デリバティブとは金融派生商品と訳され、
金融取引リスク回避を目的に開発されたものとの触れ込みですが
レバレッジ効果と呼ぶギャンブル的な要素を併せ持てばどうにも危険極まりないものに感じられもします。
金融業界に明るくない企業に於いては金融機関からデリバティブに関する話を持ち掛けられたら、
話半分、眉に唾して聞き流した方が良いのかも知れません。
なんとなればデリバティブと倒産は屡セットであるかの如く共起するからです。
かたむき通信に伝えただけでもギャートルズ肉の
エスケー食品[K1・K2]
がありましたし、高枝切り挟みが代名詞ともなった日本通販の
総通[K3]
がありました。
そして頃日、倒産にこそないものの
事業再生ADRで再建を目指す
旨の情報が伝えられたのが
エドウィンからは2013年11月27日に経営再建としての事業再生ADRについてのニュースリリース[※1] が配信され、翌28日には倒産と誤解を招く報道がなされているのに苦言を呈すのニュースリリース[※2] が配信されています。 東京商工リサーチでは別段問題は無い内容にも思える、 以下引用する配信されていた記事が現在(2013年12月6日時点)では削除されています。
(株)エドウイン(公開日:2013.11.27)
[東京] ジーンズ製造卸
事業再生ADR申請
~事業再生ADRで再建を目指す~
国内ジーンズ最大手、「EDWIN」ブランドで有名な(株)エドウイン(TSR企業コード:290779600、荒川区東日暮里3-27-6、設立昭和44年9月、資本金5600万円、常見修二社長)と、グループ会社28社のうち金融債務のある16社の計17社は11月26日、事業再生実務者協会に対し事業再生ADR手続きの利用を申請した。同手続きは裁判外紛争解決手続きで、倒産を避け事業を継続しながら経営再建を目指す制度。また、グループ会社の(株)フィオルッチ(TSR企業コード:298613697、同所)は外部株主が存在することから、12月初旬に追加する形で同手続きを申請する予定。今後、同協会の審査を経て正式手続きが進められる見込み。
エドウインは、国内ジーンズメーカー最大手、エドウィングループの中核企業。昭和22年、繊維製品を販売する「常見米八商店」として創業し、44年9月にエドウインが設立された。いわゆる「アメカジブーム」を追い風としてジーンズメーカーとして業容を拡大し、63年5月には製造部門を(株)エドウィン商事(TSR企業コード:295130784、同所)として分離。国内グループ企業28社を擁し、生産拠点は東北を中心に12カ所にのぼっている。
グループで「EDWIN」ブランドを中心とするジーンズを製造、販売し、取り扱いブランドは「EDWIN」のほか「SOMETHING」、「C-SEVENTEEN」、「Gold Rush」など。「EDWIN」の「503」拡販に際してはハリウッドの人気俳優のブラッド・ピットを起用したことで話題を呼んだ。また、オリジナルブランドに加え、米国3大ジーンズブランドの一角を占める「LEE」、「Wrangler」の日本における商権を獲得し、売上高は卸売部門のエドウインが平成25年5月期で約261億円、企画・製造部門のエドウィン商事が24年1月期で約300億円をあげていた。しかし、ファストファッションの台頭に加え、東日本大震災の影響などから近年の業績は伸び悩んでいた。また、デリバティブ損失の発生なども噂されていた。
こうしたなか24年8月、グループの経理責任者が急死し、その原因が証券投資の失敗などによる200億円の損失隠しにあることが報じられた。その損失発生に関連して、不適切な会計処理が行われていた可能性があるとして第三者委員会が設置され、これに伴い、グループ全体の動向が注目されていた。その後、取引銀行による10数回にわたるバンクミーティングを開き経営再建策を模索していたが、取引銀行の間でも意向の足並みがそろわず、再建計画の策定がなかなか進んでいなかった。
一方、今年10月21日には都内で取引先約130社を集め説明会を開催。席上では、エドウインのフィナンシャルアドバイザーである野村総研から、業績や資金繰りに問題がないことが伝えられたが、具体的な再建策などについて詳しい説明がなく、関係先の間では困惑の声もあがっていた。
