ファストファッションの台頭でアパレル業界に於いては これに対応出来ない組織は苦しい戦いを余儀なくされています。 ユニクロのファーストリテイリングとしまむらの2社が気を吐く中、 それ以外の大手は減収の憂き目を見、 かたむき通信にはジーンズの有名ブランドを擁する ボブソン の倒産[K1] も伝えました。 今又2012年8月6日には 五十嵐貿易株式会社 (2019年6月11日現在webサイト閉鎖確認)が事業を停止、自己破産申請をするに至りました。 五十嵐貿易はアパレル製品や衣料素材となるテキスタイル製品を扱う 昭和6年創業の老舗企業でした。 負債総額は2012年3月期末時点で約32億7500万円[※1] とも36億9446万円[※2] とも言われています。 神奈川県内では今年最大級の倒産となりました。
同社は戦後順調に業績を伸ばし、 昭和33年には帝人株式会社の要請により系列会社として帝人の製品販売に重点を置き、 平成4年3月期には232億円を売り上げるものの長引く不況の煽りに特別な打開策も打てず 平成24年3月期には53億円まで売上は落ち込んでしまいました。 近年は得意先倒産による焦げ付きも散発する処に、 旧大阪支店の火災に伴う損害賠償金計上が追い打ちを掛け資金繰りが悪化[※3] 、遂に今回の事態を招いたのでした。
アパレル業界から同社に関係の深い取引先の帝人が業界2位を占める 繊維業界に目を転じて見ればその業界規模は 2兆円程で推移[※4] しています。 これは例えばIT業界の雄、Google1社の2011年通年売上、約379億米ドル[※5] 即ち日本円にして約3兆円の2/3程に過ぎません。 この中に多くの企業が犇めき 更にはこの規模は横這い若しくは漸減の方向性を示していますから 実は根本的変革を求められる業界でもあるのでした。
この状況を受けて繊維メーカーは各社研鑽の末 炭素繊維やアラミド繊維など世界的需要や価格競争力のある高付加価値商品へシフトする者、 また、繊維事業でのノウハウを活かせながらも電子関連分野などに需要のある 樹脂や光学フィルムなどの非繊維事業へとシフトする者、 とそれぞれが自社の行く末を睨み 最先端の素材メーカーへ生まれ変わろうと刻苦勉励[※4] しているのです。 この動きに付いていけない旧来通りの業態を押し通せば厳しさは免れ得ません。 五十嵐貿易はこうした繊維業界の動きを受け取引先など新たに開拓の必要があったのかも知れません。 しかし残念ながら新業態へとコア事業を移行するのは適わず 今回の事態となったのでしょう。
五十嵐貿易はアパレル業界と繊維業界の狭間に在って 両者がファストファッション及び最先端素材へと激動、激変する大波に木の葉の如くもまれて 敢無い最期となりました。 普段何気無く接している衣料製品ですが その影には斯様な大変化が起きているのが今回の五十嵐貿易倒産の事態を通して見えて来ました。
関連業者はこの大波を切り抜ける必要があります。 しかしこの激動の時代にはその中から 従来の業態から完全に脱した新しいコアコンピタンスを擁す 麒麟児が現れ来る予感もするのです。
かたむき通信参照記事(K)- ジーンズメーカー株式会社ボブソン(BOBSON)無念の破産、ファストファッション勢に破れ消滅へ(2012年6月11日)
- 昭和6年創業の老舗アパレル製品・テキスタイル卸 五十嵐貿易株式会社自己破産申請へ負債32億7500万円(帝国データバンク:2012年8月6日:2019年6月11日現在記事削除確認)
- 五十嵐貿易(株)[神奈川]繊維製品輸入販売 破産申請へ/負債総額 6億9446万円~昭和6年12月創業の老舗貿易会社~(東京商工リサーチ:2012年8月6日:2019年6月11日現在記事削除確認)
- 横浜の繊維商社老舗・五十嵐貿易が破産 負債総額37億円(Yahooヘッドライン:2012年8月7日:2019年6月11日現在記事削除確認)
- 平成21年 繊維業界の動向と現状(業界動向サーチ.com)
- Google Inc: 財務諸表(MSNマネー:2019年6月11日現在Googleは改組してAlphabet Inc.傘下となっています。)