新潟県長岡市から群馬県、埼玉県を経由し東京都練馬区へ至る 関越自動車高速道路 が全線開通したのは昭和60年（1985年）10月2日のことでした。 その前年1984年よりこの高速道をビジネスの利用せんと目論見実践していた企業こそ 角上魚類株式会社 でした。
代々、鮮魚の卸売業を営んできた角上魚類では 高度経済成長下に台頭したスーパーマーケットの影響で ジリ貧となってしまった取引先の鮮魚小売業が次々と店を畳むのに伴い業績悪化、 一か八かの小売業への転進を1974年に図り、それは大成功しました。 卸売り値段で小売すればスーパーに価格競争面に劣らないのは自明の理、 問題の数を捌くに当たっても対面販売や仕入れ工夫、店長裁量の拡大などの 独自のノウハウを築き上げ解決し鮮魚に特化した小売事業が一般顧客に受け入れられたのです。
鮮魚に特化した業態は破竹の勢いのスーパーにも真似できないものでした。 角上魚類ではその業態を更に先鋭化するために 従業員たちは高級割烹の調理人並みの包丁捌きを身に付けるべく日々精進してもいます。 扱う魚種も太平洋側に比較して多彩な日本海側のそれに 戸惑う顧客に対面販売員が豊富な知識で以て応えます。 店長裁量では店内の売行きに応じて鮮魚は手を変え品を変え 姿盛りにされたり煮付けにされたり姿を変えて客の手に渡って行きます。 以てして定番の売れ筋商品に縛られない、 其の日水揚げされた魚群に応じた廉価で大量の仕入れが可能になるのです。
驚くべきはこのビジネスフローにスーパーでは廃棄率が6％とされる中、 角上魚類では小数点代に抑えられているのです。 角上魚類がフランチャイズ展開した折には廃棄を惜しむ余り 鮮度の劣る商品を棚に並べた直営店ならぬ店舗は 契約が切れて数年の内に店仕舞いを余儀なくされたのも以て銘記すべきでしょう。 斯くして新鮮で美味くて廉い魚は一般顧客の手に渡るのでした。
日本人の魚離れが叫ばれ、また宿敵スーパーマーケットもその業態が萎む中に、 角上魚類は以上の強みを以て年々業績を伸ばしているのでした。 それには新潟に水揚げされた日本海の鮮魚の関東、首都圏での小売展開の成功も寄与します。 今や角上魚類はロードサイドに22店舗を数える迄になり、 新店舗がオープンするや否や客の押し寄せる信頼されるブランドともなっています。 その嚆矢が関越道開通に当たって挑戦した高崎店の展開でした。
元来群馬県高崎市では鮮魚の食習慣は有り得ませんでした。 海から遠く隔たった内陸部に鮮魚が食卓に上りようもなかったからです。 それは京都にも同じことが言え、かたむき通信にも 鱧が如何に千年の都に珍重されたかものした処[K1] です。 しかし一度鮮魚が適正な方法で齎されれば舌鼓を打たざるを得ないのは論を俟ちません。 而して角上魚類は高崎市民に大いに受け入れられ、 角上魚類も首都圏へ向け業務拡大を図る大きな一歩を踏み出すのに成功したのでした。
角上魚類が高崎に出店した1984年より徐々に海産物が高崎市民の食卓に上る頻度は上がりました。 日本人の食卓に魚料理の見える頻度が下がる中にも関わらず、 この状況が出来するのは何某か学ぶべき事象を内包するものでしょう。 この現象を以て歓迎した高崎市からは感謝の意を以て 角上魚類を表彰に遇したと言うことです。
卸売業から小売業への転進は卸売業者の目の前に、 また関越自動車道の開通は全ての商売人の目の前に広がっていました。 ともすれば両社は商売に於いて危機にも捕らえられる事態です。 しかし角上魚類はこれ等を好機と捉え、乗じ成功しました。 のみならず古代より連綿と続いた内陸部の人々の食生活をも一変せしめたのでした。
追記（2013年2月21日）
高崎市の冷凍関連業ベンチャー企業及び流通と食生活の関連に関する 冷凍技術の進歩が食卓を変える～セコムの食とマーズカンパニー を配信しました。
使用写真- 今日の夕飯:ノドグロの一夜干し。白身なのにあぶらが乗ってて、塩加減も絶妙で実にお いしい。（ photo credit: kei51 via Flickr cc：2020年1月12日現在ファイル削除確認）
- 鱧料理と京都水族館（2012年3月14日）