すでに返済の一時停止は行われているが、今回の事業再生ADR申請は第三者的な検証を目的としたもの。再建計画についても同様に検証されていく予定。今後、継続しているスポンサー選定とともにエドウィングループの再建に向けての動向が注目される。
エドウィンのブランド力を其の擁する
一体衣料業界はバブル崩壊以降長期低迷が続く不振の只中にあり、 市場規模は経産省のデータ[※6] の 産業細分類別(産業4桁分類)(昭和47年~平成19年) に依れば 織物・衣服・身の回り品小売業 で見た時平成3年、即ち1991年の約15兆円から右肩下がりで 現在では10兆円程度で推移すれば市場の3割以上は失われている勘定となります。
此の如き不況の嵐の吹き荒れる衣料業界にはかたむき通信にも
五十嵐貿易[K4]
であり、HIPHOPファッションブランドなどの倒産劇[K5]
を伝える事態ともなりました。
其処にはエドウィンと共にジーンズで名を成した
倒産及び経営不振となると財務にばかり話が及びますが、 本来、其処へ至る状況を招いた経営事情が鑑みられるべきでしょう。 其の意味ではエドウィンの経営不振について ファストファッション勢の経営手法の垣間見も一考に値するように思います。
日経BP社日経ビジネスに依れば世界のファッションチェーンの売上高上位10社は 以下の如くとされています。
- H&M
- インディテックス(ZARA)
- GAP
- リミテッドブランズ
- ファーストリテイリング(ユニクロ)
- C&A
- プライマーク
- ネクスト
- しまむら
- アルカディアグループ
実に両社は世界のファッション業界にランキングされる売上げを示す アパレル業界の巨人でもありました。 両社が21世紀に入り衣料業界不況の只中にあって急激に売上げを伸ばしているのは周知でしょう、 2012年の売上げはファーストリテイリング社が 9,286億円しまむら社は4,910億円とされています。
日本処か世界に冠たる両社は廉価を武器にしこそすれ、しかし其の経営手法は対照的でありました。 ファーストリテイリング社が海外に工場拠点を設けたのは知られた話ですが しまむら社は自社では製造をしない iPhoneのアップル社の如き所謂ファブレスメーカーとも思える形態を成しています。 先ずは小売専業であるのですが、 此処がファーストリテイリング社と大きく異なり ファッション業界の両雄が全く方向を違えているのは興味深い点でしょう。
売上げこそファーストリテイリングが上位に立つものの店舗数に於いては其の位置が逆転します。 2013年末現在では売上げ世界5位のユニクロは853店舗に対して しまむらは北は北海道稚内店から南は沖縄石垣島八重山店迄1,293店舗を数え 地方でも都会でも大人気の店舗数日本一のアパレルチェーンでもあるのは即ち、 ファーストリテイリングに比して更に低価格と追求している証左であり、 品揃えの豊富さを伺えば何処のしまむらにも4万点以上の商品が常時陳列され 圧倒的しまむら価格とも言われる其の平均単価は洋品店とは思い難い791円となっています。 圧倒的廉さを武器とするアパレルショップは庶民の味方の名を恣に メインターゲットとする主婦層に強く支持されているのでした。
しまむら社の低廉な価格設定は唯に刹那的なものでも、 胡散臭い戦地にもなきに戦略とやら称すものにもあらずして、 存在理由とも言うべき自らの存立を賭けた固い信念でもありました。 なんとなればしまむらは衣料品小売店としては後発であり、 其処には既にダイエーを始めとした大規模優良店が犇いており 其の中に如何にすれば埼玉という都心を些か外れた地方の衣料店が埋没せずに生き抜き得るか、 と自問自答を繰り返した時辿り着いた結論が、 廉さは大きな武器になる、 同じものであれば廉い方が良いに決まっている、と言う命題であったのです。 最早経営哲学とも言うべき此の信念はしまむらに扱われる商品の値札の全てに記される しまむら安心価格 に凝縮して表されています。 此の低価格への拘りはかたむき通信にも伝えた国内家電量販店最大手ヤマダ電機[K7] の お客さんに取って一番分かり易いサービスは価格であるとする方針 にも通ずるものが感じられます。
