限界費用ゼロ社会の詭弁『グーグルが消える日』書評

限界費用ゼロ社会 〈モノのインターネット〉と共有型経済の台頭(The Zero Marginal Cost Society)』 の著者 Jeremyジェレミー・ Rifkinリフキン 氏は 限界費用ゼロ社会 とはまさグーグルの世界 だと断言しました。 創業初期に無料サービスの継続性について尋ねられ、最終的に市場独占に言及した Googleグーグル 共同創業者の Sergeyセルゲイ・ Brinブリン 氏は2014年にリフキン氏へ社内講演会依頼しています。 其の折りの様子が共有されていますので以下に埋め込み置きましょう。

Jeremy Rifkin: "The Zero Marginal Cost Society" | Talks at Google

世界のあらゆる機器やモノがIoTに組み込まれ、ネットワーク効果による豊かさの享受可能な新社会では、 ソフトウェア、ニュースやエネルギーなど、財やサービスを追加で生み出す費用が ゼロ になり、其の一つに検索サービスが挙げられるのでしたが、 確かにグーグルは検索エンジンを創業から一貫して無料で一般に提供しています。 無料は人々の注目を集めるに効果的で、大いに検索サービスの利用をも促進するからです。 しかし Georgeジョージ・ Gilderギルダー 氏はグーグルの検索サービスに於いてさえ人々の費やす対価はゼロにはならないと真っ向から反駁します。 人々は金銭で対価を支払っているのではなく、時間と言う最も稀少な対価を支払っていると主張するのです。 ギルダー(以下、著者)氏の近著 『グーグルが消える日』(原題『Life after Google』) (以下、本書)の中に於いてです。 以下に参考の為に本書の章立てを記し置く中に、第4章「限界を迎えた「無料」戦略」の60頁、61頁に語られる処ですし、 実は著者は2016年の著書『The Scandal of Money(マネーのスキャンダル)』 の中でも、時間は貨幣という形で経済と結びついている、と述べている処です。

  • はじめに
  • 第1章 まもなく“グーグルの世界”が終わる
  • 第2章 グーグルが築いた“世界システム”とは?
  • 第3章 グーグルの“ルーツ”を探る
  • 第4章 限界を迎えた“無料”戦略
  • 第5章 “グーグル後の世界”10のルール
  • 第6章 グーグルの心臓「データセンター”の実情
  • 第7章 “機械学習”は本当に成功するのか?
  • 第8章 人間を超越した金融取引の秘密
  • 第9章 AIは、人間を超えられない
  • 第10章 シリコンバレーに新風を巻き起こす若者たち
  • 第11章 ビットコインは“救世主”なのか?
  • 第12章 ビットコインの創設者?クレイグ・ライトの主張
  • 第13章 “グーグル後の世界”を牽引する企業の誕生
  • 第14章 “インターネット”をグーグルから奪還せよ!
  • 第15章 “プログラミング言語の生みの親”の挑戦
  • 第16章 縁
  • 第17章 “スカイ・コンピューティング時代”の幕開け
  • 第18章 アメリカの“進化”を阻む大学教育の弊害
  • 第19章 通信業界の規制を乗り越えろ!
  • 第20章 グーグル帝国の逆襲
  • 第21章 ビットコインには“欠陥”がある?
  • 第22章 大規模な“アンバンドリング”
  • おわりに 新たな世界システム

時間こそ、繰り返し本書に最も稀少だと言及され、 更には第21章「ビットコインには“欠陥”がある?」の360頁には、 「経済学では、本来、貨幣とは貴重な時間の指標である」と、 其の稀少さ故に貨幣の基準とまで主張されています。 然れば、限界費用ゼロ社会とは最も高価な支払いを必要とする社会とも換言出来るでしょう。 土台が限界費用ゼロ社会などとは、永久機関と一般で魅力的で取り憑かれやすい概念ではありますが、 極々普通に考えれば実現不能なのは明々白々にて、 処が一定条件下にはさも実現した様に観察され得る面も見えるのが厄介な代物でもありました。

