浜松ホトニクスのレーザー核融合への非常識な取り組み

社名変更は西暦1983年、昭和で言えば58年ですからつい此間の話、 創業の西暦1953年、即ち昭和28年より30年間の長きに渡り 浜松テレビ株式会社 と称せば西遠浜松地元民には其の略称を 浜テレ として親しまれた同社が 浜ホト と番組内に略称連呼されるのは些か違和感も覚えるのがテレビ東京の カンブリア宮殿 に2013年12月12日に取り上げられた 浜松ホトニクス株式会社 です。

使用写真1.浜松ホトニクスバス停
使用写真1.浜松ホトニクスバス停

同放送では 晝馬輝夫 現会長より重職を受け継いだ現代表取締役社長の 晝馬明 氏がゲストに招かれ、テレビの父 高柳健次郎 博士から受け継ぐ同社の哲学が大いに開陳されました。 同時に 光産業創成大学院大学 及び レーザー核融合 についてもフィーチャーされましたが此れは かたむき通信にも2012年4月9日に記事 光産業創成大学院大で連続核融合実験に成功~浜松ホトニクス、トヨタ自動車などと連携[K1] にて扱った処にて、両者はちょうど同社に通底する信念、哲学を象徴する事業ともなっています。

其の特異でユニークな社風は高柳健次郎博士の箴言 幸運の女神には前髪しかない が至言となるでしょう、即ち厳に人真似を戒め他者に先んじるを善しとするのは 世界で初めてテレビ実験に成功した其の人らしくもありますが、 而して浜松ホトニクスでは其の創業時の1954年、三重大学の依頼で開発された水中カメラを皮切りに 1960年代には東大からの依頼で開発されたロケット追尾用XYトラッカーに、 瞳孔面積変化計算装置と世界初が冠され、 此れが連綿足りて今日の同社ニュースリリースには世界初の文字が踊るものです。

同社のユニーク性を端的に表すのが番組ホスト村上龍氏の強調した事項でしょう。 氏が同社製品の大雑把な一覧表と称しフリップを画面に映し出させたのは、 同社が数多くの製品を送り出しているのを視聴者に紹介したいのではなく、 其れ等多くの製品群が恐らくは一般にはどれ一つ取っても何の為の製品であるのかが理解不能な処にあるとしました。 同社を一言で言い表すに光部品メーカーで宜しいかと問われた代表氏は基本的に是としたものの、 通常の業界に在っては産業構造が完成品メーカーを頂点としたピラミッド型を形成するのが一般であるが、 光技術応用製品業界に在っては逆ピラミッド型を成し其の最下点に同社の位置し、 上に大きく広がる最上辺の数多完成品メーカーに向かって部品を供給するものと表現したものです。

以て同社の製品は自動車業界から医療業界、果てはノーベル賞研究分野に迄活躍する処となります。 以下に同社の製品部品の活用される事業を箇条書きしましょう。

  • 自動ブレーキシステム・センサー(デンソー)
  • ヒッグス粒子観測センサー(セルン欧州原子核研究機構:ノーベル賞)
  • 血液検査機(シスメックス:センサーシェア90%)
  • 光電子増倍管(癌診断装置PET等:シェアほぼ100%)
  • ニュートリノ観測装置カミオカンデ(小柴教授2002年ノーベル賞)

村上龍氏曰く不可解及び此れ等の中にも著しく異彩を放つのが未だ商品化こそされぬものの 基礎研究として着実に成果を上げつつあるレーザー核融合と言えましょう。

使用写真2.浜松ホトニクス本社工場(固体事業部)社屋
使用写真2.浜松ホトニクス本社工場(固体事業部)社屋

核融合については2012年4月9日の記事[K1] にも軽く触れた処ですが流石に技術的に難解なのは否めず 今回番組に於いても視聴者向けの解説は諦めたようで同社技術者の熱心な説明にもナレーションが、 兎に角凄いらしい、と被せる始末なのは致し方ないでしょう。 ホストの村上龍氏の核融合に興味を持つのが知れるのが、 地球上に小さな太陽を作る、なる発言にて、受けた代表氏の現在様々言われる原子力発電については核分裂に拠るもので 核融合は放射線を発生せず真のクリーンエネルギーを実現出来るとしたものですが、 其の開発が困難を極めるのも村上龍氏は承知、同社の取り組みの映し出されるのを見て、 話には聞いていたけど本当に出来そうな気がして来ましたねぇ、と漏らせば、 其の実現は現在ではほぼ夢物語であると周知されているのも知れる代表氏との遣り取りです。