しまむら社は1931年、埼玉の地に島村喜一氏を創業者に島村呉服店として創業されました。 1970年には当時未だ3店舗に過ぎなかった島村呉服店に藤原秀次郎氏が入社しています。 1972年には喜一氏の息、恒俊氏に依り株式会社化され、 其の元で手腕を認められた藤原氏は1989年に代表権を持つ専務となり実質的トップとして経営に参画、 翌1990年からは創業家からのバトンを譲り受け社長を務め、 上に記した如き店舗数日本一の衣料品チェーンに成長させる巨大企業としての礎を築きました。 2005年には現社長で当時44歳と若年の野中正人氏を大抜擢し、 自らは代表権のある会長に就くも、当時右肩上がりのしまむら売上げの停滞した時期でもあって、 野中氏から社の進むべき方向が確固足る迄1年の猶予を要請され再び堅調な伸びを見せれば、 然る後2011年5月13日の株主総会を以て取締役を退任しているものです。
而してしまむらのバトンを受け継いだ野中氏の当時の述懐は記事[※7] にも残されており、前社長の藤原氏との資質の相違に言及しつつ、自らの役割を見据えています。 そして今日も驚異、驚愕、日本一の安さで客を魅了させるべく 今や超巨大チェーンともなったアパレル界の巨人にして 今尚、しまむらを率いて堅実な成長を継続せしめているのです。
此の野中氏がテレビ東京の人気番組 カンブリア宮殿 に招かれ、傍からは其の尋常ならぬ成長振り、人気振りに、 異色経営とも超ハイレベル経営とも最先端の経営とも目される しまむら社の其の秘密の一端を 安さの裏に大胆戦略!店舗数日本一“しまむら流”独自経営の裏側 と題された放映回に垣間見せると共に、 愛すべき人柄の滲み出る主役として2013年11月28日、画面に映し出されました。 野中氏の、 安さはとことんまで追求して行きたい、といつも考えている、 とする其のしまむらの金科玉条である低価格追求を遵守する為の施策こそ驚くべきもので、 ホストの村上龍氏をして、 ぶっとんでる、今迄で一番凄い、 と言わしめたのです。
廉さ実現の裏には多大なる努力と実験で導かれた知見が指針として確立、運用されていました。 番組には安さ実現の為のしまむら商法として以下の如く三つに纏めていました。
前者の大量購入に於いてはスケールメリットで低価格実現に良く知られた手法ですが、 後2者はしまむらに特筆すべき手法で野中氏自らが其の理由を説明しています。
3悪に謳われる返品、再値引き、販売応援の要請は 常識的には価格を低く抑えるための手法として巷間言われるものです。 野中氏に依ればしまむら社に於いてこそ或る時迄は、 値引きを沢山貰って来るバイヤーは優秀なバイヤーであり、 返品の交渉を纏めたバイヤーは力のあるバイヤーであった、 とし正に自らが3悪を遂行していたバイヤーであったとします。
しかし此の3悪追放は安価実現に効果的に働きました。 此れを今充分咀嚼した野中氏の解説するに、 ものごとはシンプルなのが一番、 とします。 ものを作るのがメーカーの仕事であり、売り切るのが小売の責任であって 此のシンプルな構造を維持するのが安価実現に与って力のあったのでした。 返品を考えてみれば其れ自体が余計な作業を多く伴うものでしたし、 其の作業が全部無くなったら原価は抑えられるのではないか、と言う疑義がしまむらに惹起されたのでした。 余計な作業をなくし構造をシンプルにしていけばトータルのコストは下がる勘定です。 メーカーだとて馬鹿じゃありません、返品や再値引き分のコストを考慮、 上乗せせずに済めば思い切った値付けが可能となる勘定です。
しまむら本社ビル最寄の埼玉県さいたま市宮原駅には毎週火曜日に 服のサンプルを詰め込んだキャリーバックを転がして多くのサプライヤーが集います。 約500社に及ぶアパレル関連の企業であり、メーカーであり、卸業者である 納入業者の売り手がしまむらとの一斉商談に臨むのです。 前述の通りしまむらでは商品はすべて納入業者から買い付けており、 其の商談が毎週火曜日に催されるのです。 買い付けに当たるしまむらの59人のバイヤーと納入業者が デニムに、ニット、カットソーと様々なサンプルを挟んで熱い商談が交わされ、 取扱商品が絞り込まれ、店舗での品揃えが決まって行くのでした。
