5代目の生産期間は既に前世紀となった1988年から1993年に掛けての足掛け5年でした。
日産のシルビアでその型式はS13型です。
このシルビアで初めて現物を目にしたのが
自動車の運転中にはなかなか操作の多いもので、 ウインカーやワイパーなんぞは見なくても操作出来る位置に用意されていますが、 空調や音響機器だったりすれば自動車の歴史的にはごくごく後付のもので 視線を動かさないでは操作出来るようには基本的に出来ていません。 またなるべく視線を動かさずに済むようにハンドルの隙間から 運転手の正面に覘けるようになっているとは言え 多少は視線を落とさねばならないものです。
自動車なんぞと謂う文明の利器はちょっとした間に驚くほど進んでしまいますから この視線の移動は決して褒められる類のもんじゃありません。 下手をすれば車をぶつけてしまいますしそれがただ己の困るだけなら未だしも、 他人様を巻き込んではえらいことになってしまいます。 出来るならいつ何時でも運転手には進行方向を見ていて欲しいものです。 こんな願いを適えるべく開発されたのがHUD、 即ち頭を上げたまま見られる画面、でした。 勿論この画面は透明で先が見通せるもので、 此処になるたけ邪魔にならないように情報が表示されるのでした。
この技術は最初に軍事航空分野で開発されたものとされます。 なるほど飛行機となればその速度は自動車の比ではありませんし軍用機ともなれば尚更でしょう。 この有用な技術は様々な分野に応用されその一つが自動車であるのです。 そして日産から優雅なスタイルを与えられて登場したシルビアに搭載されたのでした。 フロントウインドウの右下隅に緑色に車速が浮かび上がるように表示されていた記憶があります。
そしてこの度 株式会社デンソー からHUD新開発の旨、公式発表がありました。 2012年10月19日付けでプレスリリース[※1] も配信されています。 これによれば今回開発されたのは自動車用としては世界最大の表示サイズであり、 TFT液晶を使用したものとされています。
デンソーはトヨタ開発部門を前身母胎とする企業ですので現在もトヨタグループではありますが、 現在は広く自動車メーカーに自社製品を供給している自動車部品メーカーです。 その事業内容からすればHUDを1991年以来生産しているのも宜成る哉というものでしょう。 二昔以前より携わっている勘定ですから従ってかなりのノウハウも蓄積されている訳で、 今回の開発に於いても運転手の妨げとならないような各種表示の位置、色調が考慮され、 また強い太陽光下にあっても見易くあるためにディスプレイの輝度を従来比で約2倍とするなどの 改善もなされていると報告されています。
更には今回の開発にはもう一つの特徴があります。 デンソー社プレスリリースに配信されるHUDの表示イメージ2点が 下に左右に並べて示す図になります。
この表示イメージ図を見れば一言で謂えば AR化が図られている として良いのではないでしょうか。 ARとは Augmented Reality の略で日本語では一般に 拡張現実 と言い表されます。 カメラ機能で近景を映し出したディスプレイ上に、 映し出した地点の関連情報を重ね合わせて表示する技術で、 例えば架空の生物など重ね表示すれば宛もその場にその生き物が生きている感覚が味わえるものです。 スマートフォンではARアプリとして セカイカメラ が一世を風靡しましたからご存知の方も多いでしょう。
デンソー社ではARと謳ってはいませんがプレスリリースにある以下記述を見れば、それはARそのものです。 運転手には至って直感的に情報が把握出来ることになる寸法です。
前世紀の日産シルビアで既に実現されていた自動車の走行スピードは勿論 その他道路の制限速度などの基本的情報の表示に加えて この大型の表示画面に於けるAR化された情報表示では 運転手は情報把握が相当楽になり、 延いては余所見事故などの減少が期待されます。 またカーナビも根本的に変わるだろうことは容易に予測が付くものです。
恐らく現時点でも既に量産は可能なのでしょうが、 コストダウンが図られねばならないのは勿論、 自動車メーカーの設計との連絡が必須となるでしょうから、 吾人の下に現実の製品となってお目見えするのは少し先となりそうです。 デンソー社ではその製品化の時期を2015年頃に予定するものとしています。
参考URL(※)- デンソー、大画面ヘッドアップディスプレイを開発 ~自動車用としては世界最大の表示サイズ、2015年頃の製品化を予定~(デンソー:2012年10月19日)