中華鍋の大きな間口に放り込まれた豚のばら肉が心地よい音を立てて炒められれば 加えて白菜、キャベツ、玉葱、青葱を上から投入し更にはモヤシが投じられ、 味付けには適量の塩を振り撒いて傍らの寸胴から鶏ガラスープが注がれ 最期に木耳を加えて片栗粉でとろみを付け、 浅い丼に盛られたご飯の上へ乗っけてちょいとメンマでも足せば あっさりした塩味の中華丼の出現です。
字面にしただけでも食欲がそそられますが、 これで完成かと思えば然にあらず、 そう言えば中華丼ではお馴染みの鶉の玉子が見当たらぬのを訝しむ傍から トッピングされるのは鶏卵の目玉焼き、 そして驚きの巨大チャーシューが追加されて始めて完成形、 富山県富山市民の愛して已まないと実しやかに言われる 不思議な中華丼が出来するのです。
この不思議な中華丼は勿論お店にては只の中華丼、 不思議でも何でもなくこのお店では普通にこれが中華丼であるその中華料理店 キリン飯店 を取り上げたのは人気のテレビ番組 秘密のケンミンSHOW の2013年1月17日放映分でした。 番組内ではパネラーにも振舞われたこの中華丼は大好評、 潰した半熟の目玉焼きの垂れる黄身を全体に広げて 元来の中華丼の餡と絡めれば絶品と口々に賛します。
チャーシューこそキリン飯店秘伝のタレに漬け込み煮込まれること2時間の 箸で千切れる柔らかさの独特のものなれば其の儘真似は叶わずとも、 調理法自体はそれほど特殊で難しいものでもありませんから、 これを見た視聴者に中華料理店があらば 模倣に依って全国に拡がらんとしないものでもないかも知れませんし、 何ならばご家庭の台所での再現も強ち無理ではないものと存知ます。
この中華丼、キリン飯店では800円にて提供され、 250円の追い銭で追加のチャーシューは更なる巨大さ、 皿の外周半分を覆うように乗せられれば肉好きには堪らないトッピングアイテムとなるでしょう。 1枚のみならず追加が可能ですから数枚上乗せすれば最早中華丼はすっかり隠れて チャーシュー丼の様相を呈すのでした。 1,150円にて振舞われるチャーシュー麺では この巨大なチャーシューの4枚乗せですから麺など見えやしません。 キリン飯店のチャーシューの消費量半端無し!と言った処でしょう、 このチャーシューは豚バラ肉のブロックを秘伝のタレの煮込まれる寸胴に 其の儘放り込まれる其の様もなかなかの見物です。
キリン飯店を取り仕切るご主人は2013年の只今御歳78歳、 この中華丼は52年前の発案になるそうで、 如何にしてこの巨大なるチャーシュー乗せを発想したかと問われれば唯に 大きいことが好きだから なる個人的嗜好とのお話し、 因みに何故鶉ではなく鶏卵の目玉焼きなのかと問われれば 鶉が余り好きではないから と此方も余りにも個人的な好みに原因があったのは微笑ましいエピソード。
さてこの中華丼が評判に評判を呼んで現在キリン飯店は3店舗を数える迄になっています。 その地図が下のものにて富山市内に以下3店が構えます。
孰れも如何にも高級中華を食わせますと言った概観は備えぬ 至って庶民的な店構え、商売が上手く行っても決して初心は忘れられず、 何処迄も勤労者の強い味方に変わりは無いようで、 それも富山市民から根強い支持を受ける一因であるのでしょう。
そして驚いたのはこの3店舗の内の一つ 雪見橋店が以前かたむき通信にもほこ×たての伝統の対決で記事[K1] をものした最強のドリルを製造販売しドリル高校やドリル神社迄擁する 株式会社不二越 から僅か1kmも隔てていないことです。 日本タングステン株式会社 への雪辱再戦を期して臥薪嘗胆、 新たなる最強のドリルを創造せんと刻苦勉励する中に凹んだお腹を 若しかしたらこのチャーシューたっぷりの中華丼で満たしているや否哉?
使用写真- la victima/pork belly part( photo credit: tokyofoodcast via Flickr cc)
- ほこ×たて伝統の対決再び~不二越VS日本タングステン(2013年1月5日)