経済学者でもある著者は、本書に於いて経済への言及も、 インターネットやコンピューティング、数学などと共に主たる比重を占める一つです。 経済に重要な貨幣に関しては、周知の如く今世紀初頭、大きな変革が有りました。 ビットコイン の登場です。 24を数える章立て題目中にも3回見えれば、本書に最も頻出度の高い言葉の一つと言えるでしょう。 本書はつづめて言えば、 グーグル世界 から グーグル後の世界 へのパラダイムシフトを予言する一書です。 其の予兆が、数学、経済、インターネット、コンピューティングなどの分野の状況に見られるとの主張なのでしたが、 ビットコインは此のパラダイムシフトに力添えする技術として、 特に其の属性の一つ ブロックチェーン に著者は注目しているからでした。 ビットコインについては本ブログとは別の技術ブログ Acenumber Technical Issues に2013年大晦日付で ビットコイン2013年末まとめ を配信してもい、当該記事配信当時は謎の人物とされた「中本なかもと哲史さとし」を本書第12章「ビットコインの創設者?クレイグ・ライトの主張」では、オーストラリア人実業家でコンピュータ科学者の Craigクレイグ・ Wrightライト 氏の蓋然性の高さを取り上げてもおり、本書にも重要な立ち回りを演じるライト氏ですが、 第11章「ビットコインは“救世主”なのか?」179頁に「2018年の年初時点で、サトシ・ナカモトが保有していると思われるビットコインの価値は、約100億ドルにのぼる」とある通り、 億万長者、若しくは伝説の人物として既に示寂しているかと思えば然にあらずして、実に俗世間的な人物であるのが面白く、 また何故ライト氏が「サトシ・ナカモト」を名乗ったかを問われるに、 第12章「ビットコインの創設者?クレイグ・ライトの主張」の198頁に「日本には、取引について語った徳川時代(1603〜1868)の思想家がいる。 その名前に、偶然サトシ・ナカモトの名前の一部が含まれていた。その人物は、ナカモトと呼ばれ、開かれた日本を目指していた。」 と書かれているのに仍って調べれば確かに 富永とみなが仲基なかもと が浮かび上がり、日本人には経済人として知られるより、 加上かじょう 概念の提唱者として知られるのが面白くもあるかに思うものの本題からは外れますので此処に深くは触れませんが、 本邦にもっと取り上げられて然るべき人物であるのを図らずもライト氏に諭されたような気がします。

ビットコインについて ビットコイン2013年末まとめ には「如何に流通する貨幣価値が担保され得るのかをも顧みさせ、 貨幣経済の根本についても考えさせられるもの」としている如く、 本書でも仮想通貨を取り扱う以上、貨幣の本質に思いを致さざるを得ず、 随所に貨幣というものについての考察が見えます。 例えば第18章「アメリカの“進化”を阻む大学教育の弊害」の307頁には 「貨幣に価値が生じるのは、何百万件もの取引を可能にしたり、それだけの数の取引を評価したり、時空を超えて運べるように貯蔵したりできるだけの力を持っているからである」 とされていますし、 第21章「ビットコインには“欠陥”がある?」では特に貨幣の有効性の支えを検討し、 従来の法定通貨が如何にして有効足り得、そしてビットコインには何が不足しているのかについて、金本位制との関係から論述しています。 法定通貨の金本位制との曖昧模糊とした関係性こそ有用で、 金本位制を忠実に、厳格に模したと主張するビットコインには鷹揚さが足りない、とでも言ったら良いでしょうか、 英米で三百年来機能してきた金の裏付けが百パーセントではない金本位制は、 プログラミング的に言えば長年月でバグの出切った枯れたシステムとも言え、 新興のビットコインはまだまだバグ出しの必要がある、とも取れます。 此の章の361頁には、現金として使われる可能性がある物質は、富の指標であって、富そのものではない、と勘違いされ易い貨幣の意味が指摘され、 貨幣の役割としては此の章の364頁に、 価値基準、貨幣単位、取引媒介手段が挙げられています。

貨幣単位に関しては本書終盤の第22章「大規模な“アンバンドリング”」の378ページに、 国際単位系(Système Internationale、SI)がビットコインの比較例に紹介されています。 SIが定めた7つの測定単位を列挙すれば、 時間の秒、長さのメートル、重さのキログラム、熱力学的温度のケルビン、電流のアンペア、分子数のモル、光度のカンデラ、 が在って、孰れも物理定数に基づいている周知され切った単位にて、吾人が生活に如何なる恩恵を享受しているかが容易に窺い知れるでしょう。 此れ等単位は、産業の基礎となり、互いに結び付け、決して揺らぎません。 著者が「通貨は測定するものであって、測定する対象の一部ではない」とする処です。 通貨は商取引を超えたメタ的領域に在ってこそ価値指標の基準となるべきが、 volatilityボラティリティの高い投機対象と化した現在の仮想通貨の状況では、 まるで測定される側のモノやサービスの一部であって、実に貨幣としては頼りないものです。 以上から従って、著者はビットコインよりは、擁するブロックチェーンにこそ大きな期待を寄せているものです。

因みに、一旦貨幣の本質を鑑みるに当たっては、勿論数学世界で大立者であるのは一般に周知され切っていもする Isaacアイザック・ Newtonニュートン が、後のグーグル世界に大きな影響を与える情報理論に先立って猶重要たりながら、 糅てて加えて金本位制を提唱していたのも意味深げな所縁ゆかりでしょう。 頃日、GAFAと言い、GAFAMと言うグローバルな大手IT企業のいいにも、 書題に特にグーグルを冠しているのは、 第2章「グーグルが築いた“世界システム”とは?」の26頁に新たな世界システムの主役こそがグーグルであるからと説明され、 斯くあればグーグル世界と其の後の世界の転換が本書の主題と成り得ていますが、 ではグーグル世界の以前は如何なる世界であったかと言えば、其の始原にニュートンは在りました。 本書評では簡便に世界と記していますが、本書に世界とは 世界システム を意味し、此の造語をなしたのもニュートンの著書『Principiaプリンキピア』第3巻の書題の 「The system of the world」です。