業者には老舗福助グループの KBフクスケ株式会社[追] の担当者の顔もあり、 電卓を叩き合いながら厳しい顔の遣り取りが交わされる中、 しまむらバイヤーが今回2型に絞って1万枚やりたい旨申し出れば フクスケ側の…はい、畏まりました、の応答に話しは決まりました。 他の小売との商談に於いては2桁オーダーであるものがしまむら社は日本一の店舗数に依って 1回の商談で1万枚の発注も屡であればメーカーとしては非常に助かる、と言うのです。 一声商談会では其処彼処に次々と1万枚オーダーの商談が決まって行きます。 此れこそ安価実現しまむら商法其の一の超大量購入に他なりませんが、 其処には3悪追放が与って力のあったのでした。 即ち返品無しの掟有ったればこそ業者からすれば量買取で嬉しい商談に違いありません。 以て納入業者はしまむらの最も素晴らしい処と賞賛し、 厳しい卸値を強いられながらもしまむら社の取引相手として喜びを禁じ得ない掟の一つでありました。
販売支援要請とてメーカー側からすれば眉を顰めざるを得ない安価実現策だったでしょうし、 数十年前から秋葉原の電気街でも実によく見られた光景で、 安価を武器に伸し上がったヤマダ電機は其の伝統とも言えるべき手法を 受け継いでいることでも周知されているでしょう。 メーカーは遂に流通に価格決定権から人事の一部迄握られ、 現在の凋落振りを招いているとも言えるのでしたがしかし、 此れを以て自社に有効に働くべき筈のヤマダ電機に於いて、 返品や再値引きについては定かではありませんが、 2011年は創業来初の前年度割れを起し[※8] 遂には今年2013年の9月中間決算に最終赤字に陥ったのは広く報道されたのは記憶に新しい処です。 安売りを以て築かれた地位は今安売りを以て脅かされているのはネットショップ[K8] にショールーミング[K9] のキーワードに明らかです。 ヤマダ電機の現状を見ればしまむらの販売支援要請禁止策が効果的であるのが浮かび上がるでしょうが、 直感的に安価実現に効果的と思われる手法を捨て去るのは並大抵の判断では有りません。 村上龍氏を以てぶっとんでいると言わしめる所以です。 唯我独尊に己の利益だけを図る手法が共存共栄を図る安価実現商法の一つ、 3悪追放に敗れ去った構図が見て取れます。
全国のしまむら店舗には閉店後夜間に自らの流通網であるトラックで 新商品の段ボール箱200箱が届き、凡そ2,000点の新作商品が毎朝に品出しされています。 しまむら各店の商品は、サイズ色違いこそ有るものの全て1点ものとなっており、 追加の補充もなく在庫は抱えない決まりです。 頻繁にしまむらを利用する顧客はシーズン初めに品物を見て、 後で買いに来た際にはもう店頭に見当たらない経験を重ねており、 1枚しか無い商品と分かっているので其の場で買ってしまうと言います。 斯うして直ぐに1点ものの商品が売り切れれば而して最大の無駄である売れ残りが出ない勘定です。
此れこそが安価実現しまむら商法其の三である処の 売り切れ御免 であり、ホストに売れ筋商品でも一点ものにするのは何故かと問われれば 野中氏は以下の如く応えるのでした。 先ず、しまむらは半径1km~2kmくらいの小商圏で商売をする形態であれば、 しまむらで購入した服を着て颯爽と街行くお客が擦れ違い様、 あ、一緒、 となるのを避けたい、と言うのは誰もが経験上強く首を立てに振り振り肯んじられる処でしょう。
そしてもう一つには矢張りしまむらのレーゾンデートルが有りました。 廉く売るためには売り切らなければならないのです。 売れ筋だからと沢山作れば売れ残りが出るのは当然で、 売れ残りに値下げのロスが出れば其の分だけ利益を乗せて売価を付けないといけない勘定であり、 廉く売れなくなってしまうのは必定です。 此処でホストが 機会損失 を問えば、機会損失と 売り切る力 はトレードオフであり機会損失を考えると売り切ることは出来ない、と野中氏は応じます。 しまむらは廉く売ることに専念したいので商品を上手く回転させて最終的に 必ず売り切ることを目標にしているのでした。 此処にも怪しいマーケッターなんぞと言う連中に常識的に曰はられる 機会損失なんぞと言うものには如何に眉に唾せねばならないかも知れるものです。
