Apple Watchと機械式腕時計の最大の相違点

正式名称決定以前は iWatch と実しやかに呼ばれる頃からかたむき通信に伝えてきた Apple Watch[K1] も今春Apple社イベント Spring Forward に正式に発表され世の中喧騒[K2] すれば漸く今月4月24日の発売に向けつい先日4月10日に予約を受付け始めましたが 最初から1箇月分のバックオーダーを抱えていると好調ぶりを伝えるものもあれば iPhone有ってこその周辺機器で有れば初速こそ勢い宜しかろうものの忽ち失速するだろうとするアナリストなども見受けられるようです。 ともあれ前評判相応のインパクトを以て世界中に迎えられているのは間違い無いでしょう。

前評判は世間一般以上に既存腕時計業界に高いものだったと知れるのは 其の代表足るSwatch社が憂鬱をあからさまにし[K3] 業界内ではSwatchグループに対峙すべく立場を取る筈のLVMHグループからは切り込み隊長足るべく Tagタグ・ Heuerホイヤー がスマートウォッチ提供の公式発表[K4] をしているのはApple Watchを牽制するかの如く時期を申し合わせたように感ぜられもする程です。 世評としても CartierカルチェIWC の腕時計を代々家系に伝える筆者の手になる Apple Watchの基本3モデルの内最高級にランクする Edition なるレンジモデルは高級腕時計に対して挑発的だとする記事[※1] がApple Watch発売直前の本日17日になってWSJから配信されるなどしています。 孰れ痕跡を留めるのみにて廃れ行くだろうと帰結するのは古典的タイムピースを愛する筆者らしいドラマツルギーですが タイトルに蝕を冠する辺りなども鑑みればまるでSwatch社CEOの一般ファンへの投影の様にも見えます。

Jonyジョニー・ Iveアイブ 氏がApple社創業者スティーブ・ジョブズ氏の生前から既にApple社のキーマンとして在ったのは持てるデザイン力の成せる技でしたが 伝記を読むに彼の常なる製品創造への取り組み方として其の製品の在り方から熟考する方法がありiPhoneも其の成果の一つとしてあり Apple Watchも此の手法を以て開発が進捗されたのは 彼の腕時計に対しての考え方が語られるインタビュー記事[※2] から強く伝わって来ます。 iPhoneで言えばホーム画面に当たる初期画面に時計文字盤が割り当てられるのは腕時計を強く意識して作られているからこそです。

Apple Watchが単に新奇なデジタルガジェットにあらずして 既存腕時計界の懸念を杞憂で済まぬ事態とせしめるのは上記した如く 普及帯のSportsモデル及びスタンダードモデル足る無印の上に最高級ランクとして用意される Editionモデルにて此れが高級腕時計と競合すべく販売の目論見が立てられているのは ファッション業界へ訴求するに始まり頃日話題となったのは本邦伊勢丹に特設コーナーが設けられ[※3] たのは発売も近付いた今では公式サイトに記されもし[※4] また世界で唯一Apple Watchを取り扱うソフトバンクでは期待のロボットpepper君が割りを喰う[※5] などしてもおれば如何見ても唯に腕時計の新モデル、若しくは 新デジタルガジェットの登場に収まる程のイベントの枠からは食み出ています。 管見にディスカウントショップで扱われるクォーツ腕時計の如く Android Wear製品が扱われているように見えるのとは様相が大きく異なって見えます。

Macbook Air 2013年モデルのMagSafe(マグセーフ)
Macbook ProのオールドモデルとMacbook Air 2013年モデルのMagSafeマグセーフ

斯くも鳴り物入りで登場する状況の出来したApple Watchに於いては さて競合と見られ当該業界大立者連の憂鬱を惹起し蝕とも表現される大きな影を落とす其の先の 高級機械式腕時計と比較して如何なるものでしょうか。 勿論此処にデジタルとアナログとかいうアナクロな事を言う積りは毫も有りません。 其の最大の相違点とは磁石の活用にあると考えます。