一体、現今の国際社会に於ける日本の位置の凋落は日本史上の鬼っ子団塊の世代[K1] 以降が齎した数学教育の軽視にこそあり、 GAFAMにインド人が多く首脳たり得ているのは数学重視の教育故程にも現れているでしょう。 実際、世界の根幹には数学者が通底して価値観の源泉を齎しているのでした。 本書、29頁から36頁に至る世界システムの展開に登場する主要な数学者を列挙すれば、 ニュートンと此れに対する Leibnizライプニッツ が先ず在り、 此の後暫く間が空くのは主に後継者として物理学者が挙げられるからで、 当然、GaussガウスEulerオイラー Riemannian リーマンなどの歴々が在って、 次いで Hilbert ヒルベルトBertrandバートランド・ Russellラッセルvonフォン・ Neumannノイマンが在って、 其の支援を亨けて大転回を齎した Kurtクルト・ Gödelゲーデルが在り、 Alanアラン・ Turingチューリングが在って、 Boltzmannボルツマンも継ぐ Claudeクロード・ Shannonシャノン、そして現在の Gregoryグレゴリー・ Chaitinチャイティンの在る系譜が綴られています。 此の系譜を継ぐものこそ、 「知識の理論」(ビッグデータ)と「頭脳の理論」(AI)を以て貨幣ならびに市場経済の新たな概念と倫理観を提示したグーグルであり、 グーグルこそ世界システムを開発し、実現した史上初の企業であると、著者は37頁に述べているのです。 ニュートンに始まり、グーグルに帰結する世界システムが今限界を迎え破綻の危機に面していると言うのが著者の主張ですが、 世界は単純なる一本筋の小説にあらねば、此れが本書をまるで論理破綻しているかの様に受け取られ兼ねない要因にも感じられるのは、 実に此の数学者の系譜に其の萌芽は萌していたとしか捉えられない事実があるからです。 ゲーデルの 不完全性定理 であり、チューリングの言う Oracleオラクル(神託)です。

貨幣の価値を思う時、グーグル世界の経済的なポイントが「無料」にて、これこそ限界費用ゼロ社会の主張の源泉です。 しかし著者は第2章「グーグルが築いた“世界システム”とは?」の末尾に、 この地球上に真に「無料」のものなど存在しない、と主張するに加えて、 「価格がゼロ」こそが、何よりも有害でグーグルの失敗を決定づける致命的な欠陥であることがまもなく証明される筈である、とするのです。 第5章「“グーグル後の世界”10のルール」の91頁には セイレーンサーバ なる言葉がグーグルの巨大データセンターの比喩として登場します。 巨大データセンターを擁するIT業界首脳に、 ギリシャ神話のセイレーンが一時的な支配という幻覚を催すべく怪しく歌い掛ける、と言う塩梅です。 第22章「大規模な“アンバンドリング”」の379頁に 「光の速度や人生のスパンという本来ならどうしようもない限界を超えて取引件数を増やし、アルゴリズムを加速させて、時間の希少性をごまかそうとしている」 とする現状を憂い、しかし孰れ此の幻想の破綻を以て「無料」の詭弁は通用しなくなる道理ですが、 もう一つ、グーグル世界のインターネット上に於けるポイントが顧みられぬ「セキュリティー」であり、 此れをグーグル後の世界で解決する技術がブロックチェーンであると言う寸法です。

セキュリティーが顧みられないとは、 一般的に最高の技術力を保有し、提供するシステムも破られ難いと見做されるグーグルに違和感を覚えますが、 著者は第1章「まもなく“グーグルの世界”が終わる」の17頁に於いて、 「インターネット上のセキュリティーは明らかな崩壊を迎えている」と明言しています。 第3章「グーグルの"ルーツ"を探る」では、グーグルの呑気な感覚からぽっかり抜けたセキュリティーにも言及されています。 しかし第4章「限界を迎えた“無料”戦略」68頁に 「グーグルはセキュリティーに関する責任を顧客に負わせるという傲慢な保証をオンライン上に掲出する。」 とあれば些か様相は変じてくるでしょう。 著者の言う「セキュリティー」を「プライバシー」と考えれば、合点が行き易いかも知れません。 ユーザーたる吾人はグーグル世界の支配者層にプライバシーをないがしろにされている、 と換言しては言い過ぎかも知れませんが、第13章「“グーグル後の世界”を牽引する企業の誕生」の226頁の 「インターネットのセキュリティーが甘ければ、財産権やプライバシーを保護することも、安全で効率のよい取引を提供することも、 マイクロペイメント(少額決済)によるスパムの阻止、信頼性の高いID情報も確立することもできない。」を読めば、 仔細が知れるでしょう。

