冷凍技術の進歩が食卓を変える~セコムの食とマーズカンパニー

流通の進化発展が食卓を変えてしまう実例をまざまざと見せ付けられたのが かたむき通信に伝えた高崎と新潟に於ける関越自動車[K1] でした。 角上魚類株式会社 がこの全線開通を機に新潟の新鮮な魚介類を海に接しない県である群馬県に届け小売りし、 その結果それ迄は食習慣に鮮魚は数えられなかった高崎市民の食卓に 新鮮な魚介類が当たり前のように並ぶようになった、と言う話でした。

冷凍食品 photo credit by Kanesue

その群馬県高崎市にはこの鮮魚の流通を根本から変えんと虎視眈々と冷凍業界を睨む企業がありました。 業務用冷蔵庫開発を主業務とする従業員6人のベンチャー企業 株式会社マーズカンパニー です。 同社には2つの他社に秀でる技術が有りました。 その一つが雪のように白くて細かく、舐めると少し塩辛い氷 sea snowシースノー であり、-1℃から-5℃で氷点下の温度を保ちながら食品内の水分子を振動させ凍らせない特許を持つ冷蔵庫 蔵番(KuraBan) です。

一般的には発泡スチロールの中に氷と共に詰めて鮮魚は輸送されるのですが、 一度シースノーを用いれば従来より長時間鮮度を保つことが可能となります。 魚を凍らせないギリギリの温度で鮮度を維持し、 しかもパウダー状になった氷は魚を傷付けません。 実験的に従来の氷とシースノーで運搬した肴の鮮度を鮮度計で計測すれば其の差は歴然です。 塩分濃度3%の人工海水を4時間掛け循環冷却して塩分濃度1%ので-1℃に保たれる氷、 シースノーは製造されます。

このシースノーと冷蔵庫蔵番を組み合わせてこそ 鮮魚が生で鮮度を保ったまま従来には考えられない期間の保存が可能となり 新しい低温流通が形成されるとマーズカンパニー社では考えています。 その証拠が岩手県宮古市の足のはやい ドンコ とも地元で呼ばれるエゾイソアイナメがマーズカンパニー社の手に依って 高崎のスーパーに提供されました。 冒頭の角上魚類社を髣髴とさせる話しです。 そして従来では考えられなかった宮古市の鮮魚が高崎市民の食卓に上ることとなったのでした。 若しかしたら高崎市民は其の内最も鮮魚に親しむ土地柄になるのではないかと思えるような話しで 古く古代よりつい昭和迄考えられなかった事態が起こっていると言えます。

このマーズカンパニーの新技術と低温流通革命を伝えたのが テレビ東京系列の人気テレビ番組、日経スペシャル ガイアの夜明け の2013年2月19日放映分です。 その副題も 絶品の味が身近に~ここまで来た凍らせる技術~ とされる同番組ではもう1社意外な企業が取り上げられました。 日本発の警備保障会社として現在も業界売上トップを誇る企業 セコム です。

セコム社は意外なことに15年前より食品の通販サービスに進出していたのです。 意外とは言え言われてみれば建物管理などに拘らず食にまで安全、安心を提供しようというコンセプトを拡大した業務とも言えるでしょう。 この業務がインターネット上のホームページの セコムの食 としてあり、此処では安全・安心のセコムが選んだ全国各地の美味、グルメ、特産品のお取り寄せサービスが提供されるものです。 この立ち上げから携わる女性社員氏はたった一人のバイヤーとして現在も活躍しており、 全ての商品の開発に携わっています。

女性バイヤー氏は現場主義で15年間、全国を飛び回って口にしたのは驚きの18,000食、 其の中に商品化されたのは僅か2%ですから約360食程となるのでしょう。 採用率2%とは如何にも厳しい基準でその取り扱い商品採用基準としては 以下のものが挙げられると考えられます。

