その倒産は現在のゴルフ場経営の在り方をそのまま表しているかのようでした。 名門ゴルフ場として名高い 株式会社太平洋クラブ の倒産です。 同社は資本金40億円、昭和46年5月20日に設立されゴルフ場、ホテルの運営を主事業とする企業です。 一時は米国の名門ゴルフ場を運営するぺブルビーチ社を買収、所有するなど 国内外に其の名を馳せましたが、 今年2012年1月には経営破綻が発覚していました。
同社は2012年1月23日に東京地裁へ関連会社6社と共に民事再生法の適用を申請していました。 様々な問題を抱える中で 株式会社アコーディア・ゴルフ とのスポンサー契約が整ったのを鑑み同措置が成立していたのです。 しかし2012年7月に再生計画案を東京地裁に提出するものの、 これに対しアコーディアの介入と同社経営に不信感を持つ一部会員が反対すると同時に 9月末に会社更生法を申し立て、10月3日になり東京地裁から再生手続き廃止決定を受けたと同時に、 会社更生手続きが認められ同社に保全管理命令が下されたのです。
会員側の勝利とも言える東京地裁の決定に対しては 同社はホームページ上に同日付けでプレスリリース 更生手続開始の申立てに関するお詫びとお知らせ (2019年11月7日現在記事削除確認)を配信、些かいざこざを内包し引っ掛かる感じもありますが、 粛々と受け入れざるを得ない状況を垣間見せる内容であるでしょう。 これに拠り同社及び関連会社はアコーディアとの契約を終了、 会員主導を経営再建を目指すこととなりました。 民事再生法の適用を申請した時点での負債総額は約1,100億円とされています。
ゴルフ場経営に関してはバブル景気が大きな影響を与えたようです。 其れ迄はゴルフはなかなか庶民の手を出せるスポーツではなく、 今で言うセレブの社交場の如き様相を呈していたのですが、 バブル華やかなりし時代となっては猫も杓子も其の場に立ち入ることを望んだのでした。
土地は高騰して転がされ、株価は高騰して素人が儲け自慢を競いました。 同じ様に投資対象とされたゴルフ会員権は飛ぶように売れたのでした。 従ってゴルフ場の立ち上げが相次ぐ状況となります。 ゴルフ場を作りさえすれば誰でもが儲けられる時代だったのです。 しかしこれが今となっては仇となりました。
ゴルフ場は如何にもその競技人口に比して増え過ぎたのは勿論、 経営も勢い散漫にならざるを得ませんでした。 そしてバブル景気もすっかり過ぎ去っては経営も思わしくなく 近年の不況の継続遂にゴルフ場経営の倒産は相次ぎ、 帝国データバンクや東京商工リサーチに配信される大型倒産速報に於いて 今年2012年を最初から見るだけでも驚く多さとなっています。 以下に列挙してみましょう。
これに札幌コース、軽井沢コース、御殿場コースなどのゴルフ場を擁する 業界大手の今回の太平洋クラブが加わることになる訳で、 負債総額が数十億にもなる企業が同じ業界内でこれだけ倒産となれば、 その業界の状態が思い遣られると言うものです。
施設運営としてのゴルフ場業界の状況[※1] を見てみれば確かに近年女子ゴルフの興隆や男子ゴルフでは石川遼選手のようなスター選手の登場で 一時ブームのような盛り上がりを見せはしますが、 総体的にはゴルフ人口は減少にあるのに連れ業界としての縮小は已むを得ないと考えられています。 1975年から2000年以降に減少に転じるまで上昇を続けてきた全国のゴルフ場数も 穿ってみればバブル期の幻想から抱かれる勢いに流されたのではないかとも思えます。 1900年代には過剰供給に陥っていたのではないでしょうか。
今バブル期に設立された、若しくはそれ以前の設立でもバブルに踊らされた ゴルフ場はそのツケを払い切れなくなり倒産が相次ぐ状況と言っていいでしょう。 即ちバブル期に夢見た余韻に因る経営の放漫さ、甘さが否めない訳です。 経営をスリム化しなければ生き残れないのは勿論、 増え過ぎたゴルフ場は飽和状態では或る程度の淘汰は致し方ないのかも知れません。 しかし一度身についた贅肉を落とすのは並大抵ではありません。
その二進も三進も行かない日本のゴルフ場業界に今、 狙いを付けて大いに躍進しているのが上記した 米国資本のゴールドマン・サックス傘下にあるアコーディア・ゴルフであり、 またローンスター傘下にある PGMホールディングス株式会社 なのでした。 経営の行き詰ったゴルフ場はこのような厳しい外資に買い叩かれている感があるのです。
其処に今回の名門太平洋クラブではこの状況を善しとしない会員から待ったが掛かっているのでした。 真に以て今回の太平洋クラブの一件はゴルフ場経営と業界の縮図のような事案でありました。
追記(2012年10月24日)
株式会社太陽カントリークラブが2012年10月24日、東京地裁から破産開始決定を受けました。 2011年8月末時点での負債総額は約52億円でその内にも預託金が約35億円を占めています。 ゴルフ人口の減少で集客が低迷したのに加え2009年にこの預託金約40億円の 分割返還が開始されたために資金繰りは逼迫する状況となっていました。 遂には地代の未払いも重なり地権者から2012年9月7日に破産を申し立てられており 今回の仕儀と相成ったのでした。 運営していたのは1970年同社設立の翌年に完成のなった静岡県駿東郡小山町の 会員制のゴルフ場太陽カントリークラブで3コース27ホールを擁しています。 今後に付いてはスポンサーを探し出して裁判所の許可を得た上で 事業を継続する予定であると言います。
追記(2013年1月8日)
淘汰の進む中に上の株式会社太陽カントリークラブ以降のゴルフ場経営企業の倒産案件を 苦境のゴルフ場経営に襲い掛かる市場原理 にまとめ配信しました。
参考URL(※)- ゴルフ場業界(施設運営)(業界サーチ.com)