グーグルに代表されるGAFAMなど大手IT企業が自社サービスへのログインを以てセキュリティーを確保しているかに見えるのは、 囲い込みに過ぎず著者は此れを第13章「“グーグル後の世界”を牽引する企業の誕生」で 「データサイロ(貯蔵庫)」と呼んでいます。 データ貯蔵庫に保存されたデータが、決してデータを属性として有する本人のものではないのは他社サービスとの相互利用が不能であるのに示され、 データ保管企業のものであるのは明白です。 しかし此の「データサイロ」への囲い込みはインターネットのグローバルな普遍性を崩壊させ、セグメンテーションに拍車を掛けたと著者は嘆ずるのです。 データサイロへの囲い込みは、換言すれば大手IT企業による中央集権制を意味します。 此れは本来、生みの親 Timティム・ Berners-バーナーズ=Leeリー 卿に分散型を志向されたインターネットとは相反する状況でもあり、 実際にバーナーズ=リー卿が望んでいない状況であるのは、本書にも特に第13章に言及されています。 無料サービスはインターネット当初の理念である分散化の糊塗と中央集権化招来の為の詭弁であり、 限界費用ゼロ社会は無料サービス肯定の為の詭弁である、とも言えるでしょう。 またデータサイロ囲い込みの中央集権化は如何に固く護った積もりでいようとも、 欲すべきデータが一箇所にまとめられた点では、此れを狙う者には願ったり叶ったりの状態でもあるのでした。 著者の望むのはGAFAMに因って変質したインターネットのバーナーズ=リー卿の創出したプライマリパラダイムへの回帰であり、 回帰した社会を「グーグル後の世界」と呼んでいるのでした。 初め性善説に拠って成ったインターネットは軈て怪しからぬ輩の影に怯えて幾つかの脆弱性を抱えるデータサイロに分断されては、 安全で信頼出来るインターネットは性悪説にしか齎され得ない、と言う些か釈然とはしない性質を顧みさせ、 インターネットのアンビバレンツな面、二律背反性を考えさせ、 此処にもゲーデル的転換に依存する認識が必要不可欠となるのでしょう、 今やインターネットはチューリング謂う処の神託を必要としています。

斯くて著者はブロックチェーンに大きな期待を寄せます。 第14章「“インターネット”をグーグルから奪還せよ!」232頁にはブロックチェーンを用いれば、 大手IT企業にデータを預けながらも「データの所有者が主体的に管理を続けられる」ものとします。 第17章「“スカイ・コンピューティング時代”の幕開け」299頁に思わず膝を打つ巧みな言い回しが見られるのは、 現在のインターネットを称して グローバルなコピー機 と比喩するもので、セキュリティーの脆弱で動作が安定しない状況を揶揄するものを、 ブロックチェーンは、一旦登録するや一切データ変更の不能なデータベースを提供し、 以て信頼出来る仕組みの構築を齎し、グーグル世界をグーグル後の世界へと転換せしめる、と言うのでした。 貨幣の根本に思いを致させ、包含する仕組みたるブロックチェーンの有用性を以て、 著者はビットコインを時代の転換点に重く見ているのです。 第17章は題目自体に巧みな言い回しの スカイ・コンピューティング も含まれており、此れは著者が クラウド・コンピューティング に相対する者として本書に提唱した概念です。 技術ブログ Acenumber Technical Issues では2008年7月27日に 規模の経済の一効験/クラウド・コンピューティング 、2010年9月17日に クラウドって何? を配信しており、其の登場時には理解され難い クラウド なる新概念も、世に周知されるに従い21世紀のコンピューティングの主要概念の一つとなって、 最早近年には空気が如き在って当たり前の様相を呈していました。 著者は此れを真っ向から否定し新しく新概念を提唱するに当たって、 クラウドを灰色領域の比喩と見て、其れに青空を連想させるスカイを対置しているのです。 此処に何故クラウドを暗雲めいた意に解釈するのかにこそ、セキュリティーの問題があり、 大体がクラウドも囲い込みの一つであり、データサイロの主要素でもありました。 此の闇に閉ざされ見通しの効かない霧中をブロックチェーンを以て雲散霧消せしめて広がる晴れやかな空が、 セキュリティーの確固たる透明性の高い次世代コンピューティング世界を表現しているのでした。 登場時の目新しさに目を奪われていた儘の身に取っては目から鱗が落ちる感もあり、 其の言葉遣いに 天晴あっぱれ と賞賛を贈りたくもなります。

本書の要点たる グーグル世界 から グーグル後の世界 へのパラダイムシフトは、 中央集権制インターネットからデータの解放された民主制インターネットへの転換、とも換言出来るでしょう。 セキュリティー的に穴だらけの脆弱なインターネットは一部のIT事業者に牛耳られ、 当然ながら富は支配者に偏在しました。 自らの中央集権化のデータサイロに囲い込めば囲い込む程、 其れに向けた情報発信については権力者に従わなければ二進も三進も行かない状況が、 グーグルに於いてはSEOと略称される検索エンジン最適化であり、 webサイト運営者が上位表示に血道を上げている現況に表れてもいるでしょう。 併せて広告では、 第4章「限界を迎えた“無料”戦略」62頁に 「グーグルは、ユーザー数が数十億人に達するウェブプラットフォーム上位6サービスのうち5つのサービス、 ネット上のビジネス機能上位14項目のうち13項目を保有しているにもかかわらず、 エンドユーザーからの収入は全体の5%にも満たない」なる言及から、 此処のユーザー数とは即ちエンドユーザー数であり、此れを無料を餌に囲い込んでいる様子が窺い知れ、 其の前頁に 「私たちは無料サービスによってグーグルのたくらみと落とし穴に誘導されている。 必要のない定期購読の自動更新や、画面のポップアップ広告、ポップアンダー広告に表示される偽造の当選、優待、賞金などのことである。 これこそが、グーグルの“無料の世界”の実態だ。グーグルは、あなたの“財布”を飛び越えて、あなたの“時間”、 つまり“人生”を奪おうとしている」とあり、 真のユーザーたる広告主の意向を受けた広告を、囲い込んだ閲覧を望まぬエンドユーザーに見せて当該社の主要な収入源にしている様子が示されています。