Apple社は従来電源コネクタのマグセーフやiPadの純正カバーなど磁石を積極的に使用して来ました。 コンピュータ機器は強力な電磁気の発生源として機械式腕時計は忌み嫌われる一つでもありますが 自身に取っても積極的に受け入れて良いものでなければ遮蔽効果を謳う機器は多かったもので Apple社以前に積極的に磁石をコンピュータ機器に活用する企業はなかったように記憶します。 インタビュー露出の少ないとされるジョニー・アイブ氏ですが嘗て何某かの機会に目にした少ない記事の一つには 或る時ジョブズ氏が磁石の情報を携え来たりアイブ氏に使えるか如何かの相談が有ったとしてありましたが 其れが其の後のiPadの2代目からのオプションとなるスマートカバーに活きたそうです。 以降Apple社は磁石を自社製品に活用するに吝かではありませんでした。 此れ等経緯から考えればApple Watchのストラップや電源コネクタに磁石機構を採用するのは当然の流れとも言えるでしょう。

翻って高級機械式腕時計を見れば磁石との近接は禁忌の一つとしてあります。 OMEGAオメガ のキャリバー8508が抜きん出た超高耐磁ムーブメントとして脚光を浴びる[K5] にも其処にこそ理由が有るのでした。 微小金属の集合体とも言える機械式高級腕時計の一つ一つの金属片が其々に帯磁し 其々に引力と斥力を及ぼし合えば完璧なる小宇宙のバランスが忽ち崩れてしまい忌み嫌われるのも宜成る哉、 精密な調整を以て保たれていた生態系を崩される磁石など積極的な活用は考えらる筈もありません。

磁石は目に見えぬ電磁気力の作用に依る引力、斥力で今以て吾人を引き付けて已まず、 子供向けには砂鉄遊びから玩具にも多く使われ不可思議さから手品の種としても大人迄首を傾げさせ、 延いては遂に高級服飾品足らんとするApple Watch Editionにも採用されました。 以て機械式腕時計に対するアドバンテージにならぬと誰が言い切れるでしょう。 未知数な点、明確に劣る点を抱えるものの、此の活用機能に関してだけははっきりと 機械式腕時計に勝ると自負して宜しい要素足る磁石の採用こそ競合との最大の相違点として挙げて宜しかるべしと考えるものです。

追記(2020年5月1日)

新宿伊勢丹の特設コーナーは Apple Watch の高級路線を目論んだ初期に設けられたものでしたが、 同ガジェットが徐々に其の性格を一般向けに変じれば遂に役目を終え、 2018年5月13日に閉店の仕儀[※6] と相成りました。 其の日を迎える際には、世界でただ三つの Apple Watch専門店でも最後に残された店舗であって、 スマートウォッチの代表格として世に充分に浸透すればショールーム的役割をも果たし終えたものとも言えます。

かたむき通信参照記事(K)
  1. Apple Watch正式発表~iWatch関連記事インデックス(2014年9月28日)
  2. Apple Watch登場前夜関係各界喧騒す(2015年2月28日)
  3. SWATCHの憂鬱~スマートウォッチショック(2014年8月27日)
  4. タグ・ホイヤー・カレラ・スマートウォッチ2015バーゼルワールドに登場す(2015年3月19日)
  5. オメガ・コーアクシャル・キャリバー8508発表~抜きん出た超高耐磁ムーブメント(2013年1月21日)
参考URL(※)
  1. Will the Apple Watch Eclipse the Classic Swiss Watch?(WSJ:2015年4月17日)
  2. The man behind the Apple Watch(How To Spend It:Technology:)
  3. Apple Watch Store新宿伊勢丹、1階カルティエ横にオープン予定 (ギズモード・ジャパン:2015年3月16日)
  4. Apple Watch at Isetan Shinjuku(Apple)[追]
  5. Apple Watch予約開始 アクセス殺到の裏でとばっちり食うPepper(週アスPLUS:2015年4月10日)
  6. 伊勢丹新宿のApple Watch専門店、5月13日で閉店!(iPhone Mania:2018年4月22日)
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