

社会の構成を俯瞰するにも業界が一覧出来ればと思うのはしばしばですが、 ネット上や書籍など見ても決定的と思えるものは管見に見当たりません。 経済産業省の責任で公表している統計である 経済産業省所管全統計一覧 に於いてはその定義は確りしているのは無論ですが、 些か実生活からは乖離した抽象度が高い感が有るのも否めません。

三省堂の大辞林を引いて見れば ぎょうかい【業界】 とは 業種や取り扱い商品を同じくする仲間。また、そういう人々の社会。 とあり、これを更に細分化すれば事業や営業の種類を表す文内に有る 業種 となり、実感に則したものに少々近付く気もします。

かたむき通信に昨日伝えたのは柿の種ピーナッツ、所謂 柿ピー を扱う企業同士のパッケージの意匠に関する訴訟問題[K1] でした。 此処に登場した 亀田製菓株式会社 及び 株式会社宮田 の両社は報道などには 米菓業界 に属するとされています。 米を主原料としたお菓子、お煎餅等を主事業に据えている企業と言う処でしょう。

亀田製菓の柿の種期間限定柚子こしょう風味と焦がしラー油風味(2018年5月10日撮影)
亀田製菓の柿の種期間限定柚子こしょう風味と焦がしラー油風味(2018年5月10日撮影)

そして本日2012年9月21日に話題となっているのは 切り餅の切り込みに関する特許 の問題で 越後製菓株式会社 が2002年出願し2008年に登録された当該特許を 佐藤食品工業 侵害しているとして提訴された訴訟に一審の東京地裁判決は否定したものの 二審判決で越後製菓に逆転勝訴が齎されたのが人々の興味を惹いている[※1・追] のでした。

昨日の亀田製菓も今日の越後製菓も社名に製菓の二文字を盛り込んであれば 菓子業界には違いないでしょう。 柿の種に争った宮田社もそれは同様です。 業界動向サーチ.com では業界の一つに 食品関係 をカテゴライズ、更にそれは以下に分類されています。

  • 食品
  • 菓子
  • パン
  • 製粉
  • ビール
  • 清涼飲料

菓子業界は食品関係直下に食品や清涼飲料などと並列でカテゴライズされます。 恐らくはこの更に下層に 米菓業界 が分類されるべきなのでしょうが、業界動向サーチ.comではそこ迄は踏み込んでいません。

株式会社富士経済のレポートサンプルでは米菓業界を取り上げたものが公開[※2] されています。 此処でははっきりと米菓業界が俎上に上げられているのですが、 そこに亀田製菓はシェアが1位として扱われており、 以下、順に企業名が順に挙げられています。

  1. 亀田製菓
  2. 三幸製菓
  3. 岩塚製菓
  1. もち吉
  2. 栗山米菓
  3. ブルボン

なかなか米菓業界とは聞き馴れない感覚がありますが、 お馴染みの顔も見え、業界として明確な形を成しているのが分かりますが、 企業規模から宮田社が見えないにしても越後製菓の名も入っていません。

越後製菓は確かに業務として 餅類、米菓、米飯、麺類、惣菜類 等を挙げていますので米菓業界にも属するのは確かでしょう。 しかし本日の話題としては米菓業界の取扱いに重きは置かれてはいません。 佐藤食品工業に至っては尚更米菓業界とは無関係です。 即ち亀田製菓や株式会社宮田の両社と越後製菓、佐藤食品工業の両社は 主に重心を置く業界が異なる、と考えられます。

では後者の両社はどの業界で報道に扱われているかと言えば 包装餅業界 での1位、2位のシェアを争っているとされているのでした。 確かに佐藤食品の2012年4月期の 品目別売上構成比を見れば 包装餅が48.8%、包装米飯が51.2%と半々となっており、 越後製菓に於いては餅類が包装餅として多く扱っていると推測されます。 この両社が包装餅業界で首位を争い、同時に法廷でも争う処となっているのでした。