著者は此の富の偏在と其の凋落の予兆を述べるにも巧妙な比喩を用いています。 Midasミダース touchタッチ です。 第8章「人間を超越した金融取引の秘密」の123頁に 「自分が手に触れるものを何でも黄金に変えられるという望みをかなえたが、愛する娘も抱きしめて黄金の彫刻にしてしまった」 と言うギリシャ神話のMidāsミダース王の悲劇を招いた能力が説明されており、 グーグルも此の能力を手に入れ、コンピューティングの進歩が以て金融にも革命を引き起こした、 其の業界の当該能力を手に入れた代表としてヘッジファンド ルネッサンス・テクノロジーズ を挙げています。 元来、金融はコンピューティングと相性の良い属性を有しています。 仮想通貨の登場し、インターネット上の取引が膨大になれば、即ち、金融にも影響していた、と考えられるのは当然です。 コンピューティングの進歩に依り限界を超えて取引件数を増やし、アルゴリズムを加速させたのは、金融取引も一般でした。 ミダースタッチを手に入れたルネッサンスがリーマンショックさえも避け得て利益を上げ続けている事実を、著者は具体的な数字を上げて述べています。

ルネッサンス社の手法については128頁に「ルネッサンスは、 ほかのファンドのように巨大レバレッジに頼って破綻するような事態は避け、データ処理を重ね、大規模なマルコフ連鎖をつくり、 市場での相関関係や可能性を探し出し、どのファンドよりも多くの取引を繰り返して成長してきた」と説明しています。 シャノンに先行したロシアの Andreyアンドレイ・ Markovマルコフ の提唱した離散的確率過程を言う マルコフ連鎖 はグーグル世界に重要な役割を果たしていたのでした。 事象が独立して確率的にのみ連携するのであれば処理速度は大いに高められる道理です。 グーグルの検索エンジンも事象を独立させて速度を優先して膨大なデータを処理し得ているなどマルコフ連鎖の大きな恩恵を受けています。 ルネッサンスもグーグルもマルコフ連鎖と言うミダースタッチを得て富の集積が図られたのでしたが、 しかし此れは孰れ破綻する運命でもあると著者は看破するのです。 第14章「“インターネット”をグーグルから奪還せよ!」の234頁の ブロックスタック 開発者の言を借りれば、 インターネット向けの安全なプロトコル層の開発というネットワークの基盤に関わる問題の解決がうまくいけば、 ユーザーの個人情報、資金、権限、財産は、上層のアプリに集約されることなく、ユーザーが管理でき、 中央集権化社会からデータの民主化が図れますから必然、富の偏在も解消される勘定になるのでした。 ブロックスタックなるプロジェクトで開発される技術に於いてはセキュリティーは厳しく、作成後に変更できないデータベースがブロックチェーン上に設けられ、 重要なIDや個人情報やポインターが、そのデータベース内のアドレスに保存できるように設計されています。 此処にもブロックチェーンに対する著者の期待が見て取れます。 マルコフ連鎖というミダースタッチを手に入れたグーグルもルネッサンスもやがて絶望を味わう、 其の世界こそがグーグル後の世界という見通しです。

本書116頁、117頁に、 「マルコフ連鎖を積極的に取り入れ、強く影響を受けているのは、紛れもなくグーグルの基盤となるアルゴリズム“ページランク”であり、 インターネット全体でペタバイトレベルのデータを網羅している。 グーグルの検索エンジンは、ウェブ全体をマルコフ連鎖と考え、 特定のページがユーザーを満足させる確率を把握できるようになっている」 ともありますが、頃日には、DeNAのキュレーションサイト WELQウェルク 事件に見られたYMYL(Your Money or Your Life)問題などでは、 マルコフ連鎖の申し子として離散的な確率過程に依存する以上避けられない、 各事象の連絡を捉え切れないと言う状況の存して、 此の認識外は一時的でいつか解決されるべき小事にはあらずして、 実は此れこそ閉じた世界の不完全性の象徴であり、 最早外部世界からの神託無ければ、弥縫してもし切れぬ根本的大事にて、 若しやグーグルの検索エンジンは限界を露呈しつつあるのかも知れず、 著者の予言は的中しつつあるのかも知れません。

