グランドセイコーに4本目の針を携えてメカニカルGMT10周年

SEIKO セイコー History. Unique shot of the Wako Clock Tower in Ginza Tokyo Japan

世界の腕時計界を震撼させた クォーツショック は正しくその最初、かたむき通信にも記した セイコーアストロン[K1] に由って齎されました。 アストロンの発売されたのは1969年、 以降1970年代に掛けてクォーツムーブメントが世界を席巻したのです。

しかしそのクォーツムーブメントの本尊たる セイコー 社は唯にクォーツのみに依存したのではありませんでした。 アストロン発売の9年前、世界最高級の腕時計を世に送り出すべく設立されたブランドが グランドセイコー でした。 スイスのニューシャテル天文台が1960年代に催した 時計の究極の精度を競い、そのランク付けを行なう クロノメーターコンクール を1967年、停止せしめたのは正しく比肩するもののないほど抜きん出た グランドセイコーの高性能故だったのです。

グランドセイコーはその品質を保つために 従来の常識的な基準を超える世界最高水準とも言える厳しい検査基準を自らに課し それをクリアした製品だけが出荷されます。 1975年に自ら産み出したクォーツショックの波から一旦ブランドは停止されましたが、 それ迄は同社の歴史の集大成とでも謂わんばかりに 世界に冠たる機械式ムーブメントの最高品質を求めてもいたのでした。

グランドセイコーは1988年に最高級クォーツムーブメントを携えて復活します。 ムーブメントの方式が如何に変わろうがセイコーが求めるのは常に最高の精確さでした。 そしてこの10年後の1998年に愈々機械式ムーブメントのグランドセイコーが復活します。

グランドセイコーのムーブメントには現在 基本的に以下の3種類の系統のムーブメントがラインナップせられます。

  • 9F系:クォーツムーブメント
  • 9S系:機械式ムーブメント
  • 9R系:スプリングドライブムーブメント

クォーツムーブメントが時代の要請に応えた最高の品質を持ったクォーツ時計のためのものならば 1980年代から20余年の開発期間を経て画期的な機構を以て 2004年に登場したのがスプリングドライブムーブメントでした。 孰れセイコー社が求める最高の品質、それは現在同社が謳う 実用時計の最高峰 に端的に現れるが如くコンテストでグランプリを取るためでも博物館に飾られるためでもない、 顧客の腕に嵌められるものとしての最高品質を求める姿勢に違うものではありません。 そして勿論伝統的な機械式ムーブメントに於いてもそれは変わりなく実現されています。 それが9S系ムーブメントなのです。

グランドセイコーに於いては日時分秒と言う時計の本分たる基本時刻情報以外は 表示されるものではありませんでした。 それだけ時計の本質に迫ろうとするブランドでもあったのです。 此処に画期となったのが9S系ムーブメントを有する メカニカルGMT シリーズの発表でした。

メカニカル(mechanical)は即ち機械式、GMTは Greenwich Mean Time の略でグリニッジ標準時、即ち日本と9時間時差のある世界標準時を表します。 メカニカルGMTシリーズには上の写真に見えるように時分秒の針の他にもう一本針が用意されています。 これ即ち 24時間針(GMT針) でありとこれとセットの24時間目盛りにより世界標準時を始め他地域の時間帯など、 日本時間など自らの依拠するものとは異なる時系列の時間を表示させられる機能が盛り込まれたのでした。 このGMT機能はクロノグラフの精髄を敢えて基本機能として グランドセイコーに取り込んだものと言えるでしょう。

SEIKO GRANDSEIKO GMT SBGM021 グランドセイコー

シリーズ中の メカニカル GMT SBGM021 がYouTubeに WATCH-TANAKA.COM さんにより紹介されていましたので上に共有しましょう。 動画にはキャリバー 9S66A と刻印も誇らしげにそのセイコーの最高級機械式ムーブメントであることを示しています。 動画に共有される メカニカル GMT SBGM021 の写真が右下のものになります。