以上しまむらの安価実現策を商法に追い求め見たものですが施策は其れだけに留まりません。 根本的な信念である安価追求に於ける精神はロジスティクスにも自前方式を齎しました。 しまむらに先行せし当時犇いた世間一般の優良企業の仕組みはしまむら用の仕組みではなくして 自ら試みねば自らに一番いい仕組みはどれか分かりはしない、と言う訳です。 此の精神は実験好きな社風としても顕現しており、 しまむらでは明け暮れ実験が催されていると言います。 実際に遣って見て駄目であれば又元に戻して次の新しい実験を試みることの繰り返しの 其の中に良い方策が出てくれば全店に大きく広げていく、と言う形態が取られているのです。 従って年表を追えば驚くべき事実が浮かび上がります。 実にIT化が早い段階からしまむら社には根付いているのでした。 番組にフリップで提示された年表を以下に記しましょう。
上の1981年のPOSシステムがセブンイレブンより1年早い、となれば其の凄まじさに合点が行くでしょう。 IT化にも助長されしまむらは自ら擁する自社物流を圧倒的ローコスト足らしめました。 今やしまむら社の物流コストは宅配便の4分の1ほどと噂されるのを受けた野中氏は 大きな毛布の箱も小さい箱も全部料金は一緒だが 1個当たりだいたい葉書1枚より安いくらい、50円前後である、と応えたものです。 元来が原価に占める物流費の割合が大きいのは既知の処、 何故其の如く高価になるのか其の理由が分からなかったのであり、 分からないものは自分たちで解決しなければ下げられないとあらば、 自ら遣る他ならず、として自前主義の極IT化ロジスティクスが誕生した経緯です。 最初期は此の如き商品センターらしき試みを10数店舗の少ないうちから 一角を借りてやっていたもの、と野中氏は述懐します。
しまむら哲学の安心価格を生む為には物流革命も辞さないのでした。 而して今、アパレル企業でありながらしまむら商品センターは全国9箇所の拠点と管轄地域を擁し、 就中、埼玉県桶川市桶川商品センターはしまむら最大の拠点として 成田空港手荷物扱い量並みの1日10万個と言う処理能力を誇ります。 自動運搬するベルトコンベヤーの総延長44kmにも及ぶものの 全て自動化されれば此の巨大施設が常時20人ほどの要員で賄われ、 安価実現に与って力のない筈もありませんでした。 又此れ迄各メーカーが中国で生産し独自輸入して後しまむらに卸していた商品経路を しまむらは独自に中国に物流センターを立ち上げメーカーに其処に納入して貰い自ら輸入して、 しまむら商品センターに搬入するようにし、 メーカーの手間や倉庫代を省けるようしたのは徹底しています。 上海から届く大きなコンテナを満たした中身の段ボールには 既に行き先店名を示すバーコードが張られ、 商品の仕分けは終わり、値札まで付けられているのでした。
IT化ロジスティクスは商品センターに留まりません。 しまむらにはバイヤーセクションの隣にもう一つの柱足る部署 コントローラー セクションの有り、商品を売り切るプロ集団として陰に安価実現業務を支えています。 1点もの主義をも辞さない商品売り切りは 完全買取制のしまむらに取って最重要課題でもあり、 売り切る目標としては超大量購入された商品投入から極短期間の1箇月が設定されているのです。 此れを実現させるのがコントローラー部門であり全国規模でしまむら言う処の移送、 即ち売れない店舗から売れる店舗へ商品を移動する権限を持っています。 移送の判断材料は此れ又しまむら独自の方式により算出され、全ての商品毎に属性付けられた指標である 売り切れるまでの日数予測 を元にし1箇月で在庫を1回転させる為には 早くて2週間くらいで判断して売り場から追い出す必要があるのでした。 大規模な移送は年間550件と日に1件以上にも及び、 而して売り切りは実現され畢竟安価へと繋がるのです。
野中氏は実は同社のコントローラー第1号であるそうで 配属された当初の困惑を正直に吐露するものですが、 コントローラーの仕事は店にある商品について全ての責任と権限を持っており、 幾らで売るかも値下げをするのもネットワークを通して全部コントローラーが出来る、とします。 責任と権限はセットでそれを明確にしていき、 明確にして行けばリスクが全部見えて来、 リスクが見えれば合理的な運営が出来て行く、ともし、 此処にもしまむらの安心価格に賭ける執念と 其れを実現させるに最先端のITを駆使する手法が見てとれるものです。
