歴史

甲着装人骨の群馬県渋川市金井東裏遺跡に於ける本邦初発掘

The Beatles（ビートルズ） の最高傑作と名高い Sgt. Pepper's（サージェント・ペパーズ・） Lonely Hearts（ロンリー・ハーツ・） Club Band（クラブ・バンド） はミリタリーファッションを身に纏っていますし、永遠のギターヒーローの Jimi Hendrix（ジミヘン） も好んで着用した傾向が見られ、ダンディズムの発露たるファッションの代表格 トレンチコートは元々は軍用コート[K1] でした。 斯くも軍装は男心を擽るものでもあるようです。

財団法人群馬県埋蔵文化財調査事業団|発掘情報館2012年12月10日付けプレスリリースより

船津3D工房サイトではその軍装を古代から現代に渡り コンピュータグラフィックに再現、公開してくれていますが、 調査、研究をすると直ぐに資料の不足が発覚した[※1] と言います。 実際古い時代のものは現物も少なく映画や漫画などには かなりオリジナリティーが導入される現状でもある様です。

そんな状況下に今回新たに齎された発見は大きな一石を投じ 一級史料とされることになりそうです。 その発見とは榛名山二ッ岳火山灰層の下に見付けられた 甲（よろい） を着装した人骨です。 発見されたのは国道建設に当たって 公益財団法人 群馬県埋蔵文化財調査事業団 が金井東裏遺跡に発掘調査を実施していた際、昨日の2012年12月10日のことでした。

遺跡近傍には榛名山が聳え古墳時代の噴火は既に研究されており、 その数回の噴火の孰れかに於いて火砕流に被災した人物のものではないかと推測されています。 このような実際に古墳時代の軍装を着用した遺骨の発掘は極めて稀で 当時の軍備や災害の様子を推し量るのに実に有用な資料となるのは論を俟ちません。

この発見の貴重性を鑑み公に展示されることを当該事業団は決定しました。 迅速なこの決定は評価されるべきものだと思います。 しかし発見状況からも用意に推測されるように発見資料は 孰れ極めて脆い状態であるため公開の期間は1日に限定されます。 それが明日2012年12月12日の午前10時から午後3時までとなっています。 詳しくは当該事業団のプレスリリース[※2] に明らかですが、此処にも念のため記し置きます。

  • 公開日時：平成24年12月12日（水）午前10時～午後3時まで
  • 公開場所：金井東裏遺跡（渋川市金井1827-1）
  • 連絡先1：群馬県埋蔵文化財調査事業団調査部 電話0279-52-2511
  • 連絡先2：金井東裏遺跡調査事務所 電話0279-23-8523

研究者などには有り難い機会でしょうし、 公開された資料情報のシェアもこの分であれば孰れネット上になされるでしょう。 これで映画や漫画の描写も、更には船津3D工房サイトの古墳・飛鳥時代の項目も 少し或いは大幅な変更がなされることになるのかも知れません。

追記（2020年1月2日）

本記事に紹介した処の 金井東裏遺跡説明会が予定通り2012年12月12日に実施され、 甲着装人骨の取り上げ及び移送前、即ち1500年の時を超えて土から半身を露わにした状態が、 生々しくも参加者には公開、肉眼で確認出来たのでした。 その様子は2013年3月28日付け発行の 埋文群馬 vol.57 に記載されています。 甲着装人骨は翌13日、翌々14日丸々二日を掛けて慎重にウレタン梱包され、 1.8トンにも及ぶ遺物は発掘された金井東裏遺跡から渋川市北橘町の群馬県埋蔵文化財調査センターへと無事移送され研究の俎上に乗せられたのでした。 斯くして得られた研究の成果が群馬県埋蔵文化財調査事業団から順次、PDFファイルにしてインターネット上に公開されていますので、 下に上から公開順に箇条書きにしてリンクを貼り置きますので、 興味を抱かれた向きには開かれるが宜しいでしょう。

以上の公開研究成果を閲すれば、 甲着装人骨の埋没せしめたのは6世紀初頭の榛名山の噴火にて、 近畿中央では画期継体王朝が古代の特筆すべき欽明大王に引き継がれんとする頃、 大和朝廷の勢いが弥益、正しく古墳時代の最末期に当たります。 此の時、地方に於いて、軍事的な状況が何うあったのか、 考古学的な実証を以て研究の縁とされるものと期待されます。

研究成果からは、直接的に古墳時代末期の甲の実装が知られます。 甲は 小札甲（こざねよろい） なる形式で4、5世紀に主流であった大振りの鉄板何十枚かを革紐や鉄鋲で繋ぎ合わせる 短甲（たんこう） から進化した、小札と呼ぶ小さい鉄板を千枚近く革紐や組紐で繋ぐ造りで、 従って可動性が向上し、武具として大幅な改善が図られた形式であるのが、 副葬品の研究から明らかになっている事象に鑑み知られます。 最先端技術を必要とする形式の武具が中央近畿とほぼ同時期に、 遠く離れた関東で実際に着用される実用品として用いられていたのは注目すべきでしょう。

本事案が本邦初の甲着装状態での発掘であったのは、 勿論、榛名山噴火の火山灰に埋没したからでしたが、 他にも貴重な鉄製品であれば、例えば時代が一気に下って戦国時代に至るも、 戦装束の両者間に勝敗が決すれば敗者の鉄製品は軒並み身包み剥がされるのでしたから、古代にあれば猶更、着用の儘の埋没しての意図せぬ保存は有り得なくもあったからでした。 しかも支配者層にのみ許されるべき中央近畿と同様の最先端技術を用いた武具であれば、 其れは矢張り副葬品にしか見られぬものであって当然でしょう。 斯くして火山被害の偶然の齎した甲着装人骨は本邦初の事案であり、重要な実証研究材料となるのでした。

金井東裏遺跡は群馬県渋川市に在って、同じく渋川市に吾妻川を挟む 黒井峯遺跡 は日本のポンペイとも称される程の地にて、 即ち、東麓に位置する群馬県渋川市は一旦西の榛名山が怒りに任せて粉塵を舞い上げれば其れに覆われる運命にもありました。 6世紀初頭に最先端技術使用武具を埋没せしめた榛名山は程なく、6世紀中頃にも再度の噴火に火山灰を渋川市に広く降らし、 其れが甲着装人骨を猶状態良く保存せしめる仕儀と相成り、今、吾人に当時を眼前に彷彿せしめんとしています。

使用写真
  1. 古墳時代の甲(よろい)着装人骨が出土 －金井東裏遺跡の調査成果現地公開のお知らせ－（財団法人 群馬県埋蔵文化財調査事業団|発掘情報館プレスリリース：2012年12月10日：2019年12月31日現在記事削除確認）
かたむき通信参照記事（K）
  1. トレンチコートの老舗アクアスキュータム倒産、1世紀半の歴史に一旦終止符（2012年4月18日）
参考URL（※）
  1. 甲冑・武具サンプル（船津3D工房）
  2. 古墳時代の甲(よろい)着装人骨が出土 －金井東裏遺跡の調査成果現地公開のお知らせ－（財団法人 群馬県埋蔵文化財調査事業団|発掘情報館プレスリリース：2012年12月10日：2019年12月31日現在記事削除確認）
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