独立行政法人日本原子力研究開発機構 に用意される良くある質問のコーナー[※1]核融合について簡単に教えて下さい なる問いへの回答が丁寧に分かり易いものとなっており、 地球上で可能な反応として以下の3種類が上から発生し易い順に挙げられています。

  • 第1世代(プラズマ超高温度1億度程度)
    重水素と三重水素からヘリウムと中性子ができる反応
    発生エネルギー:17.6MeV
  • どちらになるかは半分半分
    • 第2世代(プラズマ超高温度10億度程度)
      重水素と重水素から、三重水素と軽水素ができる
      発生エネルギー4.03MeV
    • ヘリウム3(質量数3のヘリウムの同位体)と中性子ができる反応
      発生エネルギー:3.27MeV
  • 重水素とヘリウム3から、ヘリウムと軽水素ができる反応
    発生するエネルギー18.3MeV

第1世代と第2世代とあるのは日本原子力研究開発機構が其の難易度から指定したもので、 矢張り超高温を惹起するのが難しく第2世代の重水素と重水素の核融合反応では更に一桁オーダーが上がるのですから尤もな勘定です。 処で第1世代の三重水素はリチウムを原料として人工的につくらなければならず、 大して重水素は海水中に豊富に含まれ簡単に採取可能なことから第2世代方式が魅力的ともします。 番組では代表氏がレーザー核融合に於ける燃料は海水中に大量に有る、としたのを聞けば、 同社が目指すのは日本原子力研究開発機構の言う第2世代核融合反応かも知れません。

同社ならではのユニークな方式がレーザーを用いていることで、番組には此れが フェムト秒レーザー と紹介されました。 femtoフェムトとは、1000兆分の1(10のマイナス15乗)を表す単位の接頭辞にて極小時間を表していることになります。 浜松ホトニクス産業開発研究所の一室には部屋全体に広がる強力なレーザー光を作り出すという装置が映し出され 此処にミラーとミラーの間を往復する間に光が増幅されて高出力のレーザーが発生する、と技術者の話した次第、 其の行き先は分厚い壁で覆われた隣の核融合反応を起こすための部屋である放射室にて 中にもものものしい装置の中へ生成せしめられた強力なレーザー光が照射され、 此の装置の中でこそ夢のエネルギー核融合が実際に惹起していると説明、 PCモニターには10の4乗回核融合反応が起こったことを示すグラフが描画されているのでした。 詳細は番組同様門外漢には難しくあれども、 超高温をレーザーに依り齎すのであろうのは想像に難くなく、 其の際には極小の時間単位が重要な役割を占める気もするのですが 番組には其処迄突っ込んだ構成を為して欲しかったものです。

ともあれレーザー核融合に関する代表氏の発言には驚かされること頻り、 毎年10億円の研究費を捻出し続けること早30年となるそうで、 謙遜めいていろいろな国で研究される当該研究はアメリカなどでは国が非常に力を入れて推進しており 恐らく我々規模の企業が取り組むプロジェクトではないとしますが、 まだ20年は掛かるのではないかともし、 目標は長く遠く、次の世代に継承しなくてはならない、との強い決意を表明し、 同時に同社の著しくユニークな在り方を端的に表すものともなっています。

レーザー核融合は未知未踏に挑むことで当初は赤字なれども孰れ儲けは付いてくるとしはするものの、 其れだけではない同社の存在理由こそ未知未踏への挑戦であるのを垣間見せもするのでしたが、 いみじくも代表氏は前代の 愉快に仕事をしろ なる社員への指導の言葉を借りるのも同社の仕事に対する空気が窺い知れる様な気がします。

