CVP分析への疑義とSCP分析に依るシャープ及びルネサスの改善方向性の示唆

業績が落ち込めば上場企業としてその姿勢を云々されるのは致し方のない処、 グローバル採用を進めている筈のパナソニック社に 開始早々の2011年の就職組には創業家と中興の祖家の御曹司がコネ入社とは何事[※1] と痛くも無い腹を探られる様相を呈したりもします。

このパナソニック社と並びその赤字の凄まじさにかたむき通信にも取り上げたのが 嘗て日本電機メーカーの両雄として対立構図も鮮明なるも有機ELテレビで連携したソニー社です。 呉越同舟とも言える状況を招いたのが電機メーカーの本山とも言えるテレビ事業の不振と それに因る大幅な赤字[K1] でした。

そしてどうやら両者に於いては懸命の努力で構造転換を図り2012年3月期には赤字幅を縮小、 両者とも黒字化を達成し、パナソニックに至っては4~6月期決算も黒字化[※2] となりました。 これに対し同じくテレビを主力事業として展開して来たシャープは 相も変らぬ赤字額が1,000億円を越え、大幅リストラ[K2] を余儀なくされます。 此処に限られるものかどうかは未だ判然しませんが、 3社に明確に差異が発生しているのは確か[※3] です。

かたむき通信には億万長者を最も生んだ企業として ファナック社を取り上げましたが[K3] このファナック社とシャープ社、またその先行きが懸念されるルネサス社[K5] とを興味深い分析法で対比、比較している記事があります。 ルネサス社は上記電機メーカー3社と並び上げられるNEC社[K1] の経営にも影響を齎しかねない存在となっているのは かたむき通信にも取り上げた[K4] 処です。

その記事とはダイヤモンドオンラインが2012年8月3日に配信する ファナックには「あり」、シャープとルネサスエレクトロニクスには「ない」もの で、公認会計士の 高田直芳 氏の手になるオリジナル分析手法 タカダ式操業度分析SCP分析) が紹介され、好業績を挙げるファナック社とシャープ、ルネサス社を比較の上、 ファナック社が優位性を保つべき要因として保有する特性を上げています。

このSCP分析とは CVP分析 、即ち 損益分岐点分析 に疑義を発する処から出発しています。 損益分岐点分析はIPA(情報処理推進機構)の運営するIT国家資格の 最下位試験にも出題されるほど周知されている分析法ですが、 誰もが些か訝しく思うのは確かでしょう。 どうにも損益分岐点を算出するに1次直線を用いるのは 或る非常に限定された条件の下にしか成立し得ないような感が有り、 広く企業運営に用いて大丈夫なのだろうかと言う懸念が直感的に得られるのではないでしょうか。

高田氏は企業運営に於いてこれに1次的直線を適用するのが不適切であり、 なんとなれば企業運営は複利計算構造に準じるものであり、 1次的な単利計算構造では決してないからであると喝破します。 此処に於いて氏は実際の企業業績をプロットしたものから導き出されるのが 自然対数の底eを用いた複利曲線であるとします。

この曲線を元に描かれたグラフでは無限に商品を扱えば無限に儲かるものでなく 好適な分量を扱ってこそ儲けの出る 収益ゾーン が存在するとします。 恐ろしいのはビジネス形態を誤るとこのコスト曲線は決して売上高線と交わることなく 収益ゾーンが存在しない、即ち何を如何運営しようとも儲けの出ないものとなることです。 従来のCVP分析で見られるような売上高を上げていけば何時かは 損益分岐点を越えて儲けが出るというような能天気な姿勢は許されません。 経営陣はこのコスト曲線を出来るだけ右下に下げる、 即ち収益ゾーン及び 最大操業度売上高 巾を最大化するようにビジネス形態、企業体制を整えるのが仕事となるでしょう。

氏はこの分析法を以てしてファナック社とシャープ、ルネサスを比較します。 得られる結論では先ずシャープ社はファナック社の持つ 顧客創造力、即ち 需要 を持たないと致命的とも思える欠点を上げています。 グラフで言えば実績のプロットが収益ゾーンの最下辺に密集し 一向に上向かないでいる状態です。

次にルネサス社はファナック社の持つ 価格決定力 を持たないとします。 実績グラフを見ればコスト曲線は最悪の売上高線と交わらない状態にあり、 ルネサスは母体3社、三菱、日立、NECとの関係性に於いて 主導権をまるで発揮出来ない立場を如実に表しているとも言えるのです。 ルネサス社は自らの苦心してリストラ策を示し3社のお伺いを立てずとも この分析を以て3社に支援を迫っても良いのではないかと思えるような分析結果が出ています。

分析結果から得られるシャープ社及びルネサス社の状態を見た際に 実にかたむき通信記事にも見てきた症状が巧く説明出来るように思います。 これからは余り実務を表現しているとは言えないCVP分析から 高田氏の提唱するSCP分析へと経営分析も移行して行くのではないでしょうか。

かたむき通信本記事関連記事(K)
  1. 有機ELテレビ事業提携交渉~追い詰められたパナソニックとソニー呉越同舟(2012年5月15日)
  2. シャープ残酷物語~免れ得ない大幅人員削減(2012年7月24日)
  3. 億万長者14人輩出ファナック製品はギター制作者にも高いブランド力で不景気下でも絶好調(2012年7月21日)
  4. ルネサスがNECを道連れにしかねない模様(2012年7月17日)
  5. ルネサス社7月3日発表のリストラ策が巻き起こす波紋(2012年7月5日)
参考URL(※)
  1. 社員も知らないパナソニック-1 創業4代目がぶつかる“国内弁慶企業”の壁(My News Japan:2012年7月14日)
  2. パナソニックの4-6月期、最終益128億円に“V字回復”(MSN産経ニュース:2012年7月31日:2019年8月25日現在記事削除確認)
  3. パナソニック・ソニー・シャープ、業績回復速度に差(日経新聞:2012年8月3日)

追記(2013年3月9日)

グルメ情報サイトの経営状況分析をSCP分析法を以て実践しているダイヤモンドオンラインの記事を受けて 複利計算構造を内蔵してCVP分析の改善を図るSCP分析で浮き上がらせたグルメ情報サイトの経営方針 を配信、CVP分析とSCP分析について更に言及する処です。

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