第6次産業とは

小学校の社会科では今でも引き続き 第1次産業、第2次産業、第3次産業を教えていると思えば 屡今の教科書では教える内容が数十年前と様変わりしているのに驚かされる折柄 何やら嬉しくもあります。 今の教科書を見たでもないのにこの産業の分類についての教示内容を窺い知られるのは 近年流行の 第6次産業 なる地口的造語を聞く機会も増えたからでした。 或る農業経済学者が考案したというこの造語が地口的、と言うか頓智的であるのは 第1次産業+第2次産業+第3次産業=第6次産業 と単純に足した発想にあります。 この単純さが誰にでも直ぐ様その概要を理解させるに役立ち大いに世間で利用されているのでしょう。 即ち第1次産業従事者が後次の産業迄まとめて面倒を見る手法を称して 第6次産業と呼ぶのでした。 決して第4次、第5次と下流が続いた末の第6次ではない訳です。

宮城県石巻狐崎浜 photo credit by Google Map via Street View

あの東北大震災の瓦礫の山の中から立ち上がろうとするに当たり、第1次産業従事者が 便よすが とするには好適な概念であるのかも知れません。 人気テレビ番組 日経スペシャル・ガイアの夜明け の2013年3月5日放送分 復興への道シリーズ第15章・甦れ!三陸の水産業~漁師と企業の新たな挑戦~ に紹介された宮城県石巻市の3例の内、 2例迄が第6次産業化を目指すものだったのです。 其の内第1例ではその社名に迄 株式会社宮城県狐崎水産6次化販売 (2020年3月18日現在ドメイン停止確認)と6次の文字が盛り込まれているのでした。

宮城県石巻市牡鹿半島の西に位置する 狐崎浜きつねざきはま は凡そ30世帯が主に漁業を営み生計を営む小さな集落でしたが、 矢張り未曾有の大震災の影響は免れ得ませんでした。 2013年2月に至って漸く震災の年の6月に種付けした牡蠣が育ったのを水揚げすると これが震災後に初めてのものだと言います。 震災で浜の暮らしを支えていた牡蠣の養殖が壊滅状態となっていたのでした。 18人いた漁師の内、5人が廃業する憂き目を見ると言う状況に至っては 従来のただ只管獲れた牡蠣を剥いて漁協に卸すだけ、と言う手法は立ち行かなくなりました。 個人での再生は厳しい現実を目の当たりに仲間で協力する道が選ばれ、 互いに資本金を出し合い去年2012年に立ち上げた法人が漁師達の株式会社 狐崎水産6次化販売 だったのです。

全国グルメマップ 株式会社宮城県狐崎水産6次化販売

湊近くの古い民家に会社事務所が構えられ、 其処で練られた目論見は牡蠣養殖と漁協への卸と言った従来の遣り方からの脱皮でした。 其の時の考え方の主軸となったものこそ第6次産業でした。 自ら養殖した牡蠣で自ら商品を開発し消費者への直接販売に乗り出す、 と言う手法は脱皮を図る仲間達に取って最適のコンセンサスと成り得たのです。

メンバーの手元には 宮城県・牡鹿半島 狐崎浜産 牡蠣生産者産直ギフト と印刷されたチラシも映し出されました。 産直の2文字に6次化の意気込みが見て取れます。 近年実店舗を脅かしつつあるネットショップ[k1・2] や、電子書籍[k3] などと同様中間業者を中抜きして漁師は高値販売で収入増加をするにも関わらず 消費者は新鮮で割安な海産物を入手可能となる所謂Win-Winの関係が築かれるのを期待したのです。