ゲーデルが数学だけでなく、すべての論理システムについて不完全性と矛盾は避けられないと証明した不完全性定理は、 第9章「AIは、人間を超えられない」の150頁でチューリングがシステム外からの知性の供給とした神託が必要にて、 グーグルも今や此の神託を必要としているのかも知れません。 著者は此の神託について期待を寄せる新進気鋭の人物及び新興企業についても幾つか挙げています。 先ず筆頭に挙げられるのは第10章「シリコンバレーに新風を巻き起こす若者たち」以前に、既に第9章「AIは、人間を超えられない」に登場する Vitalikヴィタリック・ Buterinブテリン でしょう、仮想通貨プラットフォーム Ethereumイーサリアム の開発者です。 第10章「シリコンバレーに新風を巻き起こす若者たち」の167頁にはルミナー・テクノロジーズを2012年に設立した Austinオースティン・ Russellラッセル が登場します。 ルミナー・テクノロジーズではグーグルなど競合他社のものに比べて格段に高精度で、自動運転の目となるレーザーを使った計測システム、コアセンサーである独自の ライダー を開発、ハードウェア製造におけるアメリカのイノベーションの再生を目論んでいます。 第11章「ビットコインは“救世主”なのか?」184頁に登場する嘗てモザイクの若手開発者であり、ネットスケープの創業者でもあった Marcマーク・ Andreessenアンドリーセン も壮年期ながら其の一人でしょう、186頁ではビットコインに否定的な面々に対し、 アンドリーセンは冷笑を浮かべ、「自分たちが理解できないテクノロジーを評価しようとしない金持ちで年寄りの白人は、ほぼ100%間違っている」 と言い切ってもおり、新興界隈のメンター的立場にあるようです。 上に記したブロックスタックの主要開発者である Muneebムニーブ・ Aliアリ は第13章「“グーグル後の世界”を牽引する企業の誕生」212頁に登場します。 アリが2013年の春に打つかった奇妙な壁こそセイレーンサーバであり、 其処ではセキュリティーやプライバシーが守られず、利益を得るのは大手IT企業ばかりであり、 分散型ピア・ツー・ピアを重視しつつ、自らが初めて体験した時のインターネットのプライマリパラダイムの再構築の目論見が、 ブロックスタックの開発へと繋がっています。

第15章「“プログラミング言語の生みの親”の挑戦」の章題こそ誰あろう、 JavaScript を10日で書き上げたと言えば現インターネットの功労者とも言えるでしょう、 Brendanブレンダン・ Eichアイク 氏を言っています。 インターネットユーザーはプライバシーを侵害されている、との主張から開発された Brave ブラウザでは広告に関して誰もが得をするウィン・ウィン型のソリューションを提供し、 また此のソリューションを構成する要素やプロトコルは、将来のウェブ標準に成り得る、との主張は、 望まぬ広告というノイズが通信料金の殆どを占める様な顧客の状況を改善し、 極めて低い従来のコンテンツ・サプライヤーの地位を引き上げ、 延いてはプラットフォーマーを中抜きにするべく目論まれています。 此れを実現すべく介在する トークンベーシック・アテンション・トークンBAT) です。 此処で tokenトークン とは一般に耳慣れないかと老婆心を発揮すれば、 本来、証拠や引換券、商品券などの意味を持つ英単語にて、 IT分野では屡、何某かの証や印になるべきデータを言います。 また一般的に仮想通貨は其々独自のブロックチェーンを擁しますが、 トークンは既存のブロックチェーンを流用し、BATではイーサリアムが採用されています。 253頁には豊富な情報中にも「時間」の貴重さに変わりはなく、見識者の多くが此れを換言するに、 BATの命名中に在る「アテンション(注意)」と呼んでいる、ともしており、 ブレイダン・アイク氏と著者は軌を一にするかの如くあります。 ブレイダン・アイク氏はBATの イニシャル・コイン・オファリングICO) を以て、Braveブラウザの開発資金をも調達しています。 此の如きレジェンド的存在のブレイダン・アイク氏も著者が神託を期待する一人でしょうし、 氏と著者が初めて会う場を提供したロサンゼルスを拠点とするスタートアップの OTOY も其の一つでしょう。 OTOYは3D動画にて名を上げた Julesジュールス・ Urbachアーバック氏と、 Alissaアリッサ・ Graingerグレンジャー氏に共同設立され、 デジタルコンテンツに於ける著作権埋込にブロックチェーンを利用する技術と其の普及を目論んでおり、 260頁の最早、 ディズニー、ユニティ、フェイスブック、オートデスク、エヌビディア、アマゾンなどと肩を並べるとする著者の主張の処の存在感には些か驚かされます。

第16章「縁」に登場するのは Stephenスティーブン・ Balabanバラバン にて、吾人に聞き馴染みは余り多くはないかと想像しますが、 彼こそ現在iPhoneに搭載される顔認証システムの原型の開発者と言えば、 著者に神託を期待される一人であるのも肯んぜられるでしょう、 アップルの合併・買収リスト[※1] の73番目に、2015年9月に「Machine learning, Image recognition」を以て買収されたとある Perceptioパーセプシオ での顔認証システム開発コアメンバーの一人こそが、彼でした。 自らはLambdaラムダ・Labsラボ を設立して開発したディープラーニング機能を搭載した画像編集用ソフトウェア「ドリームスコープ」をweb上に公開すると非常な評判を呼んだのは良いものの、 バラバンを悩ましたのは有料ユーザーで補完し切れない無料ユーザーに応える為のAWSのクラウドコンピューティング料金でしたが、此の解決策こそが ゼロ・トゥ・ワン であった、と著者はします。 ラムダ・ラボがAWSから転ずるべく最初は自社用にゲーミングマシン用のGPUクラスタボードを用いて開発した機械学習用サーバは、 一般向けに Deep Learning DevBox として提供されると大当たりを収めたのでした。 此の手法こそセイレーンサーバを葬り去る尖兵と、直感的にも理解されます。 次章、第17章「“スカイ・コンピューティング時代”の幕開け」に「コンピュータのためのエアビーアンドビー」なるキャッチフレーズを以て登場するのは Golemゴーレム です。 ゴーレムが提供するのは、グローバルなコンピュータ・ネットワークに通常であれば休止状態の膨大な数のラップトップ、タブレット、スマートフォンのリソースを、 経済的なインセンティブの見返りとして借り受け、 此の世界中のコンピュータの処理能力やストレージなどの余剰能力をまとめ上げた上で、 必要とするユーザーに供給するシステムですから巧いキャッチフレーズを付けたものだと感心させられるのは著者ばかりにはないでしょう。 以てセイレーンサーバを無効化せしめプラットフォーマーの介在は排除せしめられるでしょう。