野中氏は3悪は教わったのではなくそういう風に言われた、としますが 斯うして見ると指示したであろう側の前代社長の藤原氏の慧眼は 恐らくは前々代創業家より進められたIT化に依るデータの蓄積も有ってのことでしょう。 3悪バイヤーとしての野中氏へ厳命となり、 自らの手法を突然3悪と言われて、 え?勘弁して下さいよ!、 と困惑し従う上では当時の取引先に満面の笑みで、 野中さん、返品するとクビなんだって? と突っ込まれ、 五月蝿いな、 と返したものだと失笑しながら語る氏の人柄を伺わせるエピソードも披瀝されたのでした。
野中氏の与り知る処ではないのでしょうが、何故メインターゲットを地方の主婦にしたのか、 との問いにはしまむらの創業時の自らの存立を賭けた安価追求への決断に 絡み合うとも言える問題定義を孕んでいました。 氏の思う処で応じるに、安い家賃で出せる場所で一番多くの人がいてしかも財布の紐を握っている人、 そうすると主婦にならざるを得なかったのじゃないかな、とし、 其れが見事に当たっていると思う、とするのは 斯くも企業の顧客設定は重いものと思わせられるエピソードでもあります。
主婦と言う女性をターゲットとするに安価であるだけではならないのは論を俟たず、 年に6回程の海外店頭リサーチを行うなど、 絶えずアンテナを張り巡らし売れる商品を発掘し続けるバイヤーの努力に依って、 しまむらの商品が安いだけではない、ファッション性も高くファッション誌を飾ることも屡とあらば 主婦ならぬ女性若年層迄拡がり、当該層を主体とするしまむらの熱狂的ファンを称して しまらー が生まれるのも宜成る哉、と言うものです。
顧客のみならず従業員側にも女性が大活躍するのがしまむら社の特徴で、 費用を会社が負担する充実した社員旅行や 主婦に優しい勤務形態、勤務時間、実践的詳細マニュアルの完備など 活躍し易い環境を整備するしまむら社の施策も垣間見えるものの 実際に或るパートから店長になった社員の述懐が最も以て理解を促進するでしょう、 曰く、家庭を持つ主婦に取ってこんな働き易い職場は無く、 システムとマニュアルが完備され迷い無く仕事に没頭出来、 作業時間も計算されていて残業が無く 其れでいて遣らされ感がない、とするものです。
兎角人間味を主張する自称人格者などに嫌われるマニュアルですが、 しまむらの充実したマニュアルなどはV時回復を果たした 無印良品[※9] と近いもので若しかしたら時期的に考えれば主導した 松井忠三 氏の念頭にはしまむらがあったかもしれず、 野中氏の述べるマニュアルとは、仕事はなるべく単純にして、 難しいことをどれだけ簡単に出来るでしょうかというのがしまむらのマニュアルの基本であるとします。 勿論見るために有るマニュアルを全部覚える必要などないとし、 全部なんて覚えらんないですよ、私もだって覚えてない、 とにこやかに語る野中氏は此処にも其の暖かい人柄を伺わせます。 スタッフから改善案を募集し年間5万件もの提案が届く中から 有効な提案には500円、採用された分には1,000円が提案報奨金として与えられれば 斯うしてしまむらのマニュアルは中味もどんどん変わって行き 進歩するマニュアルが同社の主戦力であるパート社員をますます働き易くしているのでした。
しまむらの店舗では7割が女性店長で其の殆どがパートから昇格したものである、とする パートこそしまむらの最大戦力と考えられていもします。 店長になるときに正社員になって貰い、 其処からは男女の区別もなく高い脚立にも登って貰うのだ、 と野中氏が述べるにもどうにも厳しさが感じられなく思うのは失礼ながら、 泥棒など考慮して残業は店長含めて禁止であって よしんば残業を余儀なくされる何某かがあろうとも其の際は全員残業とするのは、 此れもしまむらの社員への配慮を感じられる処でしょう。 斯くして職場としてのしまむらはパートの主婦に優しく、 番組インタビューに答えるパートの主婦は、働きやすいし、楽しい、と笑顔で答えるのでした。
社員旅行なども相俟ってしまむら店舗は家族的雰囲気に溢れ、 頃日、Twitterに炎上を招いた土下座強要[※10] は大変残念で考えさせられる事件でしたが 其処迄して職場を守ろうとしたしまむら店員諸氏の心根が 本記事を通して垣間見える様な気もするのです。 此の辺も ブラック企業 となれば必ず名の挙がる有り難くない状況が知られている、 ユニクロ、ファーストリテイリング社との対比が興味深くあるものです。
