複利計算構造を内蔵してCVP分析の改善を図るSCP分析で浮き上がらせたグルメ情報サイトの経営方針

飲食店の集客にも今やネットは欠かせないものとなり、 其の中で存在感を高めてきたのがグルメ情報サイトでした。 中にも先陣を告げた ぐるなび とパソコンのメモリなどの価格情報から飲食店にまで守備範囲を広げて来た 価格.com の提供する 食べログ が2強と言えるでしょう。

Restaurant photo credit by twicepix
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この2大グルメサイトの経営状況を会計的な分野から見たとき 現状両社がどのような方針で以て施策を実施しているのかを解説している記事が ダイヤモンド・オンラインの連載で公認会計士 高田直芳 氏に依る 大不況に克つサバイバル経営戦略 第104回、2013年3月8日の記事[※1] です。

高田氏の分析手法はかたむき通信にも絶好調の ファナック株式会社[K1] と不調極まる シャープ株式会社 及び ルネサスエレクトロニクス についての状況を鑑みるのに参照した処[K2] です。 此の電気機器メーカー分析した手法で以て今回再びグルメ情報サイトの現状を把握しようと言う訳です。

その分析手法は タカダ式操業度分析 、又は SCP分析Sales Cost and Profit Analysis) と呼ばれ、従来、売上、費用、利益の関係について通常実践される 損益分岐点分析 、又は CVP分析Cost Volume Profit Analysis) と呼ばれる手法に事実上致命的な欠点があるものとして代替案として高田氏の考案したものでした。 その要諦は固変分解に於いて1次関数に帰結せしめるCVP分析に対し、 自然対数の底eを用いた指数関数に帰結せしめようというものです。

CVP分析の問題点と複利構造を内蔵して解決を図ったSCP分析

右に有るのがCVP及びSCP分析グラフで横軸に示された売上に 固定費と変動費を併せた費用が示され、利益、損益分岐点などが把握出来るものですが、 青で示した直線が従来のCVP分析手法を示すものです。 処が此処に於いて実際に売上値をプロットして最小自乗法で直線を求めた時、 往々にして水色の如き直線が導出されてしまうと言うのでした。 今回ぐるなびに於いてその実際がダイヤモンドオンライン記事には記されるものです。

水色の直線の何が問題かと言えばこの直線が縦軸と交わる処、 売上が0の時の費用、即ち固定費が負の値を示すのにありました。 これでは何もしない方が儲かって仕方がない、と言う何とも不条理な結論が導き出されてしまいます。 実際ぐるなびに於いては固定費がマイナス82億円と示すのでした。

しかしこの水色の直線を導き出す同じ売上値からSCP分析を用いて導出される緑色の指数曲線では 固定費は確りとプラスの値を示します。 何となればSCP分析には複利計算構造が考慮されたものとなっており、 実務に於いては日々複利の連鎖の様相を呈し、 SCP分析の方が実際に近いものと考えられるからです。 CVP分析の1次直線は単利計算構造が反映されている結果なのでした。

SCP分析では恐ろしい事実が浮かび上がります。 グラフの対角を区切る黒い売上直線と交わっているのは2点、 従って売上が低ければ利益が出ないのは勿論ですが、 売上が高過ぎても利益を失ってしまうことになるのです。 そしてこの陥穽に嵌り込んでいるのがぐるなびであると高田氏は喝破するのでした。

ぐるなびは先行者としてグルメ情報サイトに揺ぎ無い地位を築いていた筈でした。 しかし何時の間にかネットに出自を持つIT企業の運営する食べログに詰め寄られてもいたのです。 追い着かれんとして売上向上を目指し社内に梃入れをしようとするのは人情でしょう。 しかし此処に収益構造の根本的な問題を見ないまま売上向上を目指せば やがてその売上は曲線と直線の2つ目の交点を越え、 従って利益は失われる処か赤字を招く、と言う寸法です。

此れに対処するには消極的には減収を目指します。 そして積極的には指数曲線自体を、例えばグラフ上の赤線のTO BEの如きものに変容せしめる必要があるのでした。 前者はダイヤモンドオンライン記事に其れを受け容れる度量の有無が問われています。 後者は収益構造の根本的な問題として相当の痛みを伴うものでしょう。 奇しくもダイヤモンドオンライン記事には分析結果からぐるなびは食べログに比較して 赤字決算転落への耐性が弱いものと考察されます。 これはぐるなびをグルメ情報サイトの盟主に押し上げた筈の広告での代行人の意味を持つ AEAccount Executive) なる営業スタッフが店に通い更に踏み込んだ販促プランを提案するという営業スタイル[※2] が今や仇となっているのかも知れません。 極く単純に考えればこのスタッフの増強は売上を上げもするでしょうが、 利益を圧迫するであろうのも容易に想像出来ます。

単利計算に基づくCVP分析では損益分岐点を越えさえすれば 利益は無尽蔵に増え続けるものとなる理屈ですが、直感的に奇妙な感じがあるのは否めません。 高田氏の手法SCP分析はこの点について上手く実際の感覚と符合しているように思えます。

CVP分析に於いても変動費の角度を誤れば利益の出ない収益構造はありますが、 SCP分析に於いても曲線のパラメータが狂えば売上直線との交点が生じない可能性もあり、それは利益を生まないことを意味します。 しかし企業としての利益を産ませる対応には自ずから異同を伴うものとなるでしょうから、 採用に当たっての誤謬は命取りともなり兼ねず、高田氏はぐるなびの其処を憂いてもいる訳です。 会計に於いては門外漢な向きにもしかし充分高田氏の説明は納得のいくものですし、 SCP分析が絶対の手法か如何かは兎も角も、この手法を導入すれば問題点の見えて来る企業も多いように思えるのです。

使用写真
  1. Restaurant( photo credit: twicepix via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. CVP分析への疑義とSCP分析に依るシャープ及びルネサスの改善方向性の示唆(2012年8月3日)
参考URL(※)
  1. ぐるなびの焦り。カカクコム「食べログ」を 迎え撃とうとして陥った増収「減」益のワナ(ダイヤモンド・オンライン:公認会計士・高田直芳~大不況に克つサバイバル経営戦略第104回:2013年3月8日)
  2. WebコンテンツビジネスNo.1サイトへの道(Acenumber Technical Issues:2009年3月29日)
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