此処迄、著者の神託を期待する新興者を幾つか挙げて来たのを見てみれば、 グーグルの世界はインターネットに拠って旧来の仲介者を中抜きしプラットフォーマーが此の世の春を謳歌する世界でしたが、 ブロックチェーンの神託を受けたグーグル後の世界は此のプラットフォーマーを中抜きする世界である、と換言しても良いのかも知れません。 第17章「“スカイ・コンピューティング時代”の幕開け」の298頁には、 此れ等新興者の多くは失敗するかも知れない、詰まり幾らかの犠牲は伴いながらも最低限、 閉鎖型のサイロになっているウェブは開放され、巨大データセンターは無効化され、 延いてはグーグルのサイロとなった世界は開放される、と明言しています。 此れ等、著者の神託を齎すかも知れない人々と其の技術を知っておくのは、 若し読者が情報技術を以て何某かを世に仕掛けんと思うのなら、留意しておくべきは必須でしょう。

著者は1993年にデジタル携帯電話の登場を予言した 『テレビの消える日』 を上梓していました。 本書の序章「はじめに」8頁には 「後に聞いた話では、スティーブ・ジョブズがiPhoneを考案するかなり前、この本を読んで仲間に勧めてくれたらしい」 と此の前著に触れています。 実際に現今鑑みれば、テレビは凋落し、 Steveスティーブ・ Jobsジョブズ 氏の再発明した携帯電話たるスマートフォンが世を席巻しています。 斯くてジョブズ氏率いるアップル社は時価総額世界一となると共に時価総額1兆ドルを突破[K2] した史上初の企業となったのでしたが、 恰も著者とジョブズ氏が協力して、最も確実な未来の予想は、自らの未来の創造である、を実践したかの感さえあり、 未来を言い当てた、とするのが本書の前評判でした。 本書に於いて強いて予言的言及を取り上げれば、其れは軽い添え物に過ぎませんが、此処に幾つか拾い上げておきましょう。

  • 68頁、セキュリティーが基本的要件となる、グーグル後の“新たな世界システム”は、“クリプトコズム秘密保持の世界”と呼ばれるようになる
  • 76頁、有料情報があふれ、自分のほしいものや必要なものが最も効率的に手に入るようになる
  • 76頁、被バイアウト目的の“ユニコーン企業”は上場に向かう“ガゼル企業”に追い散らされ、最終的には立場が逆転する
  • 91頁、電子工学と光学の進化上の集束点に集約されたソリューションが恐竜サイズのコンピュータを耳の中や信号経路に挿入可能とする
  • 109頁、メガワット級の電力消費量、大型エアコン設備の空調費用よりも、人間の脳のエネルギー消費の仕組みについて関心が持たれ、AIは人間の脳の代わりではなく、人間の脳を再現する方向に向かう
  • 110頁、すべてのAIが、シリコン製の基盤ではなく、カーボンベースの素材を使用しなければならなくなる
  • 278頁、分散化ネットワーク、携帯電話での顔認証、自動車や可動コンテナのデータセンター化といった時代が新たに訪れ、“スカイ”コンピューティングの時代が新たに幕を開け、“クラウド”コンピューティングは姿を消す
  • 371頁、ビットコインは通貨としての基本的な役割を果たすことはできず、政府や中央銀行からの避難所、もしくは大規模なイノベーションであるブロックチェーンの隠れ家を提供する
  • 391頁、GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトというコングロマリット)に於いては機能の分散が進む

第二のスティーブ・ジョブズ氏が本書を閲すれば、以上列挙した予言とは異なる予言を其処に読み取るかも知れません。 本書が前著同様に世に重要な一書となるか如何かは、無論、何某かを読み取る貴兄次第です。