4本目の針を以てグランドセイコーの新たな頁を開いた メカニカルGMTはクォーツムーブメントを開発し得たと同じく同社の チャレンジングスピリットを示すものでしょう。 従ってこの針は唯に載せられると言うレベルのものではありません。 同社の謳いは飽く迄 実用時計の最高峰 にあり、その本質を損なうことは許されませんでした。 4本目の針が従前の3本の針を邪魔してはならないのです。 針は当然ながら時として重なり合います。 この時にどの針一つ取っても判読性が失われれば それは最早時計としての本質をも失っているとセイコーは考えます。 そのデザインは針の長さ、形状などに実に多くの検討が重ねられた上で産み出されました。 すっきりとしていてなお格調は高くあらねばならないグランドセイコーと言うブランドの 決して本質を損なうことのないGMT針はこうして誕生したのでした。 画期とする機能を追加してなおそのデザインは伝統的足り得たのです。

こうしてグランドセイコーにも画期の4本目の針を携えて登場した メカニカルGMTも今年2012年に10周年を迎えました。 これを以て2種類の10周年記念メカニカルGMTが発売されました。 限定700本(国内の販売予定数量は500本)で2012年6月8日に 504,000円(税抜き 480,000円)で発売された メカニカルGMT 10周年記念限定モデル GRAND SEIKO SBGM029 及び限定1000本(国内の販売予定数量は800本)で2012年8月24日に 483,000円(税抜き 460,000円)で発売された メカニカルGMT 10周年記念限定モデル GRAND SEIKO SBGM031 です。

GMTのGMTたる所以、24時間針は金色に設えられています。 しかしグランドセイコーたるべく高級感を醸し出しながら飽く迄控え目に仕上げられてもいます。 光沢も艶やかなこの24時間針はデザインの基調とされたダイヤルカラーの 濃紺 に映えるものともなっています。 この濃紺は グランドセイコーブルー と呼ぶグランドセイコーのブランドカラーでもあります。

抑えられた光沢の気配りはケース裏側にも配慮されています。 裏蓋はサファイアガラスを用いたシースルー構造となっており 覗ける回転錘(ローター)が鮮やかなブルーとなっているのです。 そしてこの回転錘には初めてチタンが用いられました。 チタン素材は一般にその特性として軽量で丈夫で熱に強く錆び難いことで知られます。 また同時に高い弾性や振動吸収性を兼ね備える素材でもあることで 腕時計の運動部品としても高い基本性能を実現出来るのです。

チタン製回転錘に上質の光沢を纏わせるべく採用された技術は3つ有ります。 その一つ目は 結晶化 です。 上質な金属光沢感を演出すべく光を程好く乱反射させるために フッ酸(フッ化水素の水溶液のフッ化水素酸、強酸性媒体) でチタン表面の結晶を凹凸に荒らし結晶を浮かび上がらせているのです。 その二つ目は エッチング で表面を微妙に荒らして粗大化した結晶に光沢感を齎せています。 最後は 陽極酸化処理 なる技術です。 発色する色彩がその厚みに依って異なる酸化被膜にブルーの煌きを発せしめるに この技術に依って nm (nanoメートル = 10億分の1メートル) と言う驚くべきレベルでチタン素材に纏わせる被膜の厚さを調整しているのでした。

そしてその心臓部のムーブメントに採用されるのは キャリバーNo. 9S66 であり、構造は其の儘に回転錘がチタン製となったため 9S66GMT ともセイコー社ホームページには記されます。 同社の飽くなき挑戦を象徴するキャリバーナンバーとも言え、 また恐らく他モデルにも採用される処となるこのチタン製回転錘を用いたムーブメントが 最初に採用されたのもグランドセイコーのブランドならではと言えるのかも知れません。

メカニカルGMT10周年を記念した限定モデルは 決して廉い価格設定ではありませんから、 かたむき通信にも伝えたキャリバー 6R15[K2] のように間違ってもコストパフォーマンスの良いものとは言えませんが 持つ者にはその金額以上の満足感を与えてくれるには違いありません。

使用写真
  1. SEIKO セイコー History. Unique shot of the Wako Clock Tower in Ginza Tokyo Japan( photo credit: Arjan Richter via Flickr cc
かたむき通信参照記事(K)
  1. 世界初クウォーツムーブメント35SQ~世界にショックを与え日本を一躍腕時計界の中心に至らしめたセイコーアストロン(2012年8月25日)
  2. キャリバー6R15~コストパフォーマンスの高いセイコーの機械式ムーブメント(2012年3月30日)
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