物理的な鍵よりはるかに強固だと鳴り物入りで登場した 自動車用の電子的な鍵 イモビライザー(Immobilizer) も近年相次ぐ採用車の盗難でその問題が明らかになって来ました。
トヨタ自動車の人気車種 プリウス もそんなイモビライザーを搭載した自動車ですが 特に盗人から狙われており、 その激しさが近年ますます増すのを数字が表しています。
2009年の27台と言う盗難件数が2010年には8倍の209台、 その翌年の2011年にはそのまた2.5倍の514台が被害に遭いました。 2009年から見れば驚くべきは19倍の盗難件数になっています。 これを伝えるのは毎日.jpの2012年6月14日のニュース プリウス盗難:2年で19倍…低燃費、静かさを悪用か (2019年4月27日現在記事削除確認)です。
では何故このようにプリウスの盗難が増えているのか? それには4つの理由が考えられます。 以下、列挙します。
- 絶対台数が多い
- エコカー人気
- 静粛性
- イモビライザー
絶対的な台数が多ければ割合的に盗難件数も増えるのは明白です。 従って先ずプリウスの絶対的な台数が多いことが原因として挙げられます。 一般社団法人の日本自動車販売協会連合会サイトを参照すれば 2011年の販売ランキングデータ こそフィットと首位を交互に分け合っていますが 2012年の販売ランキングデータ になればこの5月迄のデータで全て首位と圧倒的です。 (2019年4月27日現在当該サイトに於ける 乗用車ブランド通称名別順位 は2015年以降のデータしか提供されておらず、 上記2データの記事の削除を確認しています。)
次にはエコカー人気が挙げられます。 上の自販連の販売ランキングデータでも先々月4月、先月5月に 首位のプリウスの座を追走するのは同じトヨタのハイブリッド車 アクア です。 政権が変わろうとも打ち続く不景気と全く値落ちしないガソリン代に 多くの人が燃費の良いエコカーに殺到するだろうことは間違い有りません。 従って盗難もアンダーグラウンド市場で足の速い エコカーの筆頭たるプリウスに狙いが定められることになります。
静粛性は盗人にはこれ以上なく都合の良いものでしょう。 ハイブリッド車に於いてはエンジンを使わない低速での走行ならばほとんど音がしません。 深夜の住宅街でも音もなく盗んだ車を走行させ立ち去れるとなれば 通常のエンジン車よりも狙われる道理です。
最後に毎日.jp記事にも重要なキーワードとして登場するのが イモビカッター です。 イモビライザーは電子鍵ですからコンピュータ的な操作で解読が可能です。 しかしこれは実は容易なことではありません。
イモビライザーはその登場時、絶対解読するのは不可能と喧伝されましたが、 それも宜成る哉、数学的に暗号処理の施された電子鍵の解読は フィールズ賞受賞者並みの頭脳が要求されます。 今やインターネットでもオンライン決済で様々な暗号が用いられますが、 セキュリティ上からこの解読についても研究が大手コンピュータメーカーなどで 世界最高の頭脳によりなされています。 幾ら世界最大の盗難ネットワークでも不可能でしょう。 従って絶対安全の鳴り物入りでイモビライザーは登場したのでした。
暗号解読は難しくとも暗号作成はシステムに従い手順を踏めば それこそトヨタ自動車でも簡単に出来る訳です。 しかしここに盲点がありました。
例えば紛失や故障など何某かの理由で鍵交換の事態が発生したとしましょう。 この時暗号が解読出来なければイモビライザーを含む鍵セットを全て交換する必要が生じます。 それには多額の料金が必要となりますからお客さんは怒りは容易に想像がつきます。 そのためにイモビライザーにはリセット機能がついているのです。 リセットして改めて暗号鍵を作成するのですね。 実はこれこそがイモビカッターなのでした。
イモビライザー車の盗難に用いられるイモビカッターは 自動車メーカーの純正品ではないかと実しやかに囁かれるのも 実はこう考えれば無理もない状況なのです。
窃盗犯がイモビカッターを如何なる経路で如何様に入手したのかは勿論判然しませし、 それを使用しているのかも未だ明らかになってはいません。 しかし実に蓋然性の高い状況にあることは確かです。 暗号鍵さえ解いてしまえばイモビライザーは 物理的な鍵より遥かに盗み易い車となってしまいますから 非合法など構わずあらゆる手段を用いても手に入れようとするでしょう。
自動車メーカーは無論この類の盗難対策が急がれますが、 既に盗難された車が発見されやっと手元に戻せた方などに対して、 全て負担を押し付けるのではなく、 これ等状況を鑑みた上での配慮が必要だろう考えます。