何故ずっと右肩上がりの売上が可能なのかと問われれば野中氏は しまむらは兎に角日常で使うものを低価格で、お客様に安心して買って貰える様な売価で提供したい、 此れをずっとやり続けている、と答えました。 此処にもしまむら社を一貫して流れる新年が表出したものです。 然る後、ファッションの真ん中ですからね、 と野中氏の相好を崩しての発言に、 流石言葉のプロ足る村上氏が間髪入れず、 ファッションセンターですもんね、 と返せば嬉し恥ずかし野中氏は初めてのデートの待ち合わせ場所でセーラー服の乙女の様が遣って来た彼氏に挨拶する時の様な小声で、 …なんちゃって、 と顔を綻ばせるのでした。
安さを追求し数十年に渡り業績を伸ばして来た企業にも様々有り、 ヤマダ電機は今期赤字へと転落する中、 衣料業界大不況の中、世界に冠たるアパレルチェーン2社が日本には有れば、 一方の雄、ファーストリテイリング社に売上こそ譲るものの、 さて此処に見て来たしまむらの廉さに掛ける執念の凄まじさには 己の存在価値を賭けたる確固として理由があり感じ入らせられました。 決してエドウィンも然う在れ、と主張する訳ではありませんが、 多くの企業がしまむらを参考にしているのも事実、 同じくアパレル業界に身を置けば、他業界よりはロールモデルとして屹度活きぬ筈もないでしょう。
追記(2020年4月11日)
KBフクスケ株式会社 は 福助株式会社 が、 カネボウストッキング株式会社 を子会社化して社名変更した企業でしたが、 2015年12月1日に親会社に吸収合併されため、 現在Webサイトはアクセス不能となっています。
かたむき通信参照記事(K)- ギャートルズ肉のエスケー食品倒産~まるでバブル崩壊の再来(2012年5月25日)
- ギャートルズ肉のエスケー食品を追い込んだデリバティブ取引(為替予約契約)と金融機関の責任(2012年6月11日)
- 日本直販インターネット対応後手に回り業績低迷~総通が民事再生法適用申請(2012年11月9日)
- 五十嵐貿易自己破産~激変する衣料品関連業界を垣間見る(2012年8月16日)
- HIPHOPファッションブランドSWAGGER(スワッガー)とPHENOMENON(アリソン)自己破産申請(2013年2月6日)
- ジーンズメーカー株式会社ボブソン(BOBSON)無念の破産、ファストファッション勢に破れ消滅へ(2012年6月11日)
- ビックロと家電量販店上位3社の方策(2012年9月28日)
- 曲がり角の家電量販店~YKK戦争も今は昔、忍び寄るネットの影(2012年9月27日)
- ショールーミング現象は嘗て小規模家電小売店を駆逐した家電量販店の基本施策の安売り手法の新形態(2012年11月20日)
- 事業再生ADRによる経営再建について(EDWINグループニュース:2013年11月27日:2020年4月11日現在EDWINサイト内にニュースリリース確認不可)
- 弊社の事業再生ADRに関する一部報道について(EDWINグループニュース:2013年11月28日:2020年4月11日現在EDWINサイト内にニュースリリース確認不可)
- エドウイン破綻で「ジーンズ業界」消滅(日経ビジネスオンライン:2013年12月4日:2020年4月11日現在記事削除確認)
- 綻びが破けた老舗ジーンズメーカー「エドゥイン」駆け巡る倒産情報(ライブドアニュース:週刊実話:2012年11月30日)
- 巨額の投資損失、不正経理発覚のエドウイン、救うのはトヨタ?(ビジネスジャーナル:2012年9月25日)
- 時系列データ(経済産業省:商業統計:平成21年4月22日)
- しまむら(2)~いま必要なのは「舵取り」の先見性(nikkei BPnet:ビジネススタイル:2005年7月27日:2020年4月11日現在記事削除確認)
- 【ビジネスの裏側】あの「ヤマダ電機」も赤字撃沈、ネット通販の「猛威」…住宅事業と提携、捲土重来を期す家電量販店の“逆襲戦略”とは(産経WEST:2013年12月2日)
- なぜ無印良品業務マニュアルは1683ページなのか 「ニュースな会社・経営」と数字のウラ側(PRESIDENT Online:2009年10月22日)
- 「しまむら店員に土下座強要」で「炎上」した女性が逮捕(The Huffington Post:2013年10月7日)
- 「真のブラック企業」より「ワタミ」「ユニクロ」が叩かれる理由(J-CAST会社ウォッチ:2013年11月18日)