以上のレーザー核融合に於ける未知未踏への挑戦を同社の一つの哲学とすれば、 また一つ、同社の営利企業としての存続を可能足らしめる哲学が垣間見えるのが 光産業創成大学院大学 にて、同社肝煎りにて2005年に設立された大学院大学であるのでした。 かたむき通信に光産業創成大学院大学で連続核融合反応実験の成功を伝えた2012年4月9日の記事[K1] には軽く流した同大学に関して番組ではもう少し突っ込んだ内容の窺えるものでした。 其の設立理念こそ 光技術のシーズを応用してニーズを探せ と言う現会長氏の強い意志を示す語呂合わせから出来した大学院大学であり、 此の理念を以て同社の確乎たる産業界に於ける位置付けもあるものです。

其の証左には2013年は11月7日から9日に掛けて催された同社の創立60周年記念となる5年に1度の総合展示会 PHOTON FAIR 2013 「光で何ができるか」 (2019年9月28日現在当該ドメインにアクセスすると浜松ホトニクスの当該ページにリダイレクト処理されます。) に参集するにはソニー、日立、コニカミノルタなどの大手企業の名が並び 此処に展示される最先端の光技術には 未来のシーズが埋まっている と述べる処であり、同氏、同社の主張するシーズなる語彙の広き浸透からも見て取れます。

日本に新たな光産業を興すと言う大学の使命を現出すべく同大学に設定されたのが 学生全員の光ビジネスでの起業の前提 でしょう。 レーザー核融合実験に成功を齎す程の同大学で最先端の光技術を学んだ者は 自ら会社を起こすべく仕組み付けられているのです。 現会長氏の意志が同大学卒業者の起こすベンチャーに具現化されるのでした。

使用写真3.浜松ホトニクス市野体育館
使用写真3.浜松ホトニクス市野体育館

学内には一般に想起され得る大学と異なる年配者が多く見掛けられるのは 同大学の使命故であって或る生徒氏の弁には、 うまく最新の光を使って新しい付加価値を付けたいと思って勉強に来ている、ともあります。 斯くして浜松市に光産業創成を担う同大学からは光ベンチャーの続々足りて2013年12月23日現在ホームページには 本学発企業 [起業への取り組み] に27社が紹介され、番組内では同大学内に光産業創成大学院大学企業一覧なるプレートの用意された上には 設立企業の名前が30社、刻印されているのでした。

番組に其の一つが紹介されたのが6年前に卒業して起業したと言う女史が代表となる 株式会社ホト・アグリ にて、光技術を使った商品開発の場とする400坪の農場の温室の中に 短期間で収穫出来る無農薬育成中のベビーリーフなどが画面に映し出され、 此処に6年間で無農薬で出来ている1つの理由がホト・アグリ社の世に送り出した 光で虫をおびき寄せ粘着シートでくっ付ける装置 光捕虫器ホトルイクス であると説明、既に周辺の農家に80台売れているもしました。 農業をテーマにさまざまな光の技術を商品化するホト・アグリ社には 他にも自然光に近いLEDを使用し室内でも野菜を栽培できるキット商品が提案されています。

女史の述懐するに、農業に長年使える光を考え続け、 農業をやりながら本当の光を見付けることが自分の仕事だと考える、とします。 そしていみじくも口にした 光の無限の可能性を信じる とは光産業創成大学院大学の機構が正しく機能しており、 同時に卒業生には浜松ホトニクス社の息吹が息衝いている証左とも言える一言ともなるでしょう。

使用写真
  1. 浜松ホトニクス本社工場(固体事業部)バス停(2013年12月21日撮影)
  2. 浜松ホトニクス本社工場(固体事業部)社屋(2013年12月21日撮影)
  3. 浜松ホトニクス市野体育館(2013年12月21日撮影)
かたむき通信参照記事(K)
  1. 光産業創成大学院大で連続核融合実験に成功~浜松ホトニクス、トヨタ自動車などと連携(2012年4月9日)
参考URL(※)
  1. 良くある質問(独立行政法人日本原子力研究開発機構:2019年9月28日現在コーナー削除確認)
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