ライステラスに着想したミュージアム農業『里山ビジネス』書評

ライステラス の発想にヒントを得た ミュージアム農業 の実践、 これこそが著者の里山ビジネスの骨子となるのでしょう。 著者は著述業を本分とする 玉村豊男 氏、その著す処の 里山ビジネス(集英社新書) (以下、本書)にそれは書かれています。

ライステラスとはタイ国の古都チェンマイ郊外のリゾートホテルの取る手法です。 大規模農園を保有する同ホテルの窓の外には 僅かな勾配のある盆地に見渡す限り連なる幾つもの水田です。 畦は緩やかな曲線が美しい模様を形作り、 田んぼでは水牛が水浴びをしています。 円錐形の藁帽子に粗衣痩身の老人がゆったりと農作業の合間にキセルを加え、 そのまた向こうの遠くには草取りをしていると思しき民族衣装も艶やかな女性たちが見えます。 この同ホテルの演出なるや否やは知らぬ景色の見えるライステラスビューを持つ部屋は、 通常山のホテルが売り物とする美しい山並みを見られる マウンテンビューを持つ部屋の料金より高く設定されているのでした。

ミュージアム農業とは出荷はせずその場で消費すると同時に来場者に見て楽しんで貰う、 料理に出た野菜を畑に見つけそれがどんな植物なのかを感じて楽しんで貰う、 このような農業の在り方を筆者が呼ぶものです。

本書は以下の如く5章立てで構成されています。

  1. 素人商売事始め
  2. ワイナリーを起業する
  3. 里山のビジネスモデル
  4. 拡大しないで持続する
  5. グローバル化は怖くない

里山ビジネスをタイトルに謳うも 筆者は固より里山ビジネスなるものを狙い起業したのではありませんでした。 その目的は明確ながらも目的達成のために赤字を出さないように留意しながら ことを推し進めた結果がメディアも注目する所謂ビジネスモデルとなり、 応答の便宜のためにそれを敢えて名付けて里山ビジネスと呼んでいるだけだったのです。

筆者が目的として求めたのは ワイナリー でした。 ワインのある食卓では、お酒を飲める飲めないに関わらず 集った人々が笑い、語り、楽しい時間を過ごします。 筆者はこの景色を少しから遠くから眺めることにこと喜びを覚えるのでした。 この目的の実現のために様々な問題を成り行きとも言える中に解決して行くに従い、 それは次第に幾つもの自治体各行政から視察依頼も相次ぐ成功ビジネスの形態を成していたのです。 テラスハウスに着想を得てそれを頭の隅に置いた改善は次第に ミュージアム農業の形をなし、所謂 タンクロ 、単年度黒字も達成する里山ビジネスとなったのです。

筆者が里山ビジネスに手を染めたのもどうやら 本業とする著述業に於いて憤懣遣る方無いものを感じたからのようです。 編集現場はいつの間にやら面白い企画を練るよりマーケティングが優先され、 企画会議がターゲティングだの広告訴求力だのコスト計算に蚕食されるに及んで 余程腹に据えかねたのだろう書きっ振りに憤りの強さが感じられます。 里山ビジネスに於いて成功の確率を考えたとき、 それはコンテンツが先か、利益計算が先かを考えずに済む 熱意が勝った時に最も高くなるだろう、と自らの成功体験を同時に振り返るものでもあります。

その思考は里山ビジネスの根拠地選びにも活かされました。 それは命名 Villa d'Estヴィラデスト に表れています。 Villaヴィラとは農園主館を指し、筆者に於いては拠点を意味します。 d'EstデストEstエスト に接続詞「d」の付随したもので エストとは英語のBe動詞です。 ヴィラデストと括れば 拠点はここだ の意となり筆者はこの場所を見つけたときに思わず ここだ、ここしかない、ここに決めた! と口にし、そのまま命名とされたのでした。

ヴィラデスト  大きな地図で見る

「ここ」とは 長野県東御市和とうみしかのう 6027、 かたむき通信には 『真田一族』書評1書評2書評3書評4 で扱った信州上田の程近くなのでした。 地図を右に示しましょう。 此処にこそ筆者の思いの詰まった ワイナリーとカフェ、ガーデンなど有するヴィラデストが在るのです。

以上の里山ビジネスの骨子は第3章に構成されるものです。 第3章を里山のビジネスモデルと題目付けたのも本書のタイトルと符合する、 中心となる部分であることを物語るものです。 そして本書はこの3章を中心に第1章、第2章でヴィラデストを実現させるに至った 経緯や具体的手法が書かれ、第4章、第5章に自らの築き上げた里山ビジネスの視点から 農業、観光に付いて物申す構成となっています。

農業のブランド化など喧しく言われますがそれ等の人が 筆者の言う処の地産地消と併せ考えるながら読めばなかなか耳の痛いものかも知れません。 その延長線上には小さな観光があります。 第1次産業は其処に一度訪れた人には魅力的な観光地となり得る、とするものです。 その思考は一貫したもので里山ビジネスは持続にこそ意義があり、 そのためには拡大は許されないと結論付けます。 古来人々が連綿と醸成し受け継いで来た里山の知恵とは 森と人との境界線を探り、周囲の自然と折り合いをつけながら暮らすための知恵でした。 拡大は工業的な考え方であり、持続は農業的考え方であるとするものです。

最終章第5章に至り少々説教染みた感もあるのは 警鐘を鳴らすべくした勢いでしょうし、 IT化を散々当該章に腐しておきながらホームページ ヴィラデスト を用意、活用するのは先ずはご愛嬌でしょう。 本書を読んだ人は高い確率で当地を訪れたくなるのかも知れません。 ホームページには抜かりなく予約状況なども確認出来るようになっています。

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