毎日の献立に悩むお母さん達ばかりか、 最近では厨房に入る男子の強い味方となっているのが日本最大のお料理レシピサイト クックパッド でしょう。 かたむき通信にも グルメ 系の記事を書くときには重宝させて貰っています。
インターネットでビジネスなどと宣はれる主婦の方でクックパッドを知らない、 などと言う場面に出くわした際には、あら、勿体無いなどと老婆心ながらも Acenumber Technical Issues ブログの2011年6月11日記事 インターネットから一歩退いてみよう―クックパッド にあるようなお節介を焼いてしまったりもさせる秀逸サイトでもありました。
このクックバッドが実に高い営業利益率を上げていると、その好調を知らせてくれるのは PRESIDENT 2012年 7.16号 掲載の記事でヤフーにも2012年6月29日に配信されている なぜクックパッドの営業利益率は50%なのか (ヤフーの当該記事は2019年6月10日現在、既に削除されていますので、 プレジデントオンラインに2013年12月11日に配信された記事、 なぜクックパッドの営業利益率は50%なのか に新たにリンクを貼り置きます。) です。
記事タイトルにもあるようにその売上高営業利益率を見れば 2011年4月期は49.8%。12年4月期は46.8%と驚きの数字を示しています。
Acenumber Technical Issues ブログの2011年10月29日記事 アップル社の驚異的な粗利を見る、iPadは4割、iPhoneは何と7割! にはアップル社は特異な製造業ですから比較すべき範疇のものか分かりませんが 参照すれば製品毎の粗利が示されており実に高いものとなっています。
高い利益率は即ち当該企業が社会に高い付加価値を持つ証明の様なものであるでしょう。 因みに上場企業の営業利益率の平均値は4~5%であるそうです。
この高い売上高営業利益率の要因を記事では以下の様に3つ挙げています。
1番目の限界利益率の高さはWebサービス提供者の目論見の一つとなる処ですし、 3番目のプロモーション費用を掛けず口コミで会員を増やしていく手法もWebでは常套手段です。 しかし只の利用者から2番目の有料会員への転換は並大抵ではありません。 通常これが上手く運ばないためWebサービスではついついその収益を広告に頼らざるを得ません。 更には退会率は3%程度と言うのも驚きで、 余程顧客満足度か高いと思われ、これが高利益率に繋がらない訳がありません。
有料会員の会費は月額294円となっていてそれほど高価なものには感じられません。 これも退会率の低さに繋がるのだと思います。 しかし月の利用者が1,500万人でありその5%が有料会員であるとすれば75万人、 これに月会費を掛ければ月の会費収益は2億2千50万円になる計算です。 これに限界利益率の高さを鑑みればその好調振りが伺えようというものです。
プレジデントオンラインではこの記事に先立つこと1年程前の 2011年8月15日号 でも 営業利益率50%!クックパッドの「7つの秘密」 と特集を組んでいます。 7つの秘密として以下が挙げられています。
- 品開発のアイデア創造段階ではなく商品使用における消費者の知識創造に焦点を当てている
- 新規の製品創造より既存製品に手を加えない用途革新に焦点を当てている
- 使用場面の革新を通じて目指しているのが、交換価値(販売価格)の向上ではなく使用価値の向上である
- 料理専門家ではない素人による知識創造を重視し、さらにそれを意識的に可視化しようとしている
- 消費者に対する姿勢はオープンである
- 消費者へのアプローチは特定少数志向ではなく不特定多数志向となっている
- 消費者を投稿者、積極的模倣者、単なる閲覧者のように三層構造で理解し、知識創造(アイデアの投稿)とプロモーション(アイデアの閲覧と利用者間の口コミ)を統合している
これらの特徴を以てしてクックパッドは 消費者によるイノベーションと当該イノベーションのプロモーションを統合し、 この民主的プロセスを通じた当該商品に対するイノベーションと それに対する需要の拡大再生産を実現させていると記事は分析しています。 消費者が同時にレシピ考案者、即ち付加価値創造者となってまた消費者を招く、 正のスパイラルが築かれていると捉えれば好いのでしょう。
