トレンチコートの老舗アクアスキュータム倒産、1世紀半の歴史に一旦終止符

英国のトレンチコートで有名な老舗ブランド アクアスキュータム が経営難から倒産手続きに至ったと同社破産管財人が 2012年4月17日発表しました。

アクアスキュータムは1851年創業ですから1世紀半に余る歴史を有します。 ロンドン万国博覧会の開催された当年ジョン・エマリー氏により創業されました。 ブランド名の由来はラテン語で水を表すaquaと楯を表すscutumを組み合わせた造語で防水を意味するそうです。 ジョン・エマリー氏はウール生地の防水加工の研究に取り組んだのでした。 イギリスとロシアとの間で1853年に勃発したクリミア戦争で アクアスキュータムが重宝されたことから見える様に当初は軍用の防水生地で名を馳せたのでした。

続く1914年から1918年に於ける第一次世界大戦でも アクアスキュータム製の軍用コートはその抜群の防水性で塹壕で戦う英国兵士に着用するところとなります。 塹壕とは即ち戦争最前線に敵との銃撃戦から身を守る為の土に掘られた溝のことです。 戦争という命が危険に晒される、しかも溝の中を這い回るとなれば最前線での話で、 そのような極端な悪条件の中で戦う兵士に信頼されたのでした。

これが一旦、一般の生活の中に着用されれば悪天候如きはものともしないでしょう。 このような実用性の高さと軍用の雰囲気をそのデザインに残すことから 平時にも紳士に愛用されるようになりました。 塹壕を英語でtrenchと言います。 このコートはトレンチコートの原型となり広く普及したのでした。

トレンチコートが広く人々の羽織るところとなったのは映画の力も大きく、それは一大流行ともなったのでした。 ピンクパンサー シリーズではクルーゾー警部を演じた主演のピーター・セラーズ氏が着用する トレンチコートは最早トレードマークとして通用しましたし、 飽く迄も執拗なその姿勢と明敏な頭脳で犯人を追い詰めていくピーター・フォーク氏演じるところの 刑事コロンボ はその恐るべき推理力を隠す為に独特の口調と(小池朝雄さんが吹き替えた日本だけでしょうか?) ガタガタの1959年式仏国製プジョー403コンバーチブルと共に よれよれのトレンチコートが活用され犯人を煙に巻くこと屡でした。 窮め付けはボギーことハンフリー・ボガード氏でしょう。 1942年製映画 カサブランカ でボギー演じるリックに着用されたトレンチコートが世界中のどれ程の男性に アクアスキュータムのコートの袖に腕を通さすことになったか知れません。

アクアスキュータムは広く世界に普及し外貨を稼ぐと共に 英国王室御用達ともなりました。 その主なるターゲットは高級紳士服市場です。 しかしこの経営方針は近年市場と上手く噛み合わなかったようです。 1990年には日本企業のレナウンが買収しましたが、 2009年には全株式を英国Broadwick Group Limitedに譲渡していました。

こうして栄光の歴史から紆余曲折を経て、今回の経営難からの倒産となってしまったのです。 因みにレナウンでは現在もライセンス製造は継続しているとのことで 同社Webサイトにも専用ページ Ladie's Aquascutum 及び Men's Aquascutum が(2019年1月24日現在両記事削除確認)設けられています。

アクアスキュータムと言うブランドには言い知れない価値があると思います。 現在破産管財人は後ろ盾となる新たな支援先企業を探しているとのことです。 こうして倒産の情報が流れれば孰れ関心を持つ企業の目に留まり 当該企業の経営戦略の俎上に乗せられ、 そしてこの付加価値の高いブランドは復活することが予想されます。

追記(2019年1月24日)

その後アクアスキュータムは香港のYGM貿易の所有する処となり、 YGM貿易は2017年3月に山東如意グループに買収されました。 山東如意グループはレナウンの筆頭株主であり、レナウンは山東如意グループの連結子会社になりますので何某かの縁が有る様で、 レナウンは日本に於けるアクアスキュータムの国内商標権を取得し現在も保有しています。 なお、webサイトは日本公式の Aquascutumアクアスキュータム が開かれています。

追記(2020年5月16日)

Aquascutumアクアスキュータム の日本国内商標権を有する 株式会社レナウン が昨日2020年5月15日、倒産しました。 同社からは其の旨、同日付けでニュースリリースを配信[※1] しています。 此の今年2020年初の上場企業倒産は、形式的には子会社のレナウンエージェンシーが債権者として申し立て、 上場廃止は来月6月16日付とされるのが伝えられる処です。

負債総額は2020年3月31日時点で、約138億7千9百万円と算出されており、 例に依って帝国データバンク[※2] や東京商工リサーチ[※3] にも倒産速報が配信され、加えて 時事通信社[※4] など新旧織り交ぜた多くのメディアも報じる処であるのは、 其の原因として近年の業績不振に加え、同社自身もリリースに 「2020年3月以降は、新型コロナウィルスの感染拡大により全国の百貨店・量販店等で 営業自粛の動きが広がり、消費者の巣ごもり傾向および不要不急の外出控えによる購買行動の変化のため、 当社の商品は著しい販売減少を来たす」と主張する通り、新型コロナウィルス COVID-19(corona virus disease 2019) が主要因に挙げられれば、矢張り頃日の疫病騒動の根源が引き起こした大型倒産であると捉えられているからでしょう。 ファッション情報メディアの WWD では記事[※5] 自体に「コロナ」の三文字が踊ってもいます。

帝国データバンクには「東証1部上場、アパレルメーカー」と紹介され、 東京商工リサーチには「東京アパレル製品製造卸」と紹介されるに加え、 ダーバンアクアスキュータム などのブランドで知られる老舗アパレル業者であるとも紹介されるのは本記事にも記した通りです。 本日配信された JBpress の記事[※6] では明治35年(1902)の創業から戦後の絶頂期、バブル期の事情など記すに、 今回の致命傷としてバブル末期の設備投資と企業買収を挙げており、 其の企業買収こそ本記事にも伝えた平成2年(1990)の英国の名門ブランド「アクアスキュータム」の買収事案でした。 アクアスキュータム買収は高齢者に限定された訴求効果に留まり、費用の200億円に見合う効果はレナウンには齎さなかった様に、 三陽商会の バーバーリー ブランドと比して言及されています。

参考URL(※)
  1. 民事再生手続開始等に関するお知らせ(株式会社レナウン:2020年5月15日)
  2. 倒産速報「株式会社レナウン」(帝国データバンク:2020年5月15日)
  3. TSR速報「株式会社レナウン」(東京商工リサーチ:2020年5月15日)
  4. レナウンが経営破綻 コロナで販売不振、上場企業で初―民事再生へ、負債138億円(時事ドットコム:2020年5月15日)
  5. レナウンが経営破綻 長年の不振にコロナが追い打ち(WWD JAPAN.com:2020年5月15日)
  6. 「民事再生」レナウン、最初の躓きはバブル絶頂期に 「アパレル業界の王者」が歩んだ30年にわたる凋落の道のり(JBpress:Japan Business Press:2020年5月16日)
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