恐らく包装餅業界は業界動向サーチ.comに於いては 食品業界にカテゴライズされるのではないかと思われます。 また上に米菓業界のレポートを公開しているのを紹介した富士経済社では 業界カテゴリーを様々分ける内に 生活全般・消費財分野 が有り、その下に事業分類として フード・フードサービス を置き、更には事業領域を以下としています。

  • 加工食品全般
  • アルコール飲料
  • 業務用食材
  • 輸入食材
  • 食品流通
  • 食品機械
  • 研究開発
  • ギフト
  • 清涼飲料
  • 生鮮三品
  • 加工用原料
  • 外食産業
  • 食品包装容器
  • アグリビジネス
  • 定温物流

此方の分類では亀田製菓も宮田社も佐藤食品も越後製菓も 同様に加工食品全般に入ることになるのでしょう。 富士経済社のカテゴリーですので中に米菓業界が有り、 また確認は出来ていませんが包装餅業界が含まれると考えられます。

以上業界に付いて概観的に見て来ると 社会構成を俯瞰し分析する観察者に取ってそれぞれの恣意的な分類が為されているようです。 これは或る意味最もな事情に因るでしょう。 なんとなれば不易流行、即ち業界は社会情勢に合わせてアメーバのように変容し、 一定してはいないからです。 なればこそ社会構成を概観するに業界の曖昧模糊たる全体像を追う意味も有ろうと言うものです。 これに比してWikipediaに項目立てられる 業界団体 などはもう少し固定化しているものであると言えるでしょう。

或る時、或る商品が人々に受け入れられると市場が発生し、 ヒット商品となって市場が伸びるのでした。 将来性豊かな伸びる市場には市場を創造し得た企業以外に 他社が参入し始めるのは必然です。 そして孰れ競合が発生し業界が生まれると言うことなのでしょう。 今回の柿の種ピーナッツ訴訟も切り餅切り込み訴訟も 畢竟健全な社会を示す健全な業界の存在する証左であるのかも知れません。

追記(2019年7月6日)

参考URL※1.の記事が削除されていましたので、 2年後に此の事案について専門家の特許事務所が解説している記事[※3] に新たにリンクを貼り置きます。 此の事案は 「平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求事件」であり、越後製菓が保有していた所謂越後特許、即ち争われた特許は 「特許第4111382号」であるのだそうです。 如何にして越後製菓の勝訴に至ったのか、 知財高裁の判断などを踏まえて詳細が解説されています。

また参考URL※2.の記事も削除されていましたので、 米菓業界に位置付けられる企業の一覧を知るために 亀田製菓の決算説明会に毎回使用されている食品新聞の米菓メーカー売上ランキングから起こした表を参照し、以下に抜粋します。 記載順は2018年の売上ランキングに準ずるものです。

  1. 亀田製菓
  2. 三幸製菓
  3. 岩塚製菓
  4. もち吉
  5. 栗山米菓
  1. ぼんち
  2. 小倉山荘
  3. アジカル
  4. 天乃屋
  5. 越後製菓
  1. マスヤ
  2. 丸彦製菓
  3. 阿部幸製菓
  4. ブルボン
かたむき通信参照記事(K)
  1. 柿の種ピーナッツ紛争勃発(2012年9月20日)
参考URL(※)
  1. 切り餅特許侵害訴訟、佐藤食品工業の敗訴確定、最高裁(知財情報局:2012年9月21日:2019年7月6日現在記事削除確認)
  2. 「2010年食品マーケティング便覧 No.1」の抜粋:米菓(株式会社富士経済:2019年7月6日現在PDFファイル削除確認)
  3. 特許・実用新案/用語の解釈の争い。「のみ」か修飾語か? サトウの切り餅事件 (山口特許事務所:2014年9月30日)
  4. 2019年3月期 決算説明会資料(亀田製菓投資家向け公開情報:PDFファイル-5742.9KB:2019年5月20日)
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