さて、以上が本書の本題についての考察になりますが、本書終盤の 第18章「アメリカの“進化”を阻む大学教育の弊害」、 第19章「通信業界の規制を乗り越えろ!」については米国事情となり、本邦吾人には些か迂遠な感は否めなくも、 少しく感じた面もありますので、最後に補遺宜しく書き記しておきたいのは、 有識者と評判を取る連中から屡聞く米国事情とは異なる様相を呈しているのを其処に読み取れるからです。 日本の大学教育に比して理想的な教育手法の取られるとの賞賛の目立つ米国の大学教育ですが、 前者からは「弊害」の二字に違和感を覚えざるを得ません。 しかし本書に新興者の支援者として重要な役回りを演じる Peterピーター・ Thielティール 氏が2011年に創設したティール・フェローシップでは研究奨学金を提供の条件として、 20代前半までの若者であり、 学校の休学または退学 が挙げられ、実際、上記した新興者が被支援者であるのを見れば本邦に理想的と喧伝される米国大学教育が大きな問題を抱えるのは明らかでしょう。 また後者に於いても同じく、屡日本の法律が時代遅れで弥縫的で微に入り細を穿ち過ぎていると批判されるものの、 第19章を読めば米国の通信規制、延いては行政、立法が日本と同様の問題を抱えているのが明らかにて、 とても所謂有識者の漏らす理想的な米国事情とは懸け離れた感が否めません。 例えば327頁にアメリカ連邦通信委員会(FCC)の裁定としてIPアドレスを“単に電話番号を別の形態で表していたもの”とするのは、 本邦に各官庁が様々な新仕様を己が管理下に置かんとする姿勢と同じですし、 例えば344頁にはアメリカ商品先物取引委員会が仮想通貨を“金融商品”とみなしている、とあるのも、 同頁に「規制当局は余計な介入の機会を増やそうと業界に目を光らせている」とある状況が、 主語の修飾に“日本の”を加えても違和感がなく、 まるで揶揄される場面の多い日本と変わる処が無いではないか、と吾人の多くが思うのではなかろうかに推察します。 斯くある感は読み手に依っては、上に列挙した以上に随所から受け取り得るかも知れず、 米国崇拝の向きには少しく憑き物が落ちる効果を本書は有するかも知れません。

本書に飽く迄否定され続けるグーグルと其れに代表される世界ではありますが、 インターネット所生の当該社がインターネットに齎した恩恵はしかし敬意を以て遇されるべきだとは思います。 以前とは隔絶した検索能力の提供のお陰で、 本記事の執筆者に限っても多くの便宜を受けているのは間違いありません。 しかし、社是「Don't be evil(邪悪になるな)」を以てインターネット界隈に諸手を挙げて迎え入れられ、順風満帆に見える同社も、 其のコア・コンピタンスたる検索エンジンは上記したように若しや神託を必要をする場面を迎えているのかも知れず、 プライバシーに付いては欧州を中心に強い突き上げを被り、 大きな転換の局面を迎えているのも確かでしょう。 本邦でも 公正取引委員会 が先月8月末の29日には、プラットフォーマーと呼ばれるIT企業を独占禁止法で規制するための指針案を公表した旨、大手各メディアが挙って報じる処です。 情報量、交渉力の強い位置を用いて個人のデータを吸い上げる行為はプラットフォーマーが独禁法違反に抵触する恐れ有り、 として監視の強化を決定したものと伝えてもいます。 此の様な、おかみが乗り出す状況が招かれてみれば、 グーグル終焉前の今は日本のバブル景気の弾ける前の感じに相似する印象も有り哉、無き哉、 皆なで寄ってたかってグーグル潰しに躍起になって、 いざ潰してみたらバブル景気崩壊の後の失われた十年と続く無残な低成長が待っているのかも知れず、とも考えれば予断は許されません。 実際、著者の前著『テレビの消える日』に於ける 広告についての予言は実現されなかったのみか正反対の状況が出来すれば、 軈て『グーグルが消える日』が到来しても、 予言の不完全性を以て、新しい不都合な真実が生まれるのかも知れません。

書籍『グーグルが消える日』2019年6月25日撮影
書籍『グーグルが消える日』2019年6月25日撮影

20世紀末のテレビの後のグーグル世界を予言したとも言える著者には、 実際に訪れた其の世界は蝶よ花よの求める理想的世界ではなく、 怪しからぬ面が多々見て取れるのだと思います。 斯くあれば、本書題目の「グーグルが消える日」の後に訪れる グーグル後の世界とは著者に仍る、予言の世界、と言うよりも 「グーグル世界へのAntitheseアンチテーゼ」 とした方が著者の気持ちを代弁するのかも知れません。 グーグル世界を著者のグーグル後の世界が置き換えるのではなく、 グーグル世界と言うグーグル同調者シンパが真と主張する命題を Theseテーゼとして定立するのに対して、 著者は、グーグル後の世界と言う、一見「予言」と見れば把握し易い命題をアンチテーゼとして提起している、とも考えられます。 軈て両命題はaufhebenアウフヘーベン(止揚)し、 Syntheseジンテーゼ(統合案)へと 昇華 してグーグル後の世界が実現するのだ、 と考えて良いのかも知れません。 斯くあってくれれば時系列に前後して排斥し合って生まれた其の後の世界よりも、 吾人に歓迎される統合世界が実現する可能性は高まるものでしょうし、著者の期待する神託とは斯くこそ在るべき本性を備えたものです。

かたむき通信参照記事(K)
  1. 大阪都構想住民投票に於ける世代バイアスを考える(2015年5月24日)
  2. アップル社によるマイクロソフト社時価総額世界一記録の更新を見る(2012年8月21日)
参考URL(※)
  1. アップルの合併・買収リスト(Wikipedia)
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