飲料業界では販売数量に於いて上位2社即ち、 日本コカコーラとサントリー食品インターナショナルで 凡そ半数のシェアを占めているところ、 3位に伊藤園、4位にアサヒグループホールディングスが位置していましたが、 此の3位、4位が近々引っ繰り返ることになりそうです。
アサヒグループHD飲料事業売上
アサヒグループホールディングスでは傘下の飲料事業に於いては アサヒ飲料とエルビーを合わせた2011年12月期の売上高は3,247億円、 営業利益は113億円でしたが、これにカルピス社の2012年3月期売上高1,106億円、 営業利益45億円のボリュームが加わることになり、 売上高で4,000億円超、営業利益で凡そ150億円の目論見が立つことになります。
各メディアの伝えるところによると アサヒグループホールディングスは味の素社と その傘下であるカルピス社の1,000億円規模での買収について交渉しているとのことです。 此の事案が明らかになったのは昨日2012年4月27日のこと、 未だ検討段階との両社のコメントですが5月中の合意の 蓋然性は高いものと関係筋からは見做されているようです。
此の買収によるメリットを考えると味の素は買収資金を得ることに併せ、 社内リソースを本業の調味料やバイオ事業に集中させることが出来、 またアサヒグループホールディングスは極めて周知されている飲料ブランドを得ることに併せ、 研究開発や営業面でも相乗効果を得られると考えているとのことで、 国内飲料業界上位2社を追撃する体制整備へ向けての一手になります。 固よりアサヒグループホールディングス傘下のアサヒ飲料社とカルピス社は 自販機の運営管理で提携するなどする近い関係にありました。
「カルピス」の反応
此の報道を受けて カルピス株式会社 では本日2012年4月28日の段階でその公式ホームページ上で以下の如く配信しています。
2012年4月27日、一部報道機関で「アサヒグループホールディングス㈱が当社を買収」という趣旨の報道がございました。
本件は当社および味の素㈱が発表したものではありません。味の素㈱およびアサヒグループホールディングス㈱両社が検討中という情報は確認しております。 今後、具体的な内容が決定された時点で発表いたします。
「カルピス」は 初恋の味 で知られる最早日本では知らぬ人のない程だと思われる超優良ブランドと言って良いでしょう。 その設立は1916年、大正5年の醍醐味合資会社を前身とし、 1919年、大正8年には日本で初めての乳酸菌飲料「カルピス」を開発し発売、 大当たりを取り、1923年、大正12年にはその商品ブランドを屋号とすべく カルピス製造株式会社に、飛んで1997年、平成9年には カルピス株式会社に商号変更、 2007年、平成19年には味の素株式会社の完全子会社となっていました。
味の素社の傘下となってからは 消費者の希釈作業が基本だった「カルピス」を購入後直ぐ飲める カルピスウォーター や、これをカクテル仕立てにしたアルコール飲料 カルピスサワー を開発したり、ミネラルウォーターのエビアンやワインなどの輸入も手掛けていました。
またアサヒグループホールディングスはかたむき通信でも、 以下列挙する処の如く、その積極的な施策を伝えてきもしました。
今回の「カルピス」買収もその一連の積極性の現れでしょう。 管見に於いてはバランス的にも海外市場に向けたスターベブの買収、 海外ブランドのモンスターエナジーとの提携、 そして今回の「カルピス」買収が国内シェアの向上と 実に上手く配されている感があります。
先ずは味の素社との合意がなされるかが先ですが、 アサヒグループホールディングスの此の「カルピス」買収が 飲料業界の上位2社にどのような施策を強いることになるか、 興味深いところです。
追記(2014年11月14日)
老舗割烹「なだ万」
アサヒビールが本日14日、老舗日本料理店 「なだ万」 の51.1%の株式を取得することで両社合意、過半数株式取得での買収が年内に完了される予定であることを 各メディアが一斉に報じました。 アサヒグループホールディングス 及び アサヒビール からは未だWebサイト上に公式ニュースリリースは配信されていませんが「なだ万」側には 株主の異動に関するお知らせ として公式にニュースリリースが配信されています。