そして目論みは当たり、ヒット商品が生まれました。 四角い銀の缶の中に牡蠣が15箇詰められていて3,150円で提供される 岬焼かき産直セット です。 このパッケージの面白いのは剥くためのナイフと軍手付きなのはさて置き 缶が其の儘蒸し器になることで、 水を缶に注いでコンロに掛ければものの10分足らずで蒸し上がってしまい、 蒸し上がった牡蠣の殻を付属のナイフで剥けばプリプリのはち切れんばかりの牡蠣の身が零れ出ます。 震災前はこのようなパッケージを考えることも無かったと言いますから 正しく狐崎浜の漁師には発想の大転換を伴うものであったのが分かります。 去年2012年の12月発売の此の商品は実に2ヶ月程で1,000セット以上が売れたそうで、 今では手軽で簡単な商品のアイデアを考えるのを重要な業務と捉え、 日々如何に消費者に喜ばれるか、どんな商品が受け入れられるのかに 頭を嬉しく悩ませている様子が伺えるのでした。

この好調に乗り更に付加価値を高めるために銀行から融資を受けて 大掛かりな設備投資も実施しました。 細かい泡を発生させ牡蠣の殻の中の中迄侵入し除菌可能とする マイクロバブル除菌装置 であり、2週間に1度専門機関に放射能検査を依頼するのは当地の例に漏れない事情でもあります。 供に消費者へ安心、安全を訴求するには欠かせない施策です。 加えて仙台市杜の市場にて漁師には不馴れな牡蠣の実演販売をするなど 地道に少しづつ販路を拡大して行ったのです。

しかし2013年2月末には問題も浮上しました。 売り上げが急落したのです。 岬焼かき産直セットも一時は1日50ケース売れたものの1桁まで落ちてしまいました。 従来第1次産業者としてのみ従事している際にはこの如き心配はなかったのでしたが 中抜きする以上、中にあった業者が引き受けていたこのリスクは自分で引き受けざるを得ません。 相場や在庫は自ら気にし、調整する必要があるのです。 実際上記の安心、安全の消費者の訴求も同じ理由であると言えます。 第6次産業化には以て肝に銘じるべきでしょう。

この事態を甘んじて受け入れているばかりにも行かず メンバーの一人は牡蠣の商品価値を高める切り札としての 牡蠣の耳吊り を開始しました。 此の手法では通常の密集した状態の養殖牡蠣と異なり間を空けて吊るす為、 牡蠣がプランクトンを良く食べ易くなり身入りが良くなるのですが、 養殖途中の牡蠣を取り出しその一つ一つの殻にボール盤で穴を穿ち紐に結び付けると言う 煩雑な手間が掛かるため余り行われない手法でもあったのです。

2週間耳吊りした牡蠣の身は剥いて見れば丸々と肥えて弾けそうで一目で効果があったのが分かります。 此の手間の掛った肉厚の牡蠣を手にメンバーは 地元飲食チェーンに売り込みを開始、値段交渉では 今は不本意ながらも普及を第一に考えて条件を呑むなど 一歩一歩着実に企業存続の為の販促を計るのでした。

代表者がいみじくも述懐するには直ぐに上手く行くとは思っていず、 孰れの成果を見込んで努力を継続する決意が感じられます。 今回人気テレビ番組で取り上げられてまた一時的に売上は向上するでしょう筈ですが それがやがて落ちるのは分かっている処でもあります。 振り返り見れば去年12月から今年1月に掛けてのの好調は 牡蠣の旬の時期的なものに加え猶、全国の被災地への善意も手伝ったかも知れません。 恐らくは一時的なイレギュラーに踊らされない企業体力の養成こそが問われるのでしょう、 安定した経営基盤を目指した地道な販路拡大の活動が望まれるのは 此れも恐らく被災地であるなしに関わらず第6次産業化にには欠かせない施策であるのです。

使用写真
  1. 宮城県石巻狐崎浜( photo credit: Google Map via Street View)
かたむき通信参照記事(K)
  1. 曲がり角の家電量販店~YKK戦争も今は昔、忍び寄るネットの影(2012年9月27日)
  2. ショールーミング現象は嘗て小規模家電小売店を駆逐した家電量販店の基本施策の安売り手法の新形態(2012年11月20日)
  3. 書店数の危機的減少を10年間及び自治体数との比較数値で見る(2012年8月18日)
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