経営者に圧倒的な指示を受けるプレジデントにしてこのように頻繁に特集を組ましめ、 此処迄謂わしめるとは、クックパッドの快進撃はまだまだ続きそうです。
追記(2020年6月10日)
本記事に何時迄も栄華を極めるかに紹介したクックパッドでしたが、 記事配信後数年は其の儘成長を続けたものの、2016年に売上収益168億円と言うピークを迎えてからは芳しい情報が聞こえて来ません。 其れ処か、凋落の二文字をも伝える記事などが配信される処となっています。 去年2019年夏の盛りには Business Insider Japan[※1] が、2019年1〜6月期の連結決算から、 そして、つい数日前には Business Journal[※2] が、2019年12月期の連結決算から、 当該社の苦境とも言える状況を読み取り報として齎しています。 近年の情報としては今年2020年2月14日に配信される 起業ログ[※3] の記事が良くまとまっていますし、 勿論当該社自信が配信する IRニュース[※4] も一次情報として有用でしょう。
一体、当該社は2016年をピークに売上収益も営業利益も急下降し二桁ものマイナス成長となっており、 プレミアム会員数こそ横這いのものの、 利用者数はピーク時に6,400万人に達した時点からは1,000万人もの減少を招いてしまっています。 本記事の肝としては当該社の五割超と言う驚くべき営業利益率がありましたが、 其方がどう推移しているかと言えば、 株式会社ストレイナー の齎す情報[※5] に拠れば、2018年には14%と往時の見る影もなく、 2019年、遂には2.6%と上場企業の営業利益率の平均値を下回ってしまっています。
如何に此の状況が招かれたかと言えば、 前述の記事等、又はマネーポストに実際の会員の声の聞かれる記事[※6] 等、有り、其れ等各情報を鑑みるに以下三つが挙げられそうです。
2008年登場のiPhoneを嚆矢とするスマートフォンは世情に大変革を齎しました。 総務省の情報 に拠れば今や個人に於けるスマートフォンの保有率は64.7%[※7] と高い数値を示しています。 此の対応にサービスが乗り遅れると顕著な利用減退が示されるのは、 近年では一時隆盛を誇ったものの、今は オワコン と揶揄される ニコニコ動画 にも言われる処です。 此のニコニコ動画の猛攻を退けて動画サービスの主役たる存在感を示し続けているのが YouTube であるのは言わずもがなでしょう。 此れに動画を配信する ユーチューバー は今では子供達の憧れの的として将来なりたい職業の首位の座を占めてもいます。 こうした状況下、レシピサイトに於いて此の動画コンテンツの充実が図られないのは、最早致命的と言って良いかも知れません。 そして此のスマホ対応、動画コンテンツの充実を以て当該社を脅かしている新興の競合が、数日前の Business Journal の記事にも挙げられる、料理レシピ動画サービスの クラシル であり、 DELISH KITCHEN であったのでした。
本記事配信時にはまさか8年後に正反対の状況を追記として配信するとは思いもよりませんでしたが、 クックパッドには営業利益率が娑羅双樹の花の色とならぬ様、奮起を期待したくあります。
参考URL(※)- クックパッド、1〜6月期は営業利益7割減。国内利用者「3年間で1000万人減」の正念場(Business Insider Japan:2019年8月13日)
- クックパッドの凋落、利用者1千万人減で赤字転落…人気のクラシルと真逆の方向(Business Journal:2020年6月8日)
- クックパッド株式会社の決算/売上/経常利益を調べ、IR情報を徹底調査(起業ログ:2020年2月14日)
- IRニュース(クックパッド株式会社)
- クックパッドの業績推移(Strainer)
- 「クックパッド離れ」に歯止めはかかるか かつての愛好者たちの本音(マネーポストWEB:2019年9月26日)
- 情報通信機器の保有状況(総務省令和元年版情報通信白書)