  • 普通では売っていないと顧客に思って貰えること
  • 其処でしか食べられない地方の逸品
  • 化学調味料などが使用されていない

採用に先立っては調理現場にバイヤー氏が立会い先ずは原材料を確認、 その後は調理に密着、必要とあらば間髪入れず写真を撮ります。 こうしてセコムの食ホームページには臨場感たっぷりの記事が並び、 こうした記事は顧客に安心感を与えるのでした。 これこそがセコムのセコム足る本分でしょう、 自分の目で作業を確認することこそが大事であるとバイヤー氏は語ります。 この方針が功を奏したのかセコムの食は利用者も毎年右肩上がりで、 2005年には10万人と超える程度であったのが一昨年2011年には25万人に迫る勢いのデータが提示されます。

現在セコムの食で扱う品数は約500種類、その内半数以上が冷凍食品と言います。 従って通販の流通に乗せるには冷凍が重要なキーワードとなって来るのでした。 顧客からお弁当の要望が多く寄せられた際には其れに応えるために惣菜の複数セットを誂える為に 製造を任せるにあたって当地の最新の大型冷凍設備を有している加工センターが決定に与って力があったほど、 冷凍技術はバイヤー氏、即ちセコムの食に於いては重視されているのでした。

セコムの食のバイヤー氏は自らの仕事を 世の冷凍だから美味しくはないんじゃないか、と言う既成概念、偏見との戦いであるといみじくも漏らしたのでした。 冷凍技術の進歩は吾人の食生活に昭和からだけでも考えられない変質を齎しましたが 影には携わる人々の多大の努力があるのが知られます。

追記(2015年1月13日)

本記事に紹介したマーズカンパニーが再度ガイアの夜明けに取り上げられ、 各方面から引き合いの多く齎されて其れに応える様子が2015年1月6日放送分に一般に届けられました。 陸揚げされた鮪を産地から消費地へと輸送されるに氷を沿える生鮪と 遠洋漁業や輸入に於ける冷凍鮪では生が其の平均価格で大きく上回ります。 此の生鮪の輸送に魔法の氷シースノーが用立つとして マーズカンパニーに助力を求めたのが石垣島の漁師でした。

沖縄本島からも遠く遠洋に離れる石垣島からは首都圏の胃袋を支える築地市場迄凡そ2,000km、 勢い航空輸送に頼らざるを得ず、一般的に陸路を用いる他の産地に比して輸送費に大きく収入を削られてしまうのです。 直接相談を受けたマーズカンパニー代表氏は 此れも2013年の放映有ってでしょうか、シースノー輸送に関心を示していた日本通運に打診し或る実験を試みます。 飛行機での空輸と改造保冷車に依る海路陸路を交えた車両輸送とで鮮度の比較実験を実施したのでした。 事前に鮮度計で鮮度計測した結果共に鮮度11.0の生鮪を築地に輸送します。 空輸では凡そ13時間、車両輸送のフェリーがやっと沖縄本島に近づく頃には既に築地に到着し、其の鮮度は10.0でした。 対する車両輸送はコストは凡そ10分の1に抑えられるものの此れより後5日、都合6日間もの時間を要します。 此の長時間にシースノーは耐えられるか?と言う按配の実験となります。 車両輸送に於いては5日目にフェリーが大阪に到着し此処から陸路600kmを東京迄進みます。 6日目にして漸く築地に到着した生鮪の鮮度を計測すれば其れは11.0、鮮度は落ちていないのでした。 築地の仲買人の目で見ても、無理に空輸しなくてもいいんじゃないか、とのお墨付きが出る程の結果です。 此れをまたシースノーに関心を示していた寿司チェーン店に降ろして実際に店内のお客に試食を促せば 快い結果が得られるばかり、此の店は今後石垣島メバチマグロの仕入れを決定したのでした。 群馬の新興企業マーズカンパニーは開発したシースノーの秀でた性能を以て 周囲からの要請も有り更なる飛躍を遂げようとしています。

使用写真
  1. 冷凍食品( photo credit: Kanesue via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 角上魚類と関越自動車道が変えた高崎市民の食生活(2012年12月23日)
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