アサヒビール側としては老舗料亭に長年培われたノウハウを取引先の外食企業への営業力提案に活かせ 「なだ万」側としては事業基盤の安定と「なだ万」ブランドの諸事業の信頼性向上が見込まれるものとされています。 アサヒグループHDとしてはアサヒ飲料がモンスターエナジーを国内独占販売し[K1] アサヒビールがスターベブを買収する[K2] などグローバル展開を加速させると同時に本記事にある国内市場をも睨む強化策としての買収となります。
追記(2022年9月12日)
2022年の今になって見返すと「なだ万」買収直後の各既存メディアの論調は押し
創業は天保年間ですので老舗と言えば老舗ですが、例えば 『江戸の訴訟―御宿村一件顛末』 の49頁には化政文化に入り一大消費都市江戸の爛熟期に花開いた消費文化の一つとして外食文化が紹介され、 大都市下に遍く浸透した其れに仍り、文化元年(1804年)調査では外食店舗は6,160軒余りに達したと有り、 今も食を商う「八百善」を頂点とした食文化に於いては番付迄発行されたとします。 当該番付「魚尽見立評判・会席献立料理通」は文久元年発行ですから、勿論「なだ万」の名前は有りませんが、 今も暖簾を下ろしてはいない屋号は散見されます。 老舗の大手に仍る買収を嘆くのであればもう少し踏み込んだ記事内容が望まれた処です。 果たして当時書いた通りに推移したか如何か、出来れば上に列挙した記事に其の後の顛末を、今新たに配信して欲しいものです。
対して野次馬的傍観者ならぬ買収を実施した企業の側は生き残りを掛けて必死ですから、 例えば「M&A Online」が数年後の2017年6月9日に配信した記事[※1] を見れば、それなりに相乗効果を齎している様に見えます。 「なだ万」 のwebサイトは以前は施されていなかったSSL化が成されて、 ネット通販大手アマゾンでの取り扱いも始まり、 グループ入りした効能は少しは有ったのでは無いかと思いますし、 文化の破壊的な施策はアサヒグループホールディングス側に全く見られはしない様です。
「カルピス」其の後
では本記事配信時の趣旨「アサヒグループホールディングスのカルピス買収」については如何相成ったでしょう。 本記事配信時の2012年4月28日には、 味の素及びアサヒグループホールディングスの両社が「カルピス」買収について検討中との状態で明言は避けられていました。 其の後の経緯を、アサヒ飲料株式会社webサイトの「経営史」ページの「カルピス経営史」[※2] の項目6番の「アサヒ飲料との経営統合へ」からリンクされるPDFへ アサヒ飲料株式会社とカルピス社両社の正式な関係史が記載される中に読み取れば、 先ず、アサヒグループホールディングス社が味の素社保有のカルピス社全株式を合意の上取得、 2012年10月1日、即ち半年後にはカルピス社はアサヒビール社、アサヒ飲料社などと同様アサヒグループホールディングス社傘下となりました。 翌年2013年9月には国内飲料事業と営業部門が移管、統合されたアサヒ飲料社内に新設の 「カルピス営業本部」が「カルピス」を扱うこととなり、 続き2016年初頭のアサヒグループホールディングスの飲料事業再編実施で、 カルピスフーズサービス株式会社をカルピス株式会社に商号変更、旧カルピス社の国内飲料製造事業と乳製品事業が承継されました。 更には機能性食品事業と飼料事業は此れもアサヒグループホールディングスの傘下のアサヒカルピスウェルネス社が承継し、 更に海外飲料事業、発酵応用研究に関する組織と間接機能の一部をアサヒグループホールディングスに移管、 旧カルピス社はアサヒ飲料社の吸収合併する処と相成りました。 旧カルピス社の持つ各機能は時間を掛けて各々の適材適所に統合された旨、アサヒグループホールディングスの主張する処です。 従って現在アサヒグループのアサヒ飲料社の傘下となったカルピス社の「カルピス」ブランド製品はアサヒ飲料社の扱うところとなっていますが、 買収劇以前の両社の関係に付いては本記事配信時に記した処を更に詳しく「アサヒ飲料との経営統合へ」にも記されており、 関しては、2007年12月にはカルピス社はアサヒ飲料社は、アサヒカルピスビバレッジ社を共同設立、 自動販売機事業を統合、競争力向上を目論み、2009年にはアサヒオリオンカルピス飲料社の設立を以て、 沖縄飲料事業基盤の強化で既に協業を果たしており充分に取られた猶予期間で以て社内の融和は図られて、 業務統合は比較的円滑に進んだものと推測されます。
カルピスソフトキャンディ
扨、何故かしら最近はお菓子にヨーグルト系の味がすっかり消えてしまった気がします。
お好みのお菓子「ハイチュウ」にも「カントリーマアム」にもヨーグルト味は見えません。
レーズンをヨーグルト味のチョコレートで
そんな或る日、行き付けのスーパーの陳列棚に「カルピスソフトキャンディ」を見付けたのです。
思わず買い物籠に放り込み一目散にレジに運びました。
余程ヨーグルト味お菓子に渇していたのかも知れません。
真正のヨーグルトは棚に溢れ、屢々購入しますから其の味ばかりを欲しているのではないと思います。
ヨーグルト味でいて
パッケージの封を解いて口に放り込めば、久し振りに期待通り甘くて酸い乳酸菌飲料の「カルピス」の味が其の儘味わえました。 アサヒグループ入りした「カルピス」は今もやっぱり「カルピス」でした。
追記(2023年8月1日)
アサヒグループHD外食事業から撤退
アサヒグループHDが外食事業からの撤退を決定しました。 以下に情報の伝えられる代表的な処を列挙します。
理由としては外食事業の回復はコロナ禍以前の七割程と見積もり、 酒類事業に経営資源を集中する目論見にて、 ビール園など運営の「アサヒフードクリエイト」と共に列挙中タイトルにも踊る様に、 本記事2014年11月14日に傘下として迎い入れるのを追記した「なだ万」も外食事業として売却の対象となります。
去年2022年9月12日の本記事追記には、
老舗割烹が新興大手の傘下に入る事態を厭う記事の奇妙さを記しました。
大手メディアは記事をオンラインから屡々削除してリンク切れとなるのを避けたい為、
此の傾向の見られない未だ増しなメディアとして選択した
東洋経済オンライン、J-CASTニュース、講談社『週刊現代』には、
2014年の記事を現在も当時上げた儘にしてくれている中、槍玉に挙げて申し訳ないですが、
彼等は如何しても此の事態に快哉を叫ばねばなりません。
何となれば、老舗割烹が大手の
「アサヒフードクリエイト」の運営する34店舗については売却が不調の場合閉店の可能性もあるとされます。 一方「なだ万」は大手の束縛から放たれ、売却先が決定されねば晴れて自由独立の身となる可能性も有り、 此の如き状況は大手傘下を嫌悪した記事をものした向きの眼には、 果たしてポジティブに映っているでしょうか、将又ネガティブに映っているのでしょうか。 まさか「なだ万」を大手資本に救われるべき存在だとは思っている筈も無いでしょう。
扨「なだ万」は国内26店舗、海外5店舗、 他に総菜や弁当の販売形態で46店舗と、国内外に77店舗を展開しており、 此れも大手の手法を取り入れた為、可能となった展開なのかも知れません。 「なだ万」は天保元年(1830年)創業の老舗にて、 高いブランド力の相俟った展開とも言えるでしょう。 例えば世界に冠たる有名ファッションブランドなどは以下が見えます。
本記事2022年9月12日には日本の外食産業内に於ける「なだ万」を辛うじての老舗扱いにしましたが、 上に創業時系列順に列挙した孰れも高いブランド力を背景に世界で展開する事業体に比しても、 分野こそ異なるものの有する歴史は筆頭です。 此れはファッション分野に於いてですが、 高いブランド力を以て世界展開を外食産業にこそ成功し、 以て世界に寿司、天麩羅、ラーメン以外に、 高級割烹としての日本食文化の発信となればなかなかの痛快事とも思うのです。
参考URL(※)- 食べるM&A アサヒビール なだ万の“旨味”で海外へアピール(M&A Online:2017年6月9日)
- カルピス経営史(アサヒ飲料株式会社)
- 発酵乳と乳酸菌(乳酸菌はどんな菌?)(カルピス株式会社)
- 米国発モンスターエナジーが日本上陸~アサヒ飲料が独占販売(2012年3月16日)
- アサヒビールがグローバル展開を加速、スターベブ